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大和田:「苦しい、何なの、この匂い、…藤森さん、どうして藤森さんも、私の事、苛めるの?…藤森さんも、私がいけなかったって、そう言うの?」
千恵子は、顔を押さえてしゃがみ込み、指の間から細目を開けて、私の事を、…探してる?
大和田:「藤森さん、何処へ行ったの? 藤森さん? お願い、私を、一人きりにしないで、…」
こんなに直ぐ傍に居るのに、千恵子には、私の姿が、…見えていない? どうして?
一体、何が、どうなってる??
関目:「コイツには、自分の見たい物しか見えていない。 聞きたい物しか聞こえない。 元々、人間はそう言うモノだが、死んでしまったら余計に酷くなる。 残留思念には、変化したり成長したりする事は、出来ないからな。」
関目:「そして、茜お嬢さんの持つ「メデューサの瞳」(注、ナザール・ボンジュウの事、関目は真名を呼ぶのを敢えて避けたと思われる、)には、あらゆる邪悪な行動を制限する「呪力」が秘められている。」
藤森:「アンタ、何、言ってるの? さっき迄、私、千恵子と話してた、…それに、他の人だって、千恵子と一緒にいて、…」
私は、…思い出す。
C組のもう一人の「討論大会係」の女子は、千恵子を苛めて無視してた。
地下室で怒鳴ってた男の先生は、謝ってる千恵子に聞く耳を持たなかった。
「御局先輩」は、私と千恵子が雑談してるのを、怒ってた。
そうじゃなくて、皆には、…最初から、千恵子が、…見えてなかった?聞こえてなかった?
美弥子に、千恵子が見えない様に?
藤森:「茜、…アンタには、…千恵子が、見える?」
三条:「御姉様、私には、その「千恵子」と言う女の子の姿は見えません。 私が感じるのは、御姉様に何か危険な事が起きているって言う、事だけです。」
何で、そんな事を言うんだ?
藤森:「本当に、…千恵子が、見えないの?」
関目:「其処に居るのは、人間でも、魂でもない。…悪霊が、大和田千恵子の記憶と思いをコピーしただけの、単なるマヤカシの存在だ。」
関目:「悪霊は、「寄リ坐シ」の精神を喰らって、人体と一体化する。 悪霊には元々色は無い、「寄リ坐シ」の色に染まって、「寄リ坐シ」の意識と記憶を奪って、成りすます。 そうなれば最早、悪霊自身にも、自分が悪霊だったのか「寄リ坐シ」なのかは、見分けがつかない。」
何で、そんな酷い事を言うんだ?
だからって何で、コノ子が、何時も何時も、苛められなければならないんだ?
「変態」の言ってる事は半分も理解出来ないけど、…千恵子が苦しんでいるのだけは、判る。 誰にも判ってもらえなくて、途方に暮れている辛さだけは、判る。
藤森:「茜、止めて、千恵子をこれ以上、苦しめないで!…可哀想でしょ!」
三条:「御姉様、でも、…」
アンタ達は、自分がそんな風に言われた事が無いから、…知らないんだろう。
認めてもらえない、かまってもらえない、仲間に入れてもらえない、寂しさを、…知らないから!
藤森:「茜!…私の言う事が聞けないの?」
三条:「はいっ!」
茜が、ナザール・ボンジュウを掌の内に隠し、…途端に、不可思議な青い光が、消失する。
私は、千恵子の下に、駆け寄って、…手を差し伸べ様として、
触れない? いや、触るモノが無い? 何を触れば良い?
其処に千恵子が居る筈なのに、其処に何も無い事を、私は知っている、頭が、…混乱する?
関目:「お前の偽善に満ちた見せかけの同情等、その女の下には届かない。 何故なら、そいつは、自らの罪の意識を後悔する為だけに存在しているのだから。…悔やみ、痛み、悲しみ続ける事こそが、ソイツの望みなのだ。」
藤森:「嘘、私、千恵子といっぱい話したもの、…友達になったもの、…」
関目:「それは、お前が勝手にでっち上げた、お前に取って都合の良い解釈に過ぎん。」
変態中年男は、地面に四つん這いに鬱伏す、千恵子の直ぐ傍迄歩みよって、…懐から、小さな青磁の壷を取り出し、その「何も無い」千恵子の頭に、壷の中に入っていた物を、…掛けた。
それは、ピンク色の水飴の様な粘り気のある液体?
それは、驚くほど柔軟な、ウミウシ?
大和田:「ぎゃあああああああああぁx…!」
見る見る内に、千恵子の顔が、溶けて行く、…
大和田:「ぐぅわあぁぁ…! うぐぅう…! 痛いぃ…!」
藤森:「なんなの? …ソレ? …何をしたの?」
千恵子の顔が、蛞蝓の様に蠢く、ピンク色のウミウシに、…喰われている?
関目:「これが「アメミット」、「悪霊殺しの武器」だ。 いずれは、お前もこの痛みを味わう事になる。」
変態が、死んだ魚の様に濁った目で、じっと、私の事を、…値踏みする。
関目:「お前は、本当に、まだ人間なのか?」




