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東の国の呪術師たち―纏繞の人々―  作者: 須能 雪羽
第九幕:露往霜来
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第118話:彼ノ狙ヒハ極大ニ及

「仙石。一つの都市を滅ぼし、討伐部隊も壊滅させたと聞いた。その手腕は怖ろしいものだ。しかし君が、本懐を果たすことはない」


 仙石さんの声と同じに、粗忽さんの声も響いた。ここは司令室。当然に放送設備くらいはある。


「何者かは知りませんが、失敬な」

「おや名乗っていなかったか、失礼した。私は衛士府衛士特越隊。及び塞護支部長の粗忽という」

「なるほど、あなたがそうでしたか。どうりで図面にも載っていない通路に詳しい筈だ」


 仙石さんはやはり、基本的に真面目でいい人なのだと思う。粗忽さんが話している間には、煉獄の攻撃がない。


「なぜ果たせないのか、塞護支部長の見解をお聞かせいただけますかね」

「知れたこと。我ら一隊と、新人の纏式士と拮抗するようではな。奥の手の一つや二つあるのかもしれんが、たかが知れている」


 その指摘の前半は当たっているのだろうけど、後半は外れている。

 仙石さん単独では、彼自身の自由な行動を担保出来ない。それは荒増さんと四神さん、それに機械人形の姉妹が証明した。


「それはたしかに。だが奥の手の部分を、侮ってもらっては困る。私は既に、世界をこの手に握っているも同然なのだから」

「世界を?」

「それはもう遠江さんに話しました。彼に聞くといい」


 聞いた。聞いたけど。既に握っている?


「仙石さん! 僕が聞いたのは、まだ準備段階という話でしたよ!」

「そのとおりですよ。本格運用するには、ね。私は失敗という言葉が嫌いでして、試験運用はもうやってみたのですよ」


 ――なんてことだ。あんな計画を引き合いに出されては、誰も何も言えなくなってしまう。


「遠江くん。どういうことだ。奴はなにを言っている?」

「三角形です――」

「三角?」

「式術では、図形そのものから力を得られます。円は変化とその停滞、四角は安定。三角は、負荷。平たく言えば攻撃に向いています」


 聞いたことはある。と粗忽さんは言うものの、そんな怖れるほどの三角形がどこにあるのか。そこには全く予測がついていないらしい。


「任意に好きな場所を三つ結ぶとでも言うなら、各国の都市を囲むことも出来るだろうが。そうではないのだろう?」

「もちろんです。式術の式とは、そのまま順番のこと。順番とは手順です。それがなければ、なにも現象は起きません」

「するとどこだ。今回被害があった、白鸞と塞護。それにどこか近くの都市を加えたとして、世界をどうこうなど出来るのか」


 粗忽さんの予測は、合っている。

 しかし同時に、間違ってもいる。三角形を描くのに選ぶのは、最も遠い場所だ。


蒼天そうてんの裏です」

「なに?」

「白鸞と塞護。正確にはそこに根付いた茅呪樹を頂点として、もう一つをこの惑星の反対側に置く。それが仙石さんの三角形です」


 三角形を描くと聞いて、僕も地表と平行に大きくすることを考えた。しかし彼の計画は、地表と垂直。

 僕たちの住むこの惑星。蒼天の中核を通る三角形を描くこと。

 図形の大きさと、そこに送られる霊の強さ。それによって影響も大きくなる。仙石さんの計画は、この星そのものの破壊を質に取ることだ。


「……そんなことが可能なのか」

「図形が大きくなれば、その安定した動作は難しくなります。でも星の中核をちょっと引っ掻くくらいなら、きっと僕にも出来ます」


 ただし強い怨念を蓄えた、屍鬼でも使うならだ。しかし姉の頭骨は鈴歌が持っている筈。こちらの予測が正しいなら、父の頭骨は白鸞にある。

 そこまでを伝えると、粗忽さんは「なんだ」と不敵に笑う。


「ならば、やはりハッタリか!」

「他にも用意してるのかもねぇ」


 あっさり否定したのは、見外さんだ。思わぬ方向から梯子を外されて、粗忽さんは不満を隠さない。


「他にも? そんな物が、そんじょそこらに――」

「人を恨みながら死んだ人なんて、教科書にいくらでも載ってるよ千引ちゃん」


 それはそうだ。少し調べれば、その墓がどこにあるのかもすぐに分かる。その為に昔から、そういう首は首塚などに祀ったりするのだ。少しでも怨念を抑える為に。


「どうします?」

「どうもこうも――」


 即断即決の印象が強い粗忽さんにも、さすがに迷いの色が見えた。

 まさか三角形を完成させる為に星を破壊するなどと、本末転倒なことはしないと思うが。だがそれを可能にする為の手段は、まだ隠し持っている可能性が高い。


「いや待て。結局、遠江くんの役どころはなんなんだ?」

「僕が、萌花さん――あの新苗に霊を注ぐと種が出来るんだそうです。それが最後の頂点になるとか」


 それならやはり新苗をどうにかしよう。そう言い出す気がした。もしもそうなら予告したように、僕は萌花さんを守ることに集中する。

 だがそれを避ける為に、嘘を吐くのは違うと思った。


「ふむ。二つ聞きたいんだが」

「はい?」

「どうしてそこまで、君に拘る?」

「それは、よく分かりません。霊の質がいい、というようなことは言われましたが」


 これには相槌もなかった。代わりに三拍ほど何か考えている様子があって、二つ目の質問がされる。


「ここで奴の手が届かないうちに、その種を破壊したらどうなる?」

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