↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生徒会、ないしょの欠員3  作者: キュー山はちお
4章 つばさ わすれない
PR
24/42

4章の5 勝つわけないですけど、一体どうしろと

「執行部チーム、集合!」

 監督のキクハのもとへ、メンバーが恐る恐る歩み寄った。

「いいこと? この試合にもし負けたら、チームは解散よ!」

 メンバーは全員、イヤな顔をした。

「クロハですけど。わたしら別に、今すぐ解散でもいいですけど」

「キラですけど。わたしらのような素人ふぜいが、そういうこと言うと、ゲロ負けフラグが立ちます」

「女子バレー部は、全国の舞台を控えた大事なとき。変に凹《へこ》ませるといけないから、絶対に勝っちゃだめよ!」

「マヤですけど。もちろん勝つわけないですけど、勝ったらダメ、負けたらチーム解散って。一体どうしろと」

「執行部《ウチ》にバレーボールの天才はいない。だが執行部《ウチ》が最強だ!!」

「スシですけど。いつもそうやって、吹奏楽部や合唱部の気分をアゲアゲにしてるんでしょうけど、バレーの素人のオレらに、そのまま言われても」

「さっきから、マジレスばかりしないでよ。じゃあ、ケガのないように、ケガさせないように、無難にやってちょうだいね、おしまい」

 キクハは、ぷりぷりしてしまった。

「スシですけど、勝ったりしねェ。ゲロ負けもしねェ。しねェしねェ生徒会長」


 試合のために、女バレと男バレが協力して、体育館フロアにコートを設営した。その分、生徒が観戦するためのスペースが削られてしまうので、マヤが頼んで、2学級ほど体育館ステージ上へ移動してもらった。

 スシが体育館の周辺を見回りしていたところ、入り口近くに、ブルーシートが敷かれた小物置き場が用意されているのに気づいた。スシは、その中に硬そうなボールがあるのを発見して、背筋が寒くなった。

「ホキだけど、スシくん。いやー、見られちゃったか」

「何なの? このボール」

「小芝居の小道具だよ」

「小芝居は、やらなくなったよね? コレ使わないよね? 約束してね? 誓ってよ?」

「いやだなあ、使わないよう。ぼそぼそ、ちぇっ。面白いのにな」


 執行部チームと女バレが、体育館の端《はし》で短時間、打ち合わせすることになった。歩いていたスシをクロハが捕まえて、執行部チームの中に引き入れた。

「レサです。きょうは急遽《きゅうきょ》組まれた壮行試合に、お付き合いいただき、ありがとうございます」

「スシです。本日は、どうもよろしくお願いします。エキジビジョンマッチですので、女バレさんがスパイクするときは、オレかワキ先生を狙ってください。お願いします」

「ほう。実はあたしたちは、今日の試合、キャッキャウフフ的なのをイメージしてました。でも、狙えとか言われると、少なくともスシくんとワキ先生はボコボコにしないと、かえって失礼ですね」

「ゲッ」

「スシくんが女子4人を大切に思う心が逆に、あたしに火をつけてしまう」

「いやいや、アツい展開やめましょうて。そちらも全国大会が近いんだから」

「ども。留学生エースデス。上等だスシ!! アタシが倒してヤル!!」

「きみ、素人相手に何イキってんの?」

「声が大きい女の子は好きですカ?」

「いつものきみがいい」

 留学生エースは意表を突かれて、ほほを赤らめた。


 スシがオーダーシートを書いて、主審の男バレ部キャプテンに渡した。


「さあ試合開始です。実況はわたくしナハ、解説はホキさんでお送りします!」

「ホキです。よろしくお願いします」

「ホキさん、きょうはどういうプレーを期待しますか?」

「コート中央のネットを挟《はさ》んで、2チームでボールを打ち合ってほしいですね。ボールを落としてはいけません。持ってもいけません。3度のボレーで攻撃へと繋《つな》ぐ球技をやってほしいですね」

「何わかりきったこと言ってんですか? あまり変なこと言うと、ゴミ捨て場でバレーしてもらいますよ?」

 主審の笛が鳴り、女バレからサーブが放たれた。後衛のキラが、定位置のまま、何とかサーブカットできた。

(キラだけど、これで格好はついたわよね)

 スシは安心した。

 レフトのクロハが、やや遅れてセンターのスシが跳ぶ。

(よしっ)

 レサともう一人が、ブロックに備える。

(えっ?)

