8−1、蒼月 side
8−1、蒼月 side
マルスたちと別れてもう約2年。
無事、修論も修論発表も、私の実験引き継ぎも済んだ。
けど、
内定していた企業から不況のあおりか内定取り消しを言われたため、卒業してすぐには働けなくなった。
コレは結構、腹が立ったが、
「その企業よりもいい働き口をバイトしながらでも、卒業してから探そう。」
と心に決めている。
まぁ、いろいろと大変だったが、今日で学校生活ともお別れだ。
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あの時、こちらの世界に帰って来た時、私は無人の研究室にいた。
後で父さんに聞いた話によると、「一番、気になるところ」に帰り着く者らしい。
そうなると私は、一番、研究室の事が気になっていたようだ。
研究室には、もう何日も私が不在だったことを示すように、菌を一定温度で育てる機械・インキュベーターの中にはビッシリと隙間なくプレート培地に生えた大腸菌
(栄養不足で死滅した形跡があるものもあった(泣))。
同じく、一定の温度で液体培地の液を振りながら育てる、つまり振とう培養中であった大腸菌は………、一切、使い物にならない状態だった。
今から思い返しても…
(悲惨だった…。)
それから、大腸菌たちを処分、使っていた実験器具をキレイにして家に帰ると父・母に怒られたり、同情されたり……。
とにかく散々(さんざん)だった。
ただ、服のポケットに“伴侶に渡すマルスの指輪”が入っていたことに気がついた時だけ、すごく泣きたくなったことも散々な気分に拍車をかけてくれたことは今も忘れられない。
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「おめっとぉさぁん〜ww」
「おめでとうwマイちゃんww」
元・成人式の服装に身を包んだ私たちは卒業式を終え、研究室へと帰っていた。
マイちゃんは父母以外に、私が研究室を数日間も無断欠席した本当の理由を知る唯一の人物だ。
「なぁ、蒼月。あんた、あの感情のこともう考えてへんのんか?」
「…あぁ、あれね。」
マルスとの別れの時、マルスに抱きしめられていた腕が解かれ、温かなマルスの体温が離れた瞬間、“寂しい…”、“心に何か隙間があいたような感じがする”と思ってしまった。
その時の感情のことだ。
別にマルスに言われたからではないが、マルスたちと別れたあと、男性とは付き合っていない。
この2年間。
マルスの事を思い出しては胸が痛くなることが頻繁にあった。
夜も眠れなくなるくらいに。
上の空の気分が自分でも止められない。
そんなことが長く続き、とうとう寝不足が祟って、倒れてしまった。
その時お見舞いに来てくれたマイちゃんに、「あんた、なんか悩んでんのんか?悩んでるんやったら相談くらいのったるで。」と言われて、話してしまったため、父母以外に無断欠席の真実を知る人物となった訳だ。
マイちゃんが言うには「恋が原因で私は倒れた」だそうだ。
(自覚はないんだけれどね……)
チェーンに通し、首にかけていたリオウさんが作ったあのピンキーリングとポケットに入っていたマルスの指輪を胸元から取り出して、私は眺めるのだった。
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