エピローグ ぎゃふん。これ、ないしょね
「ガチャガチャッ。ちょっと鍵が開けにくいな。ここは新生・泥縄統合高校の新校舎にほど近い、寄宿舎として使われることになる建物の、大食堂です。寄宿舎は、統合に先立ち3月にオープンする運びです。責任者のキヤさん、調理担当チーフのDDさん、入居者委員のスシくんを中心に、準備が進んでいます。こんにちは、泥縄第一高校のカニ書記長です。『ないしょシリーズ』恒例の本編終了後の付録部分、将棋の棋戦で言うところの感想戦の、進行役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
「同じく進行役、泥縄第二のクロハ非正規役員です。よろしくお願いします。わたしが会長→書記次長→非正規役員と、順調に坂道を転げ落ちているというのは、気のせいです」
「本日のテーマは『ないしょ3、あれってどうなったの』です。今回もいろいろとアイマイな部分を残して閉幕した『ないしょ3』ですが、『1』『2』では、重要な事実が、この付録部分で明るみになったこともありました。今回も、読了後の『もやもや感』を少しでも緩和していただけるよう、FAQのようなものを提供させていただくことになりました」
「進行役のわたしたちは、『ないしょ2』のときの①その作品の語り手を務めた人(ないしょ2ではクロハ)②その一つ前の作品の語り手を務めた人(ないしょ2では、ないしょ1のキラ) という選考基準にならって、選出されました」
「『ないしょ3』でも、名前単体で記述されていると本人、名前+肩書だと化身、というのは踏襲されています。じっさい、いまのカニ書記長の中の人は、実はオロネです。でも、『ないしょ3』の語り手は大部分はカニだけど、あたしがカニに化身して語り手を務めた箇所も少なからずあります。よって選考基準には沿っていますので、誤解なきよう、お願いします」
「ぎゃふん。ナレーション読むとき、いちいちカニ書記長に化身してたの? と言いつつ、いまクロハ書記次長をやっているあたしも、実は中の人はマヤ(デルタ)でして」
「別な化身機会に備えたシミュレーションの意味合いもあるよね」
「じゃあ、前置き終わり。きょうはこの場に泥縄第一・泥縄統合の全役員とキクハ先生を証人として呼んであります。陳述書を提出して終わりなどということは、認められません。突っ込んだ議論を望みます」
■泥縄第三のスエくんとキロさんは、春からどうなるの?
「スエくん、キロさん、お願いします」
「キロです。スエはDDと別れました」
「クロハ書記次長ですけど、そんなこと聞いてません」
「かといって、わたしと付き合うかというと、そう単純な話でもなくて」
「だから、そんなこと聞いてません」
「わたしたちは、スハさんと入れ替わりで、泥縄第一に出向させられる、いえ、することになりました。マロフさんの併設中学からの進級を待って、生徒会長に押し立て、わたしが副会長、スエが書記長をやります。わたしたちの籍は泥縄統合にあるので、1年後、スハさんと入れ替わりで戻ってきます」
「カニ書記長ですけど、スエくんは、自発的に別れたり、書記長になったりしたのですか?」
「そんなわけないでしょ」
「クロハ書記次長ですけど、スエくんとキロさん、なんか腐れ縁みたいで、けっこういいカンジに見えますけどね」
■押さえなかった寄宿舎の物件は、なぜそのまま残っていたの?
