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とうめい探偵  作者: M.TOTTORI
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第01話 依頼

夏本番にはまだまだ及ばないが、早朝と夜は多少過し易いが13時を少し回った辺りでは太陽はいよいよ元気を増し、少しでも涼しいだろうと日陰に入っても気休めにしかならず、日傘を差している人たちに恨みの視線を投げかけつつ蜃気楼に揺れる坂の終わりを睨み付けた。

冷房の効いた自宅で目的地をスマートフォンで確認したときには思いもしなかった事なのだが、高低差はスマホの画面では判らない事に気付いたのは上り坂の真ん中を過ぎた辺りだった。

(この道をまっすぐ登りきった所にあるテナントビルの2階・・・)

駅からはそれほど遠くないために好立地だと思っていたが、毎日この坂を昇り降りするとなると気が遠くなるのは今日の暑さのせいだけでは無いはずだ。

(そんな事にはならないようしたいな・・・)

坂を登りきりようやく辿り着いた古臭いビルには当然エレベーターも無く、狭い階段を上がると目的地の坂上シークレットサービス、通称SSSと呼ばれている探偵事務所に着いた。

磨りガラスの扉の横に有るベルを鳴らすと中で激しい物音が聞こえ、暫くすると男が出てきた。

よれよれのYシャツの袖を捲くり上げ胸元までボタンを外し、顔には寝てましたと言わんばかりの痕が付いていた。

「電話で予約を入れた赤木です」

「はいはい、お待ちしておりました、どうぞお入り下さい」

(待っていたではなくて寝ていただろう)

中に入るとソファとテーブルと沢山のファイルの入った棚が並び、その奥には寝床・・・では無く事務机がある、典型的な事務所といった作りになっていた。

男に着席を促され席に着く、よく冷えた室内は少しかび臭かったが、外の地獄に比べたら天国は言い過ぎにしても生き返った気持ちにさせてくれた。

テーブルの向かいに座った男性が挨拶と同時に名刺を差し出す、赤木と名乗った女性は差し出された名刺をしげしげと見た後で口を開いた、

「とうめい・・・さん、とお読みすればよろしいですか?」

赤木の前に座っている男は大きく手を振りながら答える、

「よく間違われますが違います、私の名前は東名と書いて”とうな”と読みます」

(よく間違えられるのならば名刺には振り仮名を振れば良いのに)

赤木は読み間違いの謝罪に頭を下げた、東名はそれを制止しながら、

「お気になさらずに、話しの掴みに丁度良いので振り仮名は振らない事にしているんですよ」

と答えた、赤木はそれを聞いて怪訝そうな顔をしたが、すぐに涼しい顔に戻った。

「昔からよく読み間違いをされていましてね、屋号も東名だと読み間違いされる方も多いと思いまして、坂の上にあるから坂上にしたんですよ」

そう言うと東名は頭を掻きながら笑った。

(坂上さんがやっているからはなくて、まさかの坂の上に有るから坂上だったとは・・・ね)

にこやかな笑みを浮かべている東名に赤木は今日赴いた用件を告げる、

「今回こちらに赴いたのは・・・その、浮気調査をお願いしたくて・・・」

それを聞いた東名はまじめな顔に戻り、赤木の言葉に耳を傾ける、

「旦那は元々残業の多い部署で帰りが遅かったのですが・・・、急な用事で会社に電話をしましたらすでに退社していた事がありまして」

「その事を問いただしたらはぐらかされた、と」

「はい」

(何も聞かずによくわかるな、この人)

東名の言葉に赤木は頷いた。

「なるほど良く有るお話ですね、分かりました赤木様の依頼に対して満足して頂ける様に、出来る限りの結果でお答えしたいと思います、ではこちらにご記入をお願いします」

(良く有る事、なのか・・・)

東名の言葉に赤木は安堵の表情を浮かべると、差し出された書類に必要事項を書き込み東名に返した。

「ご依頼者様は赤木 律子様・・・ですね、調査対象者は夫である厳道(たけみち)様でよろしいですね」

律子は無言で頭を下げて同意した、東名はそれを確認して再び書類に目を落とすと、

「お子様は娘が一人・・・(みどり)様・・・と」

東名はちらりと律子の後ろに視線をやるとすぐに視線を律子に戻して、

「ご用件は、ご主人様の浮気調査でよろしいですね」

律子は一瞬だけ顔を背けると、再び無言で頭を下げて同意をした。

「わかりました、それでは調査期間は何日にしましょう」

「その・・・、出来れば早い方が良いのですが・・・」

東名は少し考えた後で書類に日付を書き加えて、

「ではとりあえず一週間にしておきます、もちろん結果が出なければ延長という事になりますが、その際の追加料金については調整させていただきます」

それからしばらくの間律子と東名は話し合い、話が纏まったのは15時を過ぎたころだった。

「それでは、よろしくお願いいたします」

そう言って律子は席を立ち深々と頭を下げた、東名も席を立って頭を下げる。

階段を降りながら律子は再び見送る東名に頭を下げ、日傘を差して帰って行った。

律子の姿が見えなくなると東名は事務所に戻り、パソコンを立ち上げて何やら調べ始めた。


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