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生徒会、ないしょの欠員3  作者: キュー山はちお
5章 さくら そつぎょう
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5章の4 この埋め合わせは必ずするから

 生徒総会が終わったあと、スシ会長(クロハ)から話を聞いたキクハ校長代行(スシ)は、本物のキクハに電話をかけて、経緯を報告した。生徒総会が終わればすぐ地元に帰れるとばかり思っていたので、ちょっとへこんでいた。

「スシくん、そうね、大変なことになったみたいだけど、乗りかかった船よ。もう明け渡し期限まで何日もないし、頑張って!」

「ひとごとみたいだなあ」

 近くに、化身の秘密を知らないスエたちがいたので、スシは距離を取った。

「先生、オレは今、先生に化身しているから、あながち他人でもないのに」


 スエとキロが職員室に行き、残務整理のために出勤していた教師に、引き渡し期限までの役員居座りを通告した。教師は参加人数を明記した計画書の提出を求め、キロが書いて手渡した。

「スエくん、引き渡し期限は31日だけど、年末は29日が仕事納めだから、水道ガス電気が、この日で一斉に止まるよ。立て籠《こ》もりは29日までにしておいたら?」

「立て籠もりじゃないです。そうですねえ、暖房が止まるのはきついかも」

「先生たちも、29日限りで、あとは学校に来ないから」

「そのあと、どうするんですか?」

「休みにはなるけど、泥縄第一と第二のどちらに配属か決まってないから、住むところを探したりできないんだ。教師の間では、第一のほうがよさそうだという声が専《もっぱ》らだけどね」

 スエは席を外してDDに電話した。「31日の期限ぎりぎりまではやらない」と聞いたDDは、火のように怒った。マヤ副会長(キヤ)が、スエの肩をポンとたたいた。

「ここはひとつ、間を取って30日まで粘ることにしたら、どうでしょう」

「クロハ書記次長(マヤ)だけど、あんた非正規生徒のくせに、何仕切ってんの」

 結局、役員の計画は、はっきり30日までとはならず、「29日以降も居座れたら居座る」という、やや弱いところで落ち着いた。

「キロだけど、これ、まさか七日間かかったりしないでしょうね?」

「キクハ校長代行(スシ)は思うけど、わたしら戦争はしたくないし、二日間籠城(ろうじょう)くらいで、どうでしょう」


 翌日の12月29日、朝。スシは一人で、洗面所で歯を磨いていた。

「みんな前と同じところに泊って、結局、夜は校舎にオレが一人きりだったよ」

 みんなが体育館にそろうまで、まだ2時間はある。

 この日限りで、校舎はガス水道電気が止まる。トイレが使えなくなるので、女子は午前中で退去させることとなっている。

 外から物音がした。スシは「あれ、みんなが来るにしては、早くない?」と思ったが、音のする方へ行ってみた。

「あれ?」

 報道機関の人が、大きな社名ボードを掲げて、ゆっくりと歩を進めているところだった。

「あのー、何か用ですか?」

「あ、立て籠《こ》もり犯の人ですか? わたしは、報道機関のHDという者です」

(またイニシャル? 「ないしょ3」にはもう、カタカナ名前の新キャラは出ないの?)

「えーと、立て籠もり犯じゃないですよ。人畜《じんちく》無害の、普通の高校生です」

「武器を携行しているという情報が」

「どういう情報なんだ」

「人質を殺さないと、約束してほしい」

「人質なんか、いませんて」(オレが人質みたいなもんだよ)

「まさか、片付けたとか?」

「最初から、いませんて」

「では、本題に入ります」

「いまのやり取り、いります? えーと、ここは寒いので、暖房が効いている体育館へどうぞ」

 体育館でスシは、取材記者をもてなした。

「泥縄第三の合流の件を、ずっと追ってきました。いよいよ佳境ということで、きのうの生徒総会をチェックしていたところ、おもしろいネタになりそうなことが議決され」

「いま、おもしろいって言いました?」

「これは失礼。でも校舎に立て籠《こ》もりなんて、めったにないですよ」

「立て籠もりじゃないですよ。校舎の明け渡しまで居るだけ。それもギリギリまではやらない。学校にも届けを出していますから」

「ほかの人は、どう言っていますか?」

「え」

 スシは、いまの時間帯は自分一人しかいないことを、なぜか言いたくなかった。

「ちょっと待っていてください」

 体育館を出たスシは、5分ほどでスエ会長(スシ)となって戻ってきた。

「お待たせしました」(いやー、初めてスエくんに化身したけど、冷や汗ものだ。スエくんが自分の制服を一組、置いといてくれて良かった)