「キラさん、お願いします」
「えー、あたし? しょうがないですね。では町長の娘として、おぼろげに聞いた話をさせてもらいます。寄宿舎の物件は、スシくんが『優先交渉中』の札を入れなかったので、キクハ校長代行が学校経営理事会合で強気に押したときにはまだ、優先的に購入したり借り受けられる確証はなかった、はずでした。実は町長が裏で手を回して、仮押さえしてあったのです」
「やっぱり、そういうことだったんですね」
「泥縄支援請願が町議会で通るより前のことで、町長としては、ヒヤヒヤものだったそうです。勝負どころでスシくんに恥をかかせたくない一心だったそうで」
「スシだけど、だからといって、オレがキラさんの婿になる義務は、ないからね」
「やだなあ、スシくん。あたしら親子は、そんなつもりじゃないから。きみを落とすなら、正々堂々と落とすから」
■スシとオロネに相思相愛説が出ているが
「あたしクロハ書記次長としても、大いに関心のあるテーマです。おふたかた、どうぞ」
「スシです。オロネさんのことは、とても素敵な女性だとは思っています」
「クモルだけど、スシくんは従来の見解を繰り返しているだけね」
「オロネ副会長です。化身している関係上、オロネだったらこう言うだろうということを言います。オロネはスシくんのこと、かなり気に入っていますよ。『オロネの運命の人はカニ』みたいな周囲の決めつけへの反発もあっただろうけど、自分がスシくんとカップルになってもいいと考えているフシはある。マヤちゃんにスシくんの告白を受け入れるよう説得したり、キラちゃんやスハさんをスシくんに売り込んだりもしていて、一見矛盾するようにも見えるけど、策を講じてスシくんの周辺から女子を排除するのを、良しとしないのだと思います」
「スシですけど、オロネさんはカニくんのことが、ある意味空気のように感じられて、多少のことでは自分から離れていかないと思っているのかも。でもカニくんにアタックをかける女の子が、いつまでもいないとも限らない」
「スハですけど、何言ってるんですかスシ先輩。カニ先輩とオロネ先輩の間に楔を打とうとしないでください。見苦しいですよ。カニ先輩とオロネ先輩を引き裂きたくなくて、二人一緒に泥縄第一へ移籍させようと、頑張ったじゃないですか!」
「カニ書記長としては、いつかスシくんにバイクの後ろに乗せてもらったとき、一蓮托生なんだと思って、すごくドキドキしたな。ああいうのから始まって、恋になったりするのかもしれないよね。でも、あたしの知っている女のひとからカニを取り上げた手前、スシくんとどうにかなろうとは、思ってない。って、オロネが言ってました!」
「オロネ副会長ですけど、今のはカニ本人も知らなかった話です」
■4月からもキクハ先生は校長代行のままなの?
「キクハです。そうねえ、実はわたし、泥縄第一の吹奏楽部を指導してほしい、異動してくれと言われたんだけど、こっちの部が大事だったので、断ったの。それから女性理事の当たりが厳しくなって、それで理事会合には出たくなかったの」
「スシですけど、ほう。意地でも停学を取り消さなかったのには、そんな裏が」
「だから、ごめんって言ってるじゃない。4月からはね、わたしが校長になるか、泥縄第三から合流した先生がなるか、調整してるけど。女性理事がなるという話もあって。そうなったら残念ね。でも先生は下っ端だから、こういうこと言ったけど、これ、ないしょね」
「キロですけど、先生、そういう圧力に対しては『残念』で済まさないで、抗議してください!」
「では『相いれず』に。でもそう言うと、先生が校長にされちゃう。そうなると今度は、独身なのは、よろしくないんだそうで」
「クモヤですけど、そういうのありますよね。うるさいなあ、好きで校長や理事長になったんじゃないわよ、って言いたくなる」
「マヤ非正規役員ですけど、どうするんですか?」
「スシくん、4月2日で18歳でしょ? 退学にするから、先生と偽装結婚してくれる? 偽装と言っても、同居して、普通の夫婦がすることは全部するけど。そのくらいしないと最近は、偽装を疑う目をかいくぐれないから」
「スシですけど、全部自分の都合なのに、オレを退学にするってどういうことですか!」
「生徒と教師では、結婚できないから」
「クロハ書記次長だけど、目をかいくぐる必要から仕方なく夫婦してやる、みたいな言われ方も、『あんたどういう立場なんだ』と言いたくなる」
「だめ? じゃあ、スシくんが大学を出るまで、ワキ先生と偽装結婚してつなぐから、そのあとだったらいい?」
「キヤですけど、ワキは貸しませんよ。それでクビにするなら、すればいい」
「DDだけど。さっき話が出たけど、わたしはスエと別れた。キヤと違ってフリーなの。だからスシくん、今度は気にせずに、わたしにいろいろしていいんだよ?」
「クロハ書記次長ですけど、スシくんの方はフリーじゃありませんので」
「スシくんのステディって、マヤさんの別人格も数えたら、4人くらい居そう。だったら、わたしが排除されるいわれも、ないんじゃない?」
「うっ」
■泥縄統合高の校名と校歌は、結局どうなったの?
