7−17、蒼月 side
7−17、蒼月 side
ティルから離れると、今度はマルスへと近づく。
「ソウ…」
先ほどの不機嫌は鳴りをひそめたマルスは、今度は熱のこもった瞳で私の目を見る。
「マルス、いろいろありがとう。お世話になりました。」
「いや、あれぐらい何ともない……」
少し苦笑いするマルス。
「本当にありがとう。じゃぁ、私、帰るね。」
私は握手するために手を差し出した。
マルスの手が差し出した手に触ったと思った瞬間、思い切り手を引っ張られ、私は体ごとマルスの胸にぶつかった。
そしてギュっと抱きしめられる。
私の体を包み込む優しいあたたかさ。
(安心する………)
体を預けきって、ボーっとする。
まるで、大きな海に大の字になってプカプカ浮かぶような気持だ。
少し、抱きしめる力の強さを強くされたとき、
「…すぐに迎えに行く。エンジ様に結婚を申し込みに。」
強い意志を込めた言葉を耳元で囁くマルス。
「何を言われたか」安心しきった頭でやっと理解した私は、
「あのね、私はまだあと約2年の学業と、就職活動と就職が待っているの。
すぐ来られても困るし、それに、まだあなたとは付き合ってもいないんだけど?」
と言う。
(本当に私の意志は無視なんだから!(呆))
なんだかマルスの行動がおかしくて、さっきの胸の痛みが溶けたようだった。
あたたかな気持ちで嬉しくなり、クスクスと笑いだした私の顔を情けない顔をしたマルスが覗きこんでくる。
「………学業が、終わったら迎えに行く。」
「マルス?」
難しそうな、困ったようなマルスの声。
「その時まで、俺以外の者を近づけるな。
ソウがなんと言おうと、お前は俺のものだ。」
マルスの指が私の顎にかかって、ほとんど力をかけずに顔を持ち上げられる。
だんだんとマルスの顔が近付くのと同時に、私もゆっくりと瞼を閉じた。
マルスの唇が私の唇と重なって小さな音を立てて離れる。
私にはそれがごくごく自然なことに思えて、簡単に受け入れてしまった。
(あれ?変なの??なんの心境変化なわけ???)
自分の行動と気持ちが理解できずに困っていると、苦笑するマルスが私の眼に映る。
「必ず迎えに行く。それまで少しの別れだ。」
そう言うとマルスはサッともう一度私にキスとぎゅっと抱擁をして、抱きしめていた腕を解いてくれた。
腕が解かれて温かなマルスの体温が離れた瞬間、
(寂しい…)
「心に何か隙間があいたような感じがする」と再び胸の痛みを覚えた。
(あれ?なんで寂しいなんて思うのかな?)
「里心でもついたかな?」と私はこの感情を処理することにした。
自分の心を精一杯考える私は、マルスが私のジーンズのポケットに何かを自然な動きでねじ込んだ事に気がついていなかった。
ボーっと考えていると、「もう、いいかぁ〜?」と言うモーブの声が聞こえる。
「うん、いいわ。」
いままで考えていたことを振り払うかのように明るい声で返事する。
「それじゃぁ、鏡に手をついて。」
モーブに言われたとおり、両手を鏡にピッタリと這わす。
「行っくよぉぉ〜ww」
そうモーブが言った途端、光が鏡からあふれ出す。
(帰るのね…)
ズキっと、胸にひときわ大きな痛みを感じる。
後ろを振り返りマルスたちをもう一度見て……、
「みんな!さようなら!!!」
そう言ったのを最後に私は光に飲み込まれた。
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