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第二九話 頑張る鉱婦たち


 帝国への留学を目標に据えたはいいものの、金鉱石と巨大な銅鉱石の売却は遅々として進まなかった。


 その大口取引について男爵は王家へ直接問い合わせていたが、暫し待てという返事が繰り返されるばかりで時期の目処も立たない。


 王家とブラフマ島の微妙な関係性を知る鉱夫組合も静観を決め込み、今年の鑑定の儀が刻一刻と迫る中、ハリッシュとアユー、ついでにヤクトの鑑定料を確保しておくために5人は今日も鉱山へ潜る。


「なんでだ……」


 深部から程近い中層に4人を残し、ヤクトは最深部を目指して鉱山の探索を続けているが、最短ルートに残しておいた目印が綺麗さっぱり消えていた。


「たしかに崩したのに……」


 手描きのマップを見ればその場所で間違いない。発勁で大きく抉った壁の穴は塞がり、積み上げておいた石も消えている。


「あっ。こんにちは」

「あら。1人で潜ってるの? さすがね」

「ヤクト君〜。今日も可愛いねぇ〜」


 ヤクトは若手の鉱婦3人組に声を掛けられた。


 中層で何度か見かけたことはあったが、今日は深部まで降りてきている。


「帰れ。ここは女には厳しい」

「そういうわけにもいかないの。鑑定の儀が近いでしょ?」

「切り詰めて何とか貯めようとしてたんだけど〜、旦那が先に逝っちゃってさ〜。あはは」


 3人とも今年5歳を迎える子供が居るらしく、コツコツ貯めてきた鑑定料もあと少し足りないのだと言う。


「今年は214万ドランって言われてるけど……為替っていうのが謎じゃない?」

「そうそう。なんで毎年変わるのかもわかんないし、そもそも細かすぎるよね」

「14万はどっから来たのかってね〜?」


 3人寄ればかしましい。女たちは鉱山の深部で井戸端会議を始めた。


「ハリッシュ様の銅鉱石もまだ売れないんでしょ?」

「本島の組合本部は何やってんのって感じ!」

「こういう時の組合じゃんね〜?」


 ヤクトは優しくすべきか、先に進むべきか決めかねているようだ。ビビッとはこないのだろう。


「それで? 何か悩んでるみたいだったけどどうしたの?」

「お姉さん達に言ってみ? ヤクト君なら何でも教えてあげる」

「鉄血姫さまのこと〜? 進展した〜? アドバイスしてあげよっか〜?」

「「「優しく教えて……あ・げ・る。うっふん」」」


 女たちはしなを作って胸を突き出す。


 久しぶりに僕の嫉妬心が疼き始めたと思ったら、ヤクトは3人の乳を揉み比べし始めた。イケメンに死を。


「「「キャ〜!」」」

「アイゼは関係ない」


 サクッと揉んで比べてあっさり手放した。やっぱりアイゼの方がよかったのだろう。死ねばいいのに。

 

