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オオカミノ国  作者: 十乃字
三章・衝突は必然
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57.傍迷惑な助っ人

 前話のあらすじ

 王国軍は撤退していたけれど、マリアとレイアはオウガの治療のためにツザの町に残った。


 グリフォン討伐から一月。季節が進み、秋も深まり木々も新緑から色を変え始めた頃。オウガたちは未だツザの町にいた。


 オウガとシュリの故郷、オオカミ族の村を目指して始まった彼らの旅だったが、オオカミ族の生き残りであるハヤテたちから村が既に存在しないことを告げられ、イヌ族に組み込まれてしまったオオカミ族の解放を誓い合った。


 しかしイヌ族領への侵入、解放したオオカミ族の住処など課題は多い。


 何から始めた物かと悩んでいたオウガたちに町運営の助力を提案したのは、ツザの町新町長となった猫獣人のトラヤだった。


 今でこそ獣人ばかりの町になってしまっているが、レムリア王国からほど近いツザの町に人間が流入してくるのは時間の問題で、悩んでいた新たなツザの町の住人たちに元町代表のトラヤの存在を明かして勧めたのはオウガたちであったが、町長職を押し付けた罪悪感もあり、に二つ返事で手伝いを了承したのだ。


 隠れ里からもほとんどの住民たちが戻り、逆に元奴隷など人間と相容れないと判断した者たちが隠れ里へと移り住むことになった。


 こうして、ツザの町は順調に生まれ変わっていったのだが――。




「オウガお兄ちゃん、これも追加だって!」


「あ、ありがとうミライ」


 ダンッと机の上に積まれた書類に、オウガは引きつった笑みで冷や汗を流す。それに気付かず、一仕事終えたとばかりにネコ娘はふぅっと大げさに額の汗を拭いている。


 養父によって剣一筋で育てられたオウガには明らかに向いていない人事配置であったが、これには新しい町ならではの切実な事情があった。


 以前のツザの町で、人間を取り仕切っていたマシューは王国へ、宿屋などの商業施設の多くを取り仕切っていた犬獣人のカクは東のイヌ族領へ。


 町に唯一残ったトラヤは元は食堂の女将であり、農家などの取りまとめを行っていたのだ。


 当初は「あいつ等に独占されてた分野にも口を出せる」と喜んでいたトラヤであったが、ここで大きな誤算があった。


「えーと、これは……『グリフォンの肉取り扱い認可願い』? とっくに食べ尽くしちゃったのにどこから仕入れてくるつもりだよ。却下かな」


 バサリと乱雑に申請書を不許可の山に積む。


「次は……『グリフォンまんじゅう販売許可』? 原材料はモロ鳥って、これじゃ嘘じゃないか」


 グリフォンとは似てもつかない、野山を駆ける翼の退化した大きな地鳥を思い浮かべ、オウガは顔を歪める。


 そこへ、


「それが案外そうでもない」


 治療師マリアの下での一日の修行を終え、書類仕事に戻ってきたシュリが却下山に葬られそうになった申請書を受け取った。口には何やらパンのような物を咥えている。


「おかえり、シュリ。それで、どういうこと?」


「これお土産の試作品。饅頭の表面にグリフォンの絵を焼き付けるんだって」


 そう言ってシュリの差し出した饅頭には、見ようによってはグリフォンと思えなくもない焼き印が押されていた。


「あはは、かわいー!」


「いいのかな、それって……。まぁ、とりあえずイタダキマス」


 オウガたちは受け取ったグリフォンまんじゅうを眺めると、噛り付いた。


「味は良い」


「んー! おいしーね!」


「んぐんぐ……。美味いね、これ。中に肉が入ってるのか」


 各々舌鼓を打っていると、


「悪くはないから許可は出す」


 いち早く食べ終えたシュリが書類に認可印を押す。


「モロ鳥の肉だけど、いいの?」


「うん。但し書きで『肉について尋ねられたら正直に答えること、さもなくば認可取り消しと罰金』って書いとく」


 悪戯っぽく微笑むシュリに、オウガは思わず苦笑する。 


「シュリも来てくれたし一気に進めるか……。これは――『グリフォンの羽毛布団』? えーっと、グリフォンの羽ってどうしたっけ?」


「町の復興資金にってトラヤさんに全部あげちゃったね。価値はあるんだろうけど、とても数を揃えれるとは思えないから却下。それこそモロ鳥の羽とか使うつもりじゃない?」


「そうなのかな。あ、同じ人の申請書がもう一つ……『鳥獣人の羽毛枕』」


「……作れるくらい羽貰ったら飛べなくなりそう」


「ハルお姉ちゃんのお羽、きもちいいよー?」


「ミライ、それ外で言っちゃダメ」


「んー? はーい」


 強欲な商人に呆れる二人に対して、鳥獣人の娘ハルとお昼寝をすることもあるミライはその翼に包まれる感触を楽しそうに思い出していた。


 シュリはその様子に微笑みを浮かべながらも、友人の身の安全のために注意を促すのだった。




 戦火を逃れるべく多くの住民が町を離れ、前途多難に思えたツザの町の復興だったのだが、人の欲に底は無いのか、災害獣グリフォンが討伐された事が瞬く間に広まり、連日商人たちが押し寄せる事態となっていた。