「スシです。泥縄統合高の校名は、右往左往したあげく、『泥縄2・5高校』に決まりました」
「スハですけど、会長選挙で誰もその校名を言わなかったのに」
「DDですけど、ほら見なさい。わたし、先見性があったでしょ」
「クロハ書記次長ですけど、大きな声では言えませんが、カッコ悪いと言っていたのに一転して得意気なDDさんを見ると、イラっとしますね」
「キクハです。いろいろな候補が出ましたが、決め手は、泥縄第一とツガイになる校名ということでした。日本エンタメ初の『小数点付き校名』を狙えるのも、プレゼンテーションでの評価が高かったです。『ないしょ3』はキスタイムや何かで、本文中にやたら2・5という数字が出てきましたが、それは決定とは関係ありません」
「うそだあ」
「アラッ? でんわ。はい、もしもし。えっ? 困りますよ! ええ、ええ。そうですか、それなら仕方ないですね、」
「ひそひそ、キクハ先生、どこからの電話ですか?」
「ひそひそ。理事長。校名が『第二と第五が統合した』と誤認されるおそれがあるので、監督官庁から考え直すよう要請されたんだって」
「スシだけど、校名ダメだって! みなさん、何か代わりの校名ある?」
「キヤです。それなら『泥縄にいさん高校』はどうですか? 第二と第三の統合なので」
「泥縄第一のほうが兄さんで、こっちは弟か妹のような気もするけど」
「キクハだけど、じゃあ理事長に伝えるわよ! なんかイヤな名前だけど、やってみてダメだったら、また変えればいいから」
「いいかげんだなあ」
「お待たせしました、はい、はい。・・・ひそひそ、理事長、それでまた言ってみるって」
「ふう」
「キクハです。校歌は、曲は泥縄第二のものを、歌詞は泥縄第三のものを使って、一曲にする方向です。プロ野球チームが2チーム合併した後、それぞれの応援歌をそのまま使う、みたいなかんじです。4月に間に合うように完成させます。曲名は『泥縄にいさん高校校歌』で決まり。もう面倒だから、文句言わないでね!」
「スシですけど、キクハ先生が作ってくれるんですよね。泥縄第三の校歌の歌詞も含めて」
「先生は忙しいから、スシくんが作ってよ」
「クロハ書記次長ですけど、なすり付け合わない!」
「カニ書記長ですけど、そろそろ寄宿舎の開業準備の続きに取り掛かりたいと思います。何かこの機会に言っておきたいことがあるかた。・・・よろしいですかね。ではこの場はお開きとさせていただきます。ありがとうございました」
「拍手。一人、また一人、大食堂を去っていく。さりげなく居残ったのは、スシとクロハ書記次長とマヤ副会長」
「もうみんないなくなった。誰かに話を聞かれることはない」
「うん」
「うん」
「ああ、ほんと、オレたち3人の、12月25日の夜のこと、みんなに追及されなくて助かった」
「スシくん、何か言えないようなことしたの?」=クロハ書記次長とマヤ副会長同時発声=
「えっ」
あとがき
「生徒会、ないしょの欠員1」の投稿を始めたのは、2020年2月19日のことです。それから6年半。タイトルにある「欠員」の文字に逆らい、主要登場人物を誰一人欠かすことなく、最後まで走り抜けました。筆者として、この上ない喜びです。貴重な経験を積ませていただきました。ご愛読いただいた皆様に、厚く御礼申し上げます。
「ないしょ3」は、それまでの2作と違い、全エピソードがそろってから連載を始めたのではありません。スタート当初は気負いが先走って、無理めの連日投稿をすることもありました。すぐにストックが尽きてペースが落ち、週1回、日曜日の23時ころに投稿というペースに落ち着くまでは、書いている方も次回の公開が予測不能のような状況となってしまいました。反省する次第です。次はまた、ストックを多く持って小出しに投稿するスタイルに戻した方がよさそうです。
「ないしょ2」までは「文芸・コメディー」のジャンルで発表していましたが、「3」では「恋愛・現実世界」としてみました。うまくいかなかったら元に戻そうと思っていて、結局最後までそのまま行きました。これは、なろう作者の先生の「ラブコメは『なろう』では元気がないが、需要はある。人気が下火の今こそチャンス」という熱いメッセージにほだされた(?)結果です。ランキング入りも複数回果たすことができました。ありがとうございました。
