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獣以上、人間以下  作者: 盆ジョリオ
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獣以上、人間以下

「対象が間もなくエンゲイジメントビルの横を通り過ぎます。舞花さんは対象の攻撃に備え、迎撃の準備してください。万が一ミスをしても後ろには後藤君がいます。焦らず攻撃してください」


 廃墟になった家やビルが並び、どんよりとした曇り空の中、無線越しでも分かるほど活舌が良く、きれいな声が彩を与えてくれる。


「了解。だけど、大丈夫だよ。そんな失敗なんてしないから」

「ふふっ。それもそうですね。だけど、たまには失敗して落ち込んだ姿を見せたほうが可愛げがあって男の子にも好感持たれますよ」


 通信の向こうから茶化すように余計なお世話な言葉が伝わってくる。


「生憎、私はそんな事に興味ないから失敗なんてしません」

「そうですか。では成功するということなので舞花さんの好物の苺ケーキを用意して待ってますね」

「お!いいねー。ちゃんと苺が大きいのは私にしておいてよ」

「はいはい。分かりましたよ」


 そんな会話をしていると今回の対象であるラセツがビルの間から現れる。


「対象が現れた。集中したいから通信切るよ」


 舞花は向こうの返事を聞かずに一方的に通信を切る。


「本当に鬼みたいなやつだね」


 対象のラセツの姿は2メートルほどの大きさで、全身が赤く、頭からは黄色い二本の角が生えている。

 そんな姿をしているのであれば調査班が鬼なんて言うのも納得だ。


「風向きの把握良し。視界良好。それじゃあ、やりますか!」


 人のいない廃墟ビルの屋上から通常の狙撃銃よりも大きい見た目をした銃のトリガーに指をかけ、ラセツの頭に狙いを定める。

 するとラセツはこちらに気が付き、口を大きく開け、エネルギーの塊を形成していく。


 そんなラセツの行動を冷静に見極めていく。


 上からの報告だとあの攻撃の威力はビルを壊すほどらしいけど、攻撃までの溜めが長い。

 殺気には敏感だけど、それじゃあ私の攻撃避けることなんてできないよね。

 やっぱりラセツの知能は個体差があるらしいね。


「一瞬で死ねるから痛くないよ」


 舞花の体から強烈な電流が流れ始め、トリガーを引くと凄まじい威力で銃弾が発射される。

 その銃弾は一瞬でラセツの頭を、溜めていたエネルギーごと吹き飛ばし、舗装された道路が地割れのように割れていく。


「よし、命中。って、なんだこれー!」

 

 銃に目をやると銃口が消し飛んで、使い物にならなくなっていた。


「やっぱり安物はダメだね。今度はしっかりとしたものを支給してもらわないと」


 ショックを受けつつもラセツが消滅したことを確認すると通信を始める。


「こちら北関東地方の警戒レベル5地区を担当している舞花。対象のラセツの撃退に成功。これから後ろの二人を連れ、帰還します」

「了解。流石ですね。それでは帰還を待っています」


 連絡を終え、帰還の準備をし始めると後ろから若い男性の声が聞こえる。


「舞花さん流石です!その強さ化け物ですよ」


 声の主は自分の部下である高橋由紀也(たかはしゆきや)だった。

 由紀也は純粋に私の強さに感銘を受け、はしゃいでいる様子だ。


 そんな由紀也の様子を見て少し複雑な気分になる。


「舞花さんどうしたんですか?また、俺が馬鹿だから何か不快にさせることしちゃいましたか?」


 由紀也は自分の行動が舞花を不快にさせたと思い、不安そうに確認する。


 本当にこの子は鈍感なのか良く分からない人だ。


「ううん。私はただの人間なのになーって思っただけだよ」

「それは、ただの比喩表現ですよ。本気で舞花さんがラセツみたいな化け物だと思っているわけないじゃないですか」


 由紀也は舞花を不快にさせたわけでは無い事を悟ると、安堵し、笑いながら冗談であることを伝える。


「違うの。化け物なんて言葉は私に言うべきじゃないの」

「えーっと、それって、舞花さんよりも強い人がいるってことですか?そんなに多くないと思うけどなー」


 由紀也は楽しそうに両手の指を折りながら該当しそうな人物を思い描き、数える。

 

 そんな様子に少しあきれながらも問いかけてみる。


「ねえ、高橋君にとって化け物の定義って何?」


 由紀也はその問に対し、自信満々に応える。


「そりゃ、異次元なくらい強い奴ですよ」

「じゃあなんでそういう人達が強いか分かる?」

「うーん、やっぱりその人自身の才能だったり、血のにじむような努力をした結果じゃないですか?」

「確かにそういう類の人は強い。けれど、それだけじゃ化け物じゃなくて人間だよ」


 由紀也は舞花の言っていることが良く分からず、右手の人差し指を額に当てながら質問する。


「それってどういうことですか?」


 舞花は周りにある備品などを回収しながらその問に答え始める。


「私の考えでは人間は三つのカテゴリーに分けることが出来るの」

「あ、ちょっと待ってください」


 由紀也は話を理解するためにメモ帳とボールペンを出し、舞花の言葉を一言一句書く準備をする。


「お待たせしました」


 舞花は一度咳払いをし、説明を始める。


「一つは人間。ここでいう人間は神様の法律、つまり、道徳心だったり、倫理観だったりするもの。国や地域ごとに多少の違いはあっても、一般的な人間が持っている善悪を理解し、それを守っている人達」


