第03話 決戦は金曜日
東名にとってとても長い1週間だった、朝早く起きて尾行をして昼寝をして、日が沈んでからも尾行をする、風が吹いても休みたいくらいなのに雨の日も尾行を続けた、それだけの思いをして今週は成果は何も得られなかった。
タケミチが玄関をくぐり、1階に明かりが灯ったところでスマホを取り出す。
元々1週間では難しいと伝えてはいたのだが、律子にそれを伝える事は気が重かった。
「とうわけで、旦那様は特段問題の無い1週間でした」
電話口の律子の沈黙が東名の心を抉る、罵倒されたいわけでは無いが何も言ってくれないのは更に辛い。
「・・・本当に、何もなかったんですか」
長い沈黙の後に律子が口を開いた、何もなかったことは本来ならば喜ぶべきところなのに律子の声は深く沈んでいた、何かあった方が良かったかのように。
「ええ、毎日通勤中に尾行をしていましたが、朝も夜も寄り道などせずにまっすぐ帰宅されていました、同僚と駅まで一緒に歩くことはありましたが、降りる駅は皆バラバラで、タケミチ様は一人で帰宅されていました」
「そうですか・・・」
そう言って律子は再び沈黙してしまった、何も言われない方が何か言われるよりも何倍も東名を責める。
沈黙に耐え切れず東名は一つ切り札を切る事にした。
「実は・・・、来週の金曜日にタケミチ様に動きが有るようです」
「なんでそれを早く言わないの、それは間違いないんでしょうね」
まくしたてる律子をなだめた後で東名は、
「事前にお話をしますと、契約期間の延長目的と取られかねなくて・・・」
「お金なら払います、絶対に証拠を押さえてください」
あからさまに豹変する律子に東名は戸惑い顔を歪めながら承諾をし、これが電話でよかったと胸を撫で下ろした。
「金曜日、夜8時に待ち合わせか」
東名は確認するかのように呟き、踵を返すと家路に付いた。
それから金曜日まで、東名はタケミチの尾行を続けたが特に何も無かった。
最初はおいしいと思ったランチも2度目になると感動は薄れてしまう、ポイントカードも一杯になり次回来店時はサービスになったが、今日でここに来ることも無くなるだろう。
予定の時刻までまだ早いが、東名は通い慣れた会社まで歩き始めた。