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東野陶子の告白は、俄には信じ難い内容だった。 だって、本当に彼女が言っている様な事件が起きたのだとしたら、ドウシテもっと警察やマスコミは騒がなかったのだろう? 学園の理事や三条家みたいな権力者達が揉み消した? それだって限界があるだろう。 何しろ、死人が出ているのだ。
でも、彼女の話は大筋で、あの変態中年男の言っていた事や、茜が調べた情報とも一致する。 それに、あの決死の形相からは、彼女が母親とグルになって偽りを述べている様には、…どうしても思えなかった。
それは逆に言えば、もっと胡散臭い「悪霊」とか「呪い」とか言う得体の知れないモノを、気の迷いだとか錯覚だとか言って、慰めてくれる材料にはほど遠く、…私はイヨイヨ覚悟決めて、自分の身体に起こっている現実を、目を逸らさずに受け止めなければならないと、突きつけられている様な、そんな窮屈な感覚に囚われていた。
藤森:「あーあ、受験終わったばっかなのになぁ、」
もう一つショックだったのは「悪霊に取り憑かれたという男から、どうやって悪霊が取り除かれたか」という事なのだけど、その答えがよりによって「警官に撃たれて死んで、それで悪霊は少なくとも3年間は封じられた」と言う事なのだとしたら、殺されなきゃならないなんてのは絶対にゴメンだ。 唯一最大の手掛かりだと期待していた私の落ち込みは、どうしたって隠し様が無い。
美弥子と茜が、後部座席の私の両サイドに座って、先程から心配そうに私の事を、見詰め続けていた。
藤森:「でも彼女、今年から学校に来ている筈よね。つまり生きてたって事よね、」
そうだ、全く手掛かりが失われた訳でも無い。
名前の分からなかったもう一人の犠牲者が、どうやら「舘野涼子」らしいと言う事が判った。
萱島:「せやな、1年の期末テストで一番取ったん、彼女やったしな。」
藤森:「C組の生徒名簿を見れば、彼女の連絡先が分かる筈。…何とか話、出来ないかな。」
茜が、何だか腑に落ちないような、不審そうな顔をする。
三条:「そうですね、…」
藤森:「どうかした? 難しそう?」
三条:「いえ、そうじゃなくて、…もしかしたら、私、涼子さんを知っているかもしれません。」
藤森:「知っている? 彼女の居場所を、知っているの?」
三条:「ええ、宜しければ、今から会いに行って見ませんか?」
そう言う経緯で茜の車は、そのまま、私達の学校のお客様駐車場に、…乗り付けた。
運転手が後部座席のドアを開けて、並んで座った私達3人が、トコロテン式にゾロゾロと車から降りる。
黄昏時の学校は、お盆休みと言う事も有って、今迄以上に閑散としていた。
本当に、この学校で、3年前に、そんな凄惨な事件が起きたのだろうか?
ちらりと一瞥した図書室の窓に、千恵子の姿が見えた。
あれからずっと私は学校に来れなかったから、彼女が一人で図書委員代行を勤めていた事になる。
私の全身に、何だか、突然、イラっとした、…嫌な気分がブリ返す。
その瞬間!確かに、私に気付いた筈の千恵子の顔が、醜く、忌々しそうに歪んだ、…そんな風に見えて、
そしてその侭、千恵子は、私に気付かなかった振りをして、カーテンの向こう側、図書室の奥へと、…姿を隠してしまった。
途端に、私は、大事な事を、…思い出す。
未だ、私を地下の図書棚で押し潰そうとしたり、鼠の屍骸が頭の上に落ちて来る様に悪質な悪戯を仕掛けた犯人の事を、解決できていないじゃない!
本当に、もしかして、千恵子が、…犯人なの?