「こういうトコが堪んないよね」

「鉄血姫さまも大変ね」

「アレは絶対よろこんでるよ〜」


 ヤクトは壁の目印が消えたことを伝えて何か知らないかと尋ねると、3人の女は目をぱちくりさせて首を傾げる。


「鉱山に目印?」

「そう言われてみれば、あったら便利だよね〜」

「あら? 似たような話をあの人がしてたような……」


 今は亡き夫によれば、採掘した鉱石の運搬に使う手押し車を改造して効率良く運び出そうと試したことがあったそうだ。


「あ〜っ! それ知ってる〜! ウチの旦那も言ってた〜!」

「錬成魔法でレールを敷いたんだっけ?」

「そうよ。トロッコ計画って言ってたわ。結局レールが固定できずに失敗しちゃったんだけどね」


 杭を打って地面に固定しても数日後には抜けて地面は元通りになっていた。岩男に壊されたわけでもなく、レールや杭はそのままに地面だけ直ったような状態だったと言う。


「地面だけ直った?」

「何回試してもダメでね。もう諦めたって言って……不貞寝して……」

「ウチも〜……あれ? ぐすっ……ちょっと思い出しちゃった〜……はは……」

「やめてよ……もう。死んじゃったもんは仕方ないでしょ……」

「何を泣いてんだ?」


 女たちの涙を見ていると、何時ぞやと同じように胸の奥がチクリと痛む。


 聖痕は見えないので魔法ではなさそうだが、一体これは何なのか。


「適当な岩男のところに連れてってやる。そこで戦ってみろ」

「ヤクト君ってば優しいね〜」

「優しいイケメン最高! 私と1発どう? コブ付きだけど」

「女には優しくしなきゃいけないからな」

「あらあら。発言もイケメンだわ」


 ヤクトは小説の物語を読んでも情緒が育たなかったらしい。たった1人で生きるか死ぬかの狩猟生活を続ける中では単なる読み物に過ぎなかったのだろう。


 僕が狩りを変わって養ってもよかったのだが、ヤクトに食べ物を与えようとするとあの男が現れて邪魔をするのでどうしようもなかった。


 結局のところ、あの男が何をしたかったのか今だにわからない。今もあの島の山頂でただ座っているだけなのだろうか。


「キタキタ! 5メートル級!」

「ここは1体ずつしか出ない……たぶん」

「足から崩すからね! 援護お願い!」

「頭を殴れ」


 3人とも強化魔法の適性者らしい。


「届かないよぉ〜! うひゃ〜! き、強化ぁ〜!」

「そんくらい避けろ。ミスったら死ぬぞ」

 

 語尾を伸ばすのが癖らしい中くらいの胸の女は盾を強化して後ろに飛び退き、衝撃を殺しつつ距離を取った。


「えいっ!」

「右斜め後ろに倒れる。左へ避けろ。倒れたところで頭を狙え」

「ひ、左ね!?」

「キタキタキタキタ! キタァ! どっせぇーい!」

 

 その隙に岩男の背後へ回り込んだ胸の大きな女が膝裏を槌で殴って転ばせ、キタキタと五月蝿い貧乳の女が頭に槌を振り下ろした。

 

「「「よしっ!」」」


 岩男が崩れて消えると大喜びで飛び跳ねてハイタッチを交わし、掌サイズの鉱石を麻袋に入れて大喜びしている。


「やっぱ5メートル級の石は大きい!」

「金か銅なら嬉しいわ」

「中層は鉄鉱石ばっかりだもんね〜」


 落盤を生き延びて一皮剥けたのか、きゃあきゃあ五月蝿くとも腰は引けていない。上から徐々に降りて採掘作業を続けていたらしい3人はしっかりと連携できているようだ。


 ナレーターでさえなければ3人まとめて養ってあげたいところだが、会話を求められるとツラいので未亡人ハーレムは夢のまた夢か。

 

「ここで狩りを続けたいなら身体強化を覚えろ」

「身体強化はね……あれ難しいんだよ」

「体をどう強化するのかイメージが湧かないの」

「1回もできたことないよ〜」


 ヤクト。是非とも彼女たちに教えてあげてくれ。


 僕は強化魔法の使い手だったからヤクトに色々と教えた。主に強化魔法への対策だったが、敵を知るところから戦術は生まれる。

 

 魔法はイメージが大切。確固としたイメージを掴めなければ行使できない。


「自分の流れを止める感じらしい」

「流れを止める?」

「固めるんじゃないんだ?」

「息を止めるとか〜?」

「違う。呼吸や脈拍も関係ない。他は全部保ったままで流れだけ止める……らしい」

「「「ん〜?」」」

 

 本当にそういうイメージで行使していたので他に説明しようがない。


 強化魔法は戦闘特化。普段の生活では使い所の無い適性だが、近接戦においては無類の強さを発揮する。


 身体強化が付与されている間は砲弾が直撃しようと、あらゆる物を焼き尽くし蒸発させる複合魔法『流炎』を受けようと、絶対に死なない。


 ただ全裸になるだけだ。僕は体と服を同時に強化できなかったから。


 戦闘訓練と称して『流炎』の最大火力――蒼く渦巻く焔『蒼流炎』を撃ち放ち、すっ裸になった僕を見つめる冷たい灰色の瞳を思い出して泣けてきた。


 彼女はどうしているだろう。ビクトリア号の内偵任務に就いて暫しのち、定時連絡が途絶えたと聞いた。もしも彼女が生きていて、ヤクトと邂逅する日が来たならば、その時、僕は何を思うのか。


 ナレーターとなってなお、他人との繋がりに恐怖しなければならないとは。僕の病も筋金入りだが、彼女に限ってのことなら仕方ない気もする。


 女神の試練が人の精神に齎らす疾患のせいで嘘を吐けず、そのくせ他人を気遣うことができる彼女を――僕は好きだったから。



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