「スエさん、スシさんに何か、かけてあげる言葉は」

「いやあ、よくやってもらっていて、ありがたいなと」(シフトだから仕方ないけど、自分でこんなこと言いたくないなあ)

「キロさんがあなたに目もくれず、スシさんを狙っているという情報もありますが」

「質問の意図がわかりません。キラさんがスシを狙っているの、間違いじゃないですか」

「キラさんは、泥縄第三に転校してきたのに、まだ一回も登校してないそうですね」

「冬休みですから。年が明けても、いまの住所で第三の生徒と同じくオンライン授業を受けるそうで、引っ越しするとしても、1月の学校経営理事会合のあとですよ」

「きのうの生徒総会で、前会長のDDさんが激ギレしたそうですけど」

「しょっちゅう激ギレしていたので、どれのことを言っているのかわかりませんけど、最後は納得してもらえた、と思ってます」

「副会長のキロさんって、いないんですか?」

「泥縄第三の女子制服はストックがない、いや、クリーニングに出しているので、第二の女子役員の誰かでお願いします」

「べつに私服でもいいですけど。じゃあ、第二の副会長さんを」

「副会長ですね、これはまた複雑なのを」

「何か言いました?」

 スシは体育館を出て、7分ほどでマヤ副会長(スシ)となって戻ってきた。

 最近はずっと、マヤ副会長の中の人はクロハなので、スシもそれを意識して化身することとなった。

「1月の学校経営理事会合で、焦点となるところはどこですか」

「そういう質問は会長であるスシにしてもらえると助かるのですが。でもまあ、わたしの観点からということで、お答えします。泥縄第三生徒会の債務を第二生徒会が全額用立てるめどが立ったことで、合流に関しては、第一・第二よりも第二・第三のほうが有力になってきたと思います。耐震校舎が借りられそうなことも、理事会には情報提供してあります。われわれの提案に乗り気な理事の数では、まだ負けているのですが、新しい理事が選任されると聞いていますので、その方のお考えに期待ですね。第三の生徒が強く要望する寄宿舎を実現できるかも、鍵を握るでしょう」

「ありがとうございます。最後、書記次長の方を」

「わかりました」

 マヤ副会長(スシ)は体育館を出て、2分ほどでクロハ書記次長(スシ)となって戻ってきた。黒縁メガネと前髪の分け方の変更だけなので、ほかの化身変更より早い。こちらも、最近はずっと中の人はマヤなので、スシはそれを意識して化身することとなった。

「キロさんがスシさんを狙っているという情報もありますが」

 同じ質問をされても、クロハ書記次長(スシ)は眉《まゆ》一つ動かさなかった。

「その件について、スシは何か言っていましたか?」

「キラさんの間違いじゃないかって」

「わたしは、ほかにもっと厄介《やっかい》な女がいると思っていますよ。誰かはお答えできませんけど」

「わかりました。いろいろと、ありがとうございました」

 取材記者は充実感を漂わせて、泥縄第三の校舎をあとにした。

「ふーう、なんとかなった」

 スシはすぐ化身解除した。それから1時間くらいして、キロ、クロハ書記次長(マヤ)、マヤ副会長(クロハ)、キヤ本人が現れた。生徒総会が終わってキクハが地元に戻り、入れ替わりでキヤが追加されたという設定だ。

