清掃処理班
後方支援の処理班といっても、参謀本部付きともなると良い部屋をあてがってもらえるそうだ。
本来の仕事は事故調査の鑑識などが主の、地味ながら軍の運営には重要な仕事であるから、当然だが。
「我々が担当したのはたまたま偶然だろう。他の班だって、別の日には稼働している」
日を改めての早朝すぐ、重厚なオフィスで廣瀬と対峙した清掃処理班長の城島大尉は、最初から喧嘩腰だった。
「他班の処理したものを集めても、何か偶発的な共通点があるかもしれないだろ?そんなこと我々が知るわけない。それに守秘義務もある。処理した部屋については何も話せないさ」
廣瀬の質問を最後まで聞こうともせず、城島処理班長は拒絶と否定の言葉を並べた。
彼にしてみれば、どちらかといえば後方支援の、用がない限り前線の花形兵科たちからはあまり重要視されない清掃処理の仕事に、エリートの法務部がケチをつけてきてるも同然なのだろう。妬みでひねくれてるというより、自分の仕事にプライドを持ってやっているからこそ、よそ者が口を挟んでくるのを不快に思うのだ。
「捜査をしている。協力して欲しいんだが?」
廣瀬も、(ただの“雑用”科が粋がってやがる)という多少のあざける思いがある。もちろん、表情には出さないが。
「捜査?何の?明確な理由を教えて欲しいもんだな。だいたいちゃんとした捜査なら、ちゃんとした手続きを踏んでから来てくれ」
城島は頑なに協力を拒んだ。確かに一理ある。事情聴取をするというなら、それなりの手続きはしないといけない。これは廣瀬にとって不利な話だった。
廣瀬は行方不明の生徒たちの現在に疑問を持ってはいるが、案件として上がってきてるわけではない。軍の警察というべき監察部の人間でもない。
つまり、そもそも廣瀬に捜査権というものが無いのだ。
紹介状も持たずにアポ無しで会いに来た廣瀬を、処理班長が不審がるのも当然だった。
だからこそ余計に、廣瀬は高圧的に処理班長を問い詰めてしまう。我ながら不味いなとは思うが、捜査の強制力をちらつかせられないだけに仕方ない。
「それはキミたちには必要ないことだ。訊いたことだけに答えてくれればいい」
「こちらも同じだ。お前に話すことは無い」
「では、処理活動した日も秘密なのか?」
まるで検察官が厳しく尋問するかのような口調で、廣瀬は城島大尉の硬い守りをえぐった。
「マナを調べたら、キミらがいつ作業したのかが分かったよ。近場から仕事をしているな。行方不明や退役になった者たちの時期はバラバラなのに、処理の順番は、キミらの部室のある階の、上から順に整っている」
「……」
目の前にバサッと広げる、何枚もの書類。それぞれの部屋の、生活痕跡が消された以降の日数を、分かり易く表にしたものだ。廣瀬が坂本と調べて得た証拠に、城島の表情が強張り、ついで、強く睨みつけてきた。
「手っ取り早く済ませようと楽をしたのか?それとも、処理清掃を依頼されただけで、生徒たちが居なくなった時期や理由までは知らされなかったのか?」
それ以上に厳しい眼光で、廣瀬は城島の視線をはねつける。
「……何の権限があって、それを調べている?違法じゃないのか?」
「この部屋なんか、書類上で軍をやめる日の3日前に、キミたちに清掃されているぞ?もしかしてこの清掃作業を始めた日には、すでに全ての生徒が、何らかの形で居なくなった後だったんじゃないのか?」
処理班長の非難を無視し、廣瀬は表を人差し指で叩いて、事実を詳細にたたみかける。
「知らん」
後手に回らされた城島大尉は、言葉短くなった。
「それは何も知らされていないという意味か?それとも、知っていても言えないってことか?まぁ、本当のことを知らされていないんじゃ、箝口令も効かないよなぁ?何を言っちゃダメなのかわからないんだからな」
挑発するような、小馬鹿にしたような廣瀬の物言い。
「……」
それにも、城島大尉は沈黙した。
憎たらしい廣瀬の暴言に反論はしたいが、どこまで言ってもいいものか、自分の知っていることがどれくらい重要であるのか、計りかねているような複雑な表情だった。
「それは肯定と捉えていいんだな?」
廣瀬がしつこく確認する。
「知らん」
苦々しく、城島大尉は吐き捨てた。葛藤したが、最後はやはり守秘義務を貫いた。
しかし廣瀬には、それだけで十分だった。ぶっちゃけて言えば、処理班長から証言を取るつもりなど、ハナから無い。
代わりに、坂本と調べて集めた証拠の確実性を得ることが出来た。
(連中がまとめて消えたのは3週間前……。それ以前のもそれ以後のも、全部嘘の記録だ。そこに一体何があるのか……)
坂本には図書資料室へ行って、軍務記録簿を調べるように言ってある。それらとも突き合わせてあぶり出してやろう。
「何か話したくなったら連絡してくれ」
名刺を渡したが、おそらく何も話しはしないだろう。代わりに廣瀬は、そこへ軽い盗聴用の調査魔法を仕込んでおいた。
もちろん違法だ。しかし、この後に処理班長が誰に連絡をとるのか、この件を誰が仕切っているのか、廣瀬は確認しておく必要があった。
(相手がわかれば、あとはどうとでもなる)
五藤大佐に仕込まれた偵察員としての技術を、廣瀬は惜しげもなく応用し尽くしていた。