 由紀也は必死にメモを取る。舞花はそんな様子の由紀也に合わせて、慣れた様子でメモを書き終わるのを待つ。


 「すみません。続きお願いします」


 舞花は頷き、説明を続ける。


「二つ目は獣。ここで言う獣は自分の欲望のために、他人に害をなす存在。例えば、弱い立場の人に対し、暴力とかセクハラとかする人のこと。けど、この人達は自分が行っていることの本質を知らないだけ。理解できれば、二度とやらない。そういう集団」


 舞花はまた由紀也がメモを取り終わったら説明を始める。


「最後が化け物。この化け物は神の法律であることを理解しているにも関わらず、簡単にそれを破る人たち」


 由紀也がその説明に対し、ボールペンを頭に当てながら質問をする。


「それって獣と同じじゃないんですか」

「違うよ。さっきも言ったけど、獣達は自分がしていることの本質を理解していないだけ。自分の行っていることを理解し、改めれば人間に戻れる。けれど、化け物は違う。私の中の化け物っていうのは自分の行動を理解しているにもかかわらず神様の法律を簡単に破る存在なの」


 あんなやつらと私が同じわけがない。

 いくら強くなることが出来てもあんな風になりたくない。

 人間性が欠けているやつら。不気味で、気味が悪い。


 次の言葉を発する時の舞花の表情は無意識のうちにこわばり、何か特別な意思を込めて言い放つ。


「つまり、獣以上、人間以下の存在だってことよ」


 由紀也は必死に理解しようとするが、まったく話についていけていない。

 加えて、鈍感な性格から舞花の雰囲気が変わったことにも気が付かずに頓珍漢な質問をする。


「なんかよくわかんないですけど。つまり、舞花さんよりも強い奴はほとんどこの化け物だってことですか。」


 そんな悪く言えば馬鹿っぽい様子の由紀也を見たら毒気を抜かれ、柔らかい表情に戻る。


「そういうこと。本当に強いやつは人間性が欠けているのよ。まあ、私も良く分かってないんだ。これはある人の受け売りでね」

「その理屈で行くと俺も化け物ってことでいいのかな」


 後ろからもう一つ男性の声が聞こえてくる。

 声の方に振り向くとそこにはピアスや指輪、ネックレスなど沢山のアクセサリーを着け、自慢の金髪をいじっている男がいつの間にか立っていた。


 その男の姿を見た瞬間、舞花の表情が汚物を見るような目に変わる。


「後藤君。いつもなら勝手に帰還しているはずだけど、どうかしたの」


 舞花の声や態度は明かに冷たく、この男を拒絶している。

 しかし、後藤は拒絶されているのにも関わらず、平気な様子で話をする。


「残念なことに実は俺、中央の方に呼ばれたのでもう明日にはここにいないんですよ。だから別れの挨拶をしに来ました」


 後藤の態度は言葉では残念そうにしているがその態度は真逆。

 むしろ舞花に対して嫌みのように言い放つ。


「あなたが中央に?」


 舞花が怪訝な様子で後藤に対し、確認する。


「そうなんですよ。なんだかラセツが暴れてるらしいけど痕跡すらつかめていないから俺の力を借りたいらしいです」


「そう、それじゃさっさと行きなさい」


 舞花の振舞や表情は別れだというのに後藤という男に対し露骨に嫌悪感を見せ、それを改める素振りも見せない。


「冷たいですねー。まあ舞花さんは俺のこと嫌いでしょうから当然ですね。由紀也君も短い間だったけどこれから頑張ってね」

「は、はい」

 

 軽く由紀也に対し手を振ると後藤はそのまま去っていく。


「寂しくなりますね」

「そんなわけないでしょ。いなくなってむしろうれしいわ」


 由紀也の鈍感な性格は良いこともあるが悪いこともある。

 こんなに態度に表しているのにそれを察することが出来ない。

 その為、たまに人の痛いところを突いてしまい問題になったりする。


「後藤さんは化け物なんですか?」


 由紀也は先ほど後藤が自分自身で自分は化け物と言っていた為、本当かどうか気になり舞花に聞く。


 すると、舞花は再び、露骨に表情を変える。


「あの男は化け物なんかじゃない。ただのいかれた獣よ」


 そう、あいつは私が一番嫌いなタイプ。傲慢で、自分の行動の本質を理解しないただの愚か者。

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