7−1、 蒼月 side
7−1、 蒼月 side
マルスに父さんの手記を読み聞かせているうちに夜が明けてしまった。
「マルスはそうか…、ではソウは帰る方法が見つかってしまったのだな……」
寂しそうにポツリ。と呟いたマルス。
「…そうね。でもこんなに簡単に帰える方法が見つかるなんて思わなかったよ。」
(ホント、父さんて素晴らしく先見の目があるのね…)
いや、よく考えれば“カンタスの鏡”とやらに物凄く非常に多大な迷惑をかけられていたせいで、予防線を張ることがうまくなってしまったのかもしれない。
(…父よ、哀れなり…………)
自分も巻き込まれている時点で自分も哀れであるが、自分の事は棚上げしてあちらの世界で教師として過ごしているだろう父に同情してしまう。
「ソウ……。」
「なに?」
「急には…、帰らないな?」
「ん、うん。何?真剣な顔して。」
朝日にマルスの横顔が照らされた真剣な瞳を見上げて目線を合わせる。
目線を外そうとするも、絡み合った目線が目を反らすことを許してくれない。
なんだか胸の奥がざわめくようで、でも、心地よくて……
(何だか変な気持ち……)
出会ってまだ数日のマルスに感じるこの暖かい感情…………。
(う〜ん、きっと兄弟がいて、真剣に心配してくれたらこんな気持ちになるのかな?)
ぼ〜っとそんなことを考えていた。
すると、頬に温かな感触を感じて意識を元に戻す。
頬にあてられていたのはマルスの手のひら。
(あったかい…)
頬にあてられたマルスの手に私の手を重ね、目を閉じて頬ずりする。
ふっと目を開けるとマルスの顔が近くにあった。
(…?なんでそんなに熱のこもったような思いつめた目で見るの??)
更にぼ〜っとマルスの顔をみて考え込んでいる私。
そして、更に顔を近づけてくるマルス。
マルスの瞼がゆっくりと閉じられて…………。
(わ〜、睫毛が長い。いいなぁ〜…)
なんて思っている間にマルスの顔に焦点が結べなくなった。
暗くなった視界と私の唇が感じる温かく柔らかな感触。
(…へ??)
チュっと軽い音を立てて顔を少し離したマルスは私の顔を相変わらずみつめていた。
(…は?……え、えぇ!!?キスされたぁぁ!!!?)
されたことを自覚した瞬間、ボンと音を立てそうな勢いで真っ赤になった私は両手で頭を覆い「は?……っへ??」と驚きに混乱していた。
すると今度は私の体全体が温かいものに包まれた。
最初はふんわりと、段々(だんだん)とギュッと力をこめて抱きしめられている。
(…マルス!!どうしちゃったの!!!兄弟ではこんなことしないよ!!!!!)
マルスの腕の中で固まったまま私は動けなくなった。
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