6−10 マルス side
6−10 マルス side
(エンジ様が異世界とこの世界を初めて渡った時、“カンタスの鏡”の影響があったと聞いている。)
図書寮と王立図書館では、“カンタスの鏡”関連について調べるつもりだった。
そうだ、
「ソウ、“カンタスの鏡”についてエンジ様から何か聞いていないか?」
「ソウの父親・エンジ様なら、娘に何か言っているかもしれない。」と思ったのだが、結局、ソウは“カンタスの鏡”について何も知らず、爆弾発言をした。
「う〜ん、聞いたことないけど??“エンジ様”って父さんの事を呼ぶのはやめようよ。」
「なんだか恥ずかしいし、むず痒いからさ。普通に“おじさん”って呼んでよ。」と俺の右肩にポムっと手を乗せてきた。
(“エンジ様”といったらこの世界の“神”だぞ!!)
“おじさん”などと気軽に呼べる存在では決してない。
同意見のリオウ、ティル、俺から「“おじさん”などとは呼べない。」と間髪入れずにソウの申し出はキッパリと断られた。
が、「どうして?」と聞いてくる。
(もしや、何も自分の父母について知らないのか?)
嫌な予感がする。
「いくらなんでもそれはないはずだ。忘れているだけだろう。」と、嫌な予感を打ち消し、ソウの父母についての記憶を誘導するために簡単に“ソウの父母についての基礎知識”を教えてみたのだが…
ソウはそろそろと右手を上げて、「質問。私の父と母、そして2人の親友は一体何をしたの??」と聞いてきた。
(…本当に父母から何の説明も受けてないのか!!)
「いくらなんでも、それはないだろう!!!」と驚いて固まり、青くなる。
(もしや、完全に“こっちの世界”についての知識がないのか!!)
同時に「「「ちょっと待て(よ)(ください)。」」」と俺、ティル、リオウはソウに言い放つ。
ソウから少し距離を取って円陣になり俺たち3人はと話し合いはじめた。
「おい、まさか父母に“何も知らされてない”という訳ではないだろうな?」
ソウの父母が「“こちらの世界”に帰ってくるなど考えもしなかったため、娘であるソウに何も伝えていないのではないか。」とは考えられる。
娘には“父母の実体験”=“空想の冒険記”として位は話聞かせているだろうと予測していたので、先ほど“ソウの父母についての記憶を誘導する”方法を取ったのだ。
“おとぎ話”として、この世界の子供はみんな聞いている。その話を聞いていれば、先ほど話した「基礎知識」=「実話」と重ねられると思ったのだが、見当違いだったようだ。
「いえ、“知らされていなかった”という可能性はありえますよ、マルス様。なんせ自分が“王族”とすら知らなかったのですから。」とリオウ。
「そうだね、兄ちゃん。マルス様、このまま何も“エンジ様”について知らせずにいる方がいいんじゃない?」とティル。
「いや。噛み砕いて簡単に説明しておいた方がよいかもしれぬ。後で俺の父にも会わせるしな。」
(ソウにはこの世界の歴史を、一から教えないとダメか…)
“ソウの帰る方法を探す”前に、“ソウに自分の立場を教える”ことを考えなければならないようだ。
「でも、どうやって説明するのさ〜?」
ティルが頭の後ろに両手を組んで頭を抱え込んでいる。
「どうせ図書寮に向かうのだから“カンタスの鏡について”を探せば、ソウの父親、“エンジ様について”も一緒に出てくるさ。その時に教えればよいだろうな。」
俺の結論を合図に円陣を解く。
(そうと決まれば、“善は急げ”だ)
「おい、ソウ。図書寮へ向かうぞ。“エンジ様”、“カンタスの鏡”についてはそこで話す。」
ソウに声をかけ、背後に感じるリオウのニヤニヤとした笑いや、ティルの憐れむような目線が気になりつつも図書寮へと再び歩き出した。
御意見・ご感想、誤字・脱字のご指摘は教えて下さると嬉しいです。
追伸
ご愛読くださった方がもうすぐ4000人になります!
本当に読んで下さってありがとうございます!!
至らない作者ではありますが頑張って完結させていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
多茅 春人