 セッターのワキは、クロハへトスと見せて、2メートル離れたキヤにバックトスを送った。


 ばしっ

 ピーッ


 相手のブロックが崩れたのを、あざ笑うように、キヤのスパイクがライン際に落ちた。

「ナハです。これは速攻の中でも、最高難度のDクイック! 素人にいいカッコされて、レサさん、心中穏やかでない!」

「ホキです。情報によると、ワキ先生とキヤさんは、前の職場で社会人バレーボールのチームに駆り出されていて、多少心得(こころえ)があったんですねえ」

 ネットを挟んで、レサがスシに話しかけた。

「そっち、やるじゃん。心置きなくボコボコにできるよ、なーんてね」

 見る角度によっては、キヤのスパイクはアウトのようだったが、レサはチャレンジを申請しなかった。むしろポイントを許して全力投球の大義名分ができたことを、喜んでいた。

「スシくん」

「?」

 マヤに頼まれて、スシがタイムアウトを請求した。

「どうしました、マヤさん」

「わたし、ローテーションで次サーブなんですけど、あまり入らなくて。いい流れのここは、その、秘策を用いるところかと」

「秘策?」

 クロハとマヤが連れ立って、体育館の入り口から出て行った。1分もしないうちに、また戻って来た。

「?」

 二人は、クロハ書記次長(マヤ)とマヤ副会長(クロハ)に化身交換していた。

「クロハ書記次長(マヤ)だけど、スシくん、ないしょね」

「えー、ローテーション違反にならないかなあ」

「ないしょは、ないしょよ」

 スシは二人をじっと見て「ずるくない人が、ずるくない人に化身しているのに、どうしてずるい人になるのだろう」という思いが頭をもたげてきた。

「ねえスシくん、これ預かってて」

 クロハ書記次長(マヤ)が、黒くて大きなプラスチックフレームのメガネを外して、スシにかけさせた。クロハの伊達《だて》メガネは、自分に化身した人が、その化身を見破られにくくするためのもの。クロハとスシは、視力が低いわけではない。コンタクトレンズのマヤともども、メガネがなくても困らないのだ。

 プレー再開となった。間が開いたことで、レサはさっきより殺気立っていた。

「ホキですが、執行部チームにはリベロが入っていますが、後衛レフトまでローテーションが回ったら、次は一旦《いったん》コートを出ないといけません。6人しかいないけど、どうするんでしょう」

「ナハですが、ある女子バレーマンガも同じ問題を抱えていました。でも主人公が2年になる時に、新人を3人補強して解決しました。執行部チームはいかに?」

 マヤ副会長(クロハ)はジャンプサーブを打った。エンドライン際でバレー部がレシーブ、セッターがボール落下点に入り、レサがネット際で両腕を後ろに振って、ジャンプに備えた。執行部チームはキヤ、スシ、クロハの3枚ブロックで臨んだ。

(スシだけど、これ、いけるんじゃね?)


 後衛にいた留学生エースが、アタックラインの手前から踏み切り、強烈なバックアタックを放った。


 執行部チームのブロックはタイミングをずらされ、ボールはスシの黒縁メガネを直撃した。

 パキイイ

 黒縁メガネは、両レンズをつなぐブリッジ部分が砕け、真っ二つになった。ボールはスシの足元に落ち、女バレが得点した。

 クロハ書記次長(マヤ)の瞳孔が開き、ふるるる、と体が震えた。

「こらこらこらー! クロハ書記次長(マヤ)だが、スシになんてことするんだ!」

「留学生エースですが、メガネして試合に出る方が非常識デス」

「スシだけど。留学生エースの言う通りだよ。それにねえ、あんなに強烈なボールだったのに、メガネのおかげかな? 体はなんともないんだ!」

「うっ! えっ? おっ?」

 クロハ書記次長(マヤ)は激しい怒りと急激な打ち消しとで、アクセルとブレーキを同時に踏んだようになって、体に変調をきたした。

「究極奥義《きゅうきょくおうぎ》デス。岩の上のカエ・・・いや両生類に打撃を加えても、岩だけ砕けて両生類は無事なのデス。それと同じで、スシくんには何のダメージも与えないのデス」

