第19話 尾行は基本
「もう普通にしゃべっても大丈夫ですよ」
笑いがこみ上げてくるのを我慢しながら東名が言うと、カチコチに固まっていた厳道も安堵したのかソファに沈み込んだ。
「なぜ盗聴器が有るとわかったんですか」
依頼の話よりも東名の取った行動に厳道は興味を示した、入ってくるなり盗聴されているなどと言われれば仕方のない話ではある。
「まあいろいろ・・・ですね、私どもは仕事柄依頼者の電話での話し方などで、ある程度の事が解るんです」
東名は厳道の奥様から依頼を受けて何度も尾行しているため、今日来ている服がリツコが選んだ物だとわかっていた、などとは言えないためにそれらしい事を言って胡麻化した。
しかしそれを聞いた厳道は東名の言葉に驚きを隠せず、得意げにしゃべっている東名の事を信じ込んでしまった。
「これは驚きました、実は今回お伺いしたのはその事なんです」
目を輝かせながら話し出した厳道に、鼻薬をきかせすぎたかと思った東名だったが、リツコからは報酬が貰えなかったため、自分の力量を示すためにも、切り札はどんどん使っていくことにした。
東名は得意げにしていた物の、依頼内容によっては窮地に立たされてしまう事を思い出し、調子に乗りすぎていたと反省した、
「実は、最近誰かに尾行されている気がしていまして」
「・・・なるほど、それはいつごろからですか」
厳道の言葉に一瞬言葉に詰まった東名だったが、なんとか声を絞り出した、
「こちらにお電話を差し上げた1週間ほど前からでしょうか、正確な日にちはわかりませんが」
東名は自分の尾行がバレていたのでは無い事が確認出来て、つい安堵の表情を浮かべてしまったが、すぐに顔を引き締め、
「そうですか、相手が探偵なら尾行がバレるような事は無いと思いますが」
と、さりげなく何回も尾行をしていてもバレなかった自分の仕事を褒めて話を続けた、
「厳道様は、尾行されるような心当たりは有りますか」
厳道は額の汗をハンカチで拭き、少し俯きながらぼそぼそと話し始めた、
「実は、恥ずかしながら一回だけ火遊びをしたことが有りまして」
「はい、よ」
東名は返事の後に、よく存じ上げております、と出かかった言葉を無理やり飲み込んだ、あくまでも厳道とは初対面の体なのだからそんな事を知っているわけが無いのだ。