登場人物紹介
――そこは神の山ではない。ただ、記憶を奪われた者たちが彷徨う哀しい牢獄だ。
「ライジング・オカルト地所」の調査依頼に応じ、三つの事故物件へと散っていった者たち。
それぞれの目的も、抱えた痛みも、まるで違う。
彼らがまだ知らない因縁と、その隣に立つ者たちを紹介する。
◆調査に赴いた三人
●市原終
配信者/担当:葦北の古民家
登録者数を増やすことに必死な心霊配信者――というのは、半分だけ本当だ。
もともとは新聞の社会部にいた男で、現実主義を鼻にかけて生きている。だが、無念を残して死んだ霊の前では、カメラを止めてそっと線香をあげてしまう。そういう甘さを、彼はいつまでも捨てきれずにいる。
幼い頃、つないでいた小さな手を離してしまった。その後悔だけが、今も胸の奥で疼いている。
考えごとをする前や、腹を決める前には、きまって煙草に手が伸びる。火をつけられない場所では、箱の角を指で叩いて、間を持たせる。長く抜けない、彼の癖だ。
●如月科学
大学生・オカルト研究会/担当:神奈備山の洋館
怪異など存在しない。あるのは、まだ観測されていない環境要因だけだ――そう言い切る、徹底した現実主義者。
スマートフォンのログ、気圧センサーの変動、低周波の解析。手にした数字の一つ一つで、彼は「幽霊」を丁寧に論破していく。冷たいほどに理屈が通る。
ただ、その冷たさが本当は何を守るための鎧なのか、本人だけが気づいていない。
なにかを考え込むとき、指の背で鼻の頭を擦る。無意識の癖だが、幼馴染の舞は、それが彼の"本気で悩んでいる合図"だと、とうに見抜いている。
●九条蓮
高校生・ミステリー研究会/担当:巨石の豪邸
現場に足を運ぶより、椅子に座ったまま謎を解くほうが性に合う。いわゆる安楽椅子探偵だ。
他人になど興味はない、という顔をしている。けれど誰よりも早く、誰かの孤独の匂いを嗅ぎ当ててしまう。だから疲れる。だから、無関心なふりをする。
眼鏡の奥の目が、ふいに鋭くなる瞬間がある。考えがまとまると、指先で眼鏡を、くい、と押し上げる。その仕草が出たら、たいてい、なにかを解いている。
自分とどこか似た面差しの男が、すぐそばにいる。そのことに、まだ、誰も気づいていない。
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◆隣に立つ者たち
●浅倉結衣
ミステリー研究会
考えるより先に足が動く、行動派の少女。
殻に閉じこもった蓮の腕を、半ば強引に掴んで外へ引っ張り出す。本人にそのつもりはないのだろうが、彼女の光は、暗がりに慣れた目にはいささか眩しすぎる。
●神楽坂舞
オカルト研究会
人の心を読むことにかけては、科学の理屈よりもずっと確かだ。心理分析を得意とする。
科学の冷たいロジックの裏に何が隠れているのか、たぶん彼女は最初から見抜いている。救いたい相手が一人いて、そのための不器用な優しさを、静かに抱え続けている。
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◆彼らを見下ろすもの
●ライジング・オカルト地所
ポップな「Webクエスト」を装い、依頼者を三つの神域へと差し向ける謎の不動産会社。
同意書に紛れ込んだ「主観時間の延長」という異様な免責事項を、女性社員は笑顔で読み上げる。人の運命を、事務的なマニュアルで淡々と処理していく――その手つきが、何よりも寒い。
●三つの神域に潜むもの
葦北は、心を映す。神奈備は、記憶を書き換える。巨石は、時間そのものを歪ませる。
三つの事故物件の奥で、誰かがずっと待っている。
それが何なのか、なぜそこにいるのか。
その答えにたどり着いたとき、最も恐ろしいのは怪異ではなく、人間の果てしない愛だったと知ることになる。
※この物語は、三組の視点を細かく切り替えながら同時進行します。
離れた三つの空間が、やがて一つに繋がっていく感覚を、どうか味わってみてください。