 予想外の人と物の流れで一息に活気付いたツザであったが、別の問題が持ち上がってしまった。


 町役場の事務員不足。


 獣人領では文字の読み書きができる者は商人を志した者たちばかりと極めて少なく、かと言って金の臭いに群がってきた出自の知れぬ人間の商人から登用するわけにもいかず、オウガのように明らかに向いていない人材にまでも「文字が読めるだけで十分だから」と書類仕事が回ってきているのだ。


「オウガは計算をしないでいいだけ楽」


 一向に減らない申請書の山に辟易するオウガに、シュリが呆れた苦笑で苦言を呈する。


 オウガとて簡単な計算ができないわけではないが、作業速度と信頼性の兼ね合いで申請書の一次審査の振るい落とし役となっている。


 その分目を通す書類は膨大な訳で、楽であると指摘されても本人は不満を顔に浮かべる。


「でも――」


「オウガくん大変ッス!」


 そこへ飛び込んできたのが、隠れ里から移住した犬獣人の娘リナだった。


「リナ、どうしたの?」


「商人の護衛に王国兵が混じってて――」


「すぐに行く!」


「オウガ!? ……もう、書類から逃げたいだけじゃないの? 私も行ってすぐに終わらせて来る」


 聞き終わる前に書類を放り出して飛び出していったオウガに、溜息を吐いたシュリも後を追う。


「シュリも聞く前に行っちゃったッス……」


「なにかあったのー?」


「ミライちゃんは色々危ないから行かない方がいいッスよ」


「んー? わかったー」




   ◇




 オウガたちが駆け付けたのは、一月前には幾度となく世話になったお馴染みの宿屋。店の前に人だかりが出来ており、妙に騒がしくなっていた。


「なにこれ?」


 オウガたちが人込みを掻き分けて店内に入ると、一階の酒場に人が集まっていた。


 その中心では、王国騎士らしき女が――両手に獣人の娘を侍らせていた。


「はあぁぁ。この艶! 肌触り! 堪らないっ! やはり健康な獣人の毛並みは最高だ!」


 獣耳に頬擦りし、背中越しに回した手で尻尾を愛おし気に撫でまわす。


 獣耳を弄られてる猫獣人の娘は必死に離れようとしているが、細い腰を女騎士にガッチリと捕まれて逃げることができない。尻尾を撫でられる狐獣人の娘は、抵抗を諦めたのかぐったりとしてされるがままとなっている。


 関わりたくない、と思ったオウガだったが、いつの間にか背後に回ったシュリが無言で彼の背中を押す。ピンと逆立った獣耳は、シュリもあの女騎士を警戒している証拠だろう。


 オウガは渋々前に出た。


「嫌がってるよ。放してやってくれないか?」


「む。私のモフモフ天国を邪魔しようとは――はっ!? 美人獣人が二人も!? ありがとう神様!」


「え? うわっ! ――んっ!?」


 何を思ったのか、両手に侍らせていた獣人娘を解放した女騎士は、間髪入れずオウガたちへと飛びかかった。オウガは咄嗟に腕を掴み、逆に地面に組み敷いたのだが、女騎士はその態勢からオウガの尻尾をへと指を艶めかしく這い回した。


「この……変態」


 額に青筋を浮かべたシュリが、息を荒くして握り拳振り上げた、その時。


「ナターシャ!? 何をやっているんだお前は!?」


 騒ぎを聞きつけたのか、店内へと駆け込んできた王国騎士レイアが悲鳴のような怒声を上げる。


「やあ、レイア。元気かい? ちょっとハーレムを作りに来たよ」


 女騎士ナターシャは楽しそうに笑うと、オウガの尻尾に頬を摺り寄せた。



 いつも応援ありがとうございます。

 ブックマークや評価、ご意見ご感想など頂けますと作者が喜びます。




 これにて三章終了。

 幕間を挟んで四章へと入ります。



 今回は幕間のあらすじ「シュリの手記3(仮)」も一回分の更新日としようかと思います。

 三章が予想外に長いので。よろしければ暇つぶし程度に目を通してやってください。

 本編の投稿は約一週間後となります。多分。


 それではもうしばらくの間、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

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