「スシですけど、あれ? スエくんはいないの?」


「キロです。ついさっきスエは、オンラインで続開した生徒総会の議決によって、生徒会長を解任されました」


「ええええ! 昨日の今日じゃないか!」

「わたしキロが、会長に昇格しました」

「ええええ? キロさんのクーデター?」

「違います。人聞き悪い」

 スシは、大慌《おおあわ》てでスエに電話した。

「ああ、スシくんか。何?」

「何じゃないよ、どうなっちゃったの?」

「いやあ、なんでも『学校経営側の心象が悪くなるから、やっぱり居座るのやめたら?』という声が大きくなって」

「そんな、オレたちは気が進まないのに、議決したのは生徒じゃんか」

「で、ボクが昨夜、スシくん一人に居座りをやらせたことが明るみに出て」

「そんなのよくある話だよ。オレは当事者だから、なんとも言えないけど」

「そこで一気に『居座れ派』と『居座るな派』が結託《けったく》してしまって。解任動議が出て、可決されてしまったと」

「ええー! そんなのおかしいじゃん。それだったら『居座るな派』は、昨夜スエくんが家に帰ったことを評価すべきだろう。自分らの主張通りの行動なんだから」

「みんな追い込まれてて、まともな論理が通用しなくなってる」

「居座りは、DDさんの希望だったでしょ? DDさんは、スエくんを守ってくれなかったの?」

「卒業生だしね。DDさんはえらい人気で、ボクは常に近くにいたから、ボクをよく思わない層も少なからずいてねえ。もともとボクは権力基盤が弱かったんだよ」

「キロさんも、夜は帰ったり、スエくんと全く一緒のことをしてるのに、なぜスエくんばっかり?」

「今回は、誰か憎いやつを吊《つ》るし上げれば気が済んだようだ。キロまで辞めさせたら、実務者が完全にいなくなって困るだろうし」

「そんな、スエくんの解任反対! なんとかしようよ!」

「スシくん。『悪法も法』と言う。ボクは、ちょっとホッとしているところもあるんだ。部外者を頼ってばかりで申し訳ないけど、キロを盛り立てて、校舎居座りをやり遂げてほしい。キロはあんなだけど、ほんとはいいヤツなんだ」

 スシは、胸が締め付けられた。キヤは涙をこらえきれなかった。


 体育館で全員で昼食を取り、スシがいるのも構わず恋バナをし、周囲を片付けて、13時ちょうどに女子は退去となった。

「クロハ書記次長(マヤ)だけど、何かあったらすぐ電話するんだよ!」

「マヤ副会長(クロハ)です。スシくんと離れるのは忍びないですが、心は常にスシくんと共にあります」

「キヤです。くじ(みたいなもの)のおかげで、泥縄第二の二代目の勝利の女神と認めてもらえたようで、うれしいです。今度は、スシさんの勝利に貢献したいです」

「キロだけど。当事者の泥縄第三の人間が、校舎居座りに誰一人関わらないのは、心苦しい。でも、この埋め合わせは必ずするから」

 女子4人は、体育館をあとにした。

 一人残されたスシは、とりあえずキクハ本人に電話してみた。

「そう、スシくん、大変だったわね。ううん、こっちは変わりないわ。第三のスエくんが解任されたとなると、スシくんが3校でただ一人の男子の会長になるわね。スハさんもキロさんも、スシくん相手だと、主張をガンガンぶつけて来るわよね。そこでスシくんは、たじたじにならず、泥縄第二全体のことも考えて、会長をやってほしいな」

「力づけてくれるのはありがたいですけど、書記次長の補充の件は、どうなってますか?」

「非正規生徒のキヤさんが、毎日来てくれてるんでしょう? 冬休みになっても。彼女の頑張りを讃《たた》えて、正規の生徒で補充するかどうか、もう少し様子を見ましょう」

「補充したら欠員が3にならないから、『ないしょ3として、それはどうなのか』とか思ってないでしょうね?」

「い、いやねえ。そんなこと、思うはずないわ(汗)。たとえ思ってても、スシくんが卒業するまでは言わない」

「なんですか、それ」

 スシは電話を切った。


 広い体育館に、一人ぼっち。

 女子役員がメールで、代わる代わる励ましてくれるから、メンタルがもっている。

 17時過ぎに、校舎の電気ガス水道が止まった。停電により暖房も止まった。

「日本列島がこの冬一番の寒波に包まれる、か」

 学校を抜け出して食事をして、温浴施設で入浴もして、3時間以上たってから、明かりのない学校に戻った。手探りで体育館にたどり着くと、スシはふと我に返った。

(ここは北の大地だ。オレの地元の寒さ程度の認識だったけど、それでは装備が全然足りないのでは?)

 スシは、真っ暗な中、あたりを見回した。

(屋内だから、焚火《たきび》で暖を取るわけにいかない。カイロは、この冷え込みでは、すごく効果があるわけではない)

 スマホは電池が切れた。停電により、充電もできない。女子役員に連絡したくても、できない。

「なんだなんだ! 全然ゆるくないぞ△」


※スシくんによると、ここでの△はテントではなく、競馬新聞の△(◎○▲に次ぐ4番目の印)をイメージしているそうです。


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