「か、神業《かみわざ》」

「岩だけ砕くには、バレーボールとはまったく別の修行が必要デス」

「じょじょに上手になるんですね」

「失敗するとカエ・・・いや両生類が悲惨なことになるので、十分に鍛錬《たんれん》してからやってくだサイ」

 誰言うともなく試合はここで終了となり、セットカウント0ー0、スコア1ー1で引き分けとなった。

 スシが適当に言った「勝ったりしねェ。ゲロ負けもしねェ」という言葉通り、勝つでもなく負けるでもない結果にはできたが、執行部チームは全然うれしくなかった。


 コートの後片付けに参加しない留学生エースが、放送席のホキのマイクを奪った。

(あれ? マイクアピール?)

「スシくん! きょうは壮行試合を一緒にやってくれて、ありがとうデス。もし全国大会で1回戦負けしたら、スシくん、あたしと結婚してもらえないデスカ?」

「ちょ、ちょっと待って! 結婚て! それも『1回戦勝ったら』でなくて『負けたら』て。一体どういうこと?」

「フフ」

「はっ!」

 スシは背後に殺気を感じた。

「彼女のクロハ書記次長(マヤ)だが、仲いいんだなア。いつの間にこんな女と、結婚を誓うようなことになったんだ? 攻撃決定」

「カノジョのマヤ副会長(クロハ)ですけど、仲いいんですね。わたしたち、用済みってことですか? 攻撃決定」

「未来の彼女のキラだけど、仲いいんだね。きょうはあたしが泥縄第二に通う最後の日なのに、よりによってそんな。攻撃決定」

「彼女ではないけど、スシさんが大人の階段上る手助けをしたいキヤです。仲いいんですね。攻撃決定」

「スシだけど! 攻撃って、バレーボールで集中砲火されるの?」

「キクハです。もうコート片付けちゃったから、そういうのヤメ。別な方法で攻撃」

「なんでキクハ先生がオレを攻撃するんですか!」

「自分の胸に聞きなさい」

 クロハ書記次長(マヤ)、キラ、キヤ、ナハが、スシの両手両足をそれぞれ持って、フロアに大の字に拘束した。

「ちょ、ちょ、ちょっと! 留学生エースのきみ! 何とか言ってよ! 結婚の約束はないって、オレの無実を証明してよ!」

 留学生エースはスシが拘束される様子を見て「これが日本の風習か」という神妙な顔をした。

 マヤ副会長(クロハ)は、ブルーシートの上から調達した、三つ穴の重くて硬いボールを、スシの胴体の上にかざした。

「この一撃は、役員みんなの思いを込めた一撃」

「わーっ! そんなこと言ったら、絶対外れないじゃないか!」

 マヤ副会長(クロハ)はそっと、ボールをスシの下腹部に置いた。

「ふう、落とされなくてよかった。でも6ポンドでも、けっこう重いよ?」

「キクハとしては、スシくんの花嫁候補に名乗りを挙げるコに、関心があるわね。留学生エースの言い分も聞いてみましょう」

「そうデスネ。ワタシ身長175センチで、日本ではそれなりですケド、本国ではお呼びでないサイズなのデス。なので、高校日本代表になりたいんデス」

「スシだけど、日本の人じゃないのに、どうやって?」

「帰化申請しますけど、必要な在留期間が、前は5年だったのに今は10年くらいに厳格化されたのデス。でも日本人と結婚すれば、条件が緩くなるんですヨ」

「あきれた! 偽装結婚かね。あと、高校生の場合、既婚者《きこんしゃ》だと代表選考に響くのでは?」

「実態ある結婚だって、全然構わないデスヨ。ワタシもスシくんも、ともに4月には18歳デス」

 クロハ書記次長(マヤ)、マヤ副会長(クロハ)、キラが臨戦態勢に入った。キヤとワキは「へ~」みたいな顔をしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。