「ないしょ3」を始める前、ふと「世の中には学校の朝読書というものがあるようだが、今は生徒のみなさんはタブレットを授業で使っているから、『なろう』の作品も読んでもらえるのでは? 図書館から毎回借りなくてもいいし、テキストを入手するコストもかからないから、ありがたがってもらえるのでは?」と思い立ち、生徒のみなさんが朝の時間に読んでいてもクラスメートから手痛いツッコミを受けなくて済むような内容を目指すことにしたのです。その結果「ないしょ2」までとカラーが激変しましたが、新たな読者層の開拓につながったと考えております。これはこれでよかったのではないでしょうか。
「生徒会、ないしょの欠員シリーズ」は、「ないしょ3」をもって終了します。これは「ないしょ4」となったとすると、定員と欠員の数が同じになって、物理的不可能になるためです。しかしシリーズでまだ書き切っていないところはありますから、「4」からタイトルも新たにシリーズを立ち上げ直すこととしました。世の中、仮タイトルから商業出版化に際して改題し、成功を収めている作品も多々あります。あやかりたいものです。
次の作品のタイトルは「ないしょの欠員、生徒会4」とする方向です。「4」からスタートするのは、これまでとのつながりを忘れたくないから。今までのタイトルと「、」まで含めた全文字を共通させることで、改題を知らない読者の方にも「おお、あれか」と容易に類推してもらえることを願いました。現状では「ないしょシリーズ」と銘打ちながら、タイトルは「生徒会、」から始まっています。これを、先行作品の「ないしょのつぼみ」(やぶうち優先生)「ないしょの予習」(森井暁正先生)などと、あえて同じ「ないしょ始まり」にすることで、「ないしょ4」というように略称をそのままにでき、先達の作品と相乗効果も狙えるまである、と考えております。
「ないしょ3」は、このあと大規模校正に入りますが、それが終わったときには、もう一度初回から連日コンスタントに連載し直すのが礼儀かなあ、と考えています。どのみちタイトルも変更するなら、「ないしょの欠員、生徒会3.3」(※10パーセント増し)などとする。中身は「ないしょ3」と大差ない。「ないしょ3」の連載中は、エピソードの公開時点では次回がいつ公開かはっきりせず、ときには予告時刻を過ぎても公開できなかったり、予定時刻を守っても途中までしかできていないことも多かったので、再度連載することで、それらの体たらくの罪滅ぼしになるのではないでしょうか。
「ないしょ大規模校正版」「ないしょ4」とも、いついつ始まると、現時点では明言できません。「2」と「3」の間ほど空かないようにはしたいと思います。
よろしくお付き合いいただけると、ありがたいです。
2026年8月23日 キュー山はちお
■主な参考文献(著者敬称略)
・JTB時刻表2026年3月号(JTBパブリッシング)
・2026貨物時刻表(公益社団法人鉄道貨物協会)
・るるぶ あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(JTBパブリッシング)
・桃太郎電鉄 負けない戦術(宝島社)
・貨物列車ナビvol.2(学研)
・東北・上越新幹線 東北・上越から山形・秋田・長野新幹線まで20年のあゆみ(山之内秀一郎・JTB)
・日本車検索大図鑑4:ホンダ/いすゞ/スバル/ダイハツ/スズキ/ヒノ1955ー1993(二玄社)
・北日本新聞2026年7月9日付
・読者の心をつかむWEB小説ヒットの方程式(田島隆雄 監修ヒナプロジェクト 博報堂DYデジタル・幻冬舎)
・ゆう坊のでたとこまかせ(堀井雄二・みのり書房)
・ライトノベル作家になる(榎本秋・新紀元社)
・マンガの描き方(手塚治虫・光文社)
・シナリオ講座ー起・承・転・結ー(辻真先・小学館「THIS IS ANIMATION3」収録)
・星山博之のアニメシナリオ教室(星山博之・雷鳥社)
・小説家になろう【お便りコーナー】第235回: マイヨ先生
・小説家になろう【メッセージボックス】




