52.人と獣の協定
前話のあらすじ
オウガたちの活躍で王国軍に大打撃を与えたのだけれど、そこにグリフォンが乱入してきた。
「こりゃあ、やべえな……」
暴走したディメリア伯爵軍。彼らと獣人たちとの戦争が始まってしまい、その行く末を遠巻きに見届けていた王国軍の中で、ソレの正体に最初に思い至ったのは、司令官のアランだった。
「アラン殿? 何かあるのですか?」
副官として同行していたラウルが問うと、
「アレ、飛んでるの見えるか?」
「アレ、ですか? 大きい鳥のようですが……伯爵軍と獣人との戦闘が始まってから目撃情報が入ってきている物では?」
オウガたちの上空を飛び回っていたのが絶滅したはずの鳥獣人であるとは夢にも思わず、無害な死肉喰らいの巨鳥の類だろうとラウルが考えていると、
「いや、それは俺も何度か見かけたが、明らかにアレはサイズがでかい。いつもの鳥が人並みなら、今飛んでるのは小さめの家くらいはある。そんなデカい生物を、俺はそんなには知らないぜ?」
「まさか……?」
「ドラゴン……いや、噂通りなら火を噴くか地響きのような鳴き声ってやつがあるのか。それがないなら――グリフォンか」
アランの呟きに王国軍の視線が伯爵軍の上空に集まる中、グリフォンの巨体が戦場の真ん中へと急降下した。
遠目にまるで棒っきれのように薙ぎ払われているのは、伯爵軍の兵士だろうか。
「まずい! もし今獣人たちが撤退すれば、伯爵軍の兵士に多くの犠牲者が出てしまいます! アラン殿、救援の許可を!」
「ちょっと待ってよラウル。今あそこにいるのは造反した伯爵軍でしょ? 彼らを助けるために危険に首突っ込む気かい?」
アランに指揮権を押し付けた王国騎士クリスが血気に盛るラウルを押し留めようとするが、
「ディメスやディメリア伯爵家家臣はともかく、一兵士には罪はないよ。アラン殿!」
「あー、はいはい。歩兵部隊は逃走してくる伯爵軍を確保して懲罰対象の貴族がいないか確認。騎兵部隊はグリフォンの気を引いて伯爵軍の撤退を補助。それと、使者を立てて獣人に停戦を申し込んできてくれ」
「獣人軍ってロマス伯爵の名乗り無視したんですよね? 停戦の使者とか理解してくれるんですかね?」
言外にさっさと撤退させてよという空気を隠さないクリスにアランは苦笑すると、
「人間が混じっているという話だが、あの防衛陣地には人間の知識を感じる。恐らく元軍人か何かで、軍事教育をされた人間がいるんだろうさ」
◇
「騎兵が単騎で? この忙しい時に。……切り捨てとく?」
「え、いや、シュリ殿……? 白旗を振っておりますし、以前言っておられた使者ではないでしょうか?」
「冗談、分かってる。急ぐから会いに行く。どこ?」
仇敵の登場に、今すぐにでもオウガの下へと向かいたいシュリは報告へ上がった獣人の戦士を急かし、王国軍からの使者の下へと追い立てる。
「私が指揮官」と名乗って現れた年若い獣人の娘に王国兵の使者が視線を戸惑わせるも、周りの獣人たちは至って神妙にしており、悪ふざけの類ではないと察すると、
「停戦を提案しに参りました。条件はこちらに」
使者の差し出した書状には、目の前の伯爵軍を見逃すことの見返りに、先の戦いで捕虜となった獣人たちを解放するということと、司令官の署名が記されていた。
皆の視線が集まり固唾を飲む重苦しい雰囲気の中、シュリは細めた目で書状を眺めると、最後の署名に僅かに口元を緩めた。意外なその様子に戦士たちが訝しむ。
「シュリ殿?」
「何でもない。これ、随分そちらに都合がいいことが書かれているけれど?」
「前司令官が戦死し、今の司令官は赴任されたばかりであまり権限が強くないのです。最大限の誠意とお考えください」
「でしょうね」
使者の返答に意味深な呟きを返すと、シュリは用意されていた紙に返事を書き連ね、丸めて使者へと押し付けた。
「はいこれ、返事。必ず司令官に渡すように。皆は王国との戦いを止めてグリフォンに集中するように伝えて! ……そちらは誰か指示を?」
「返事の如何に関わらず、騎兵部隊の王国騎士様が指揮を執り、伯爵軍の兵には撤退の指示が出ているはずです。協力していただけると助かります」
「協力、ね」
内心鼻で笑いそうになってしまったシュリが堪える。
(アレに人間がどこまで立ち向かえるの?)
逃げ惑う兵士も、立ち向かう戦士も、軽く薙ぎ払う巨鳥を遠目に睨み付け、シュリは拳を握りしめた。
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今回短くて申し訳ありません。どうしてもここで切りたくなってしまいまして。
次話をすぐに投稿できれば良かったのですが、いつも通り四日後ということで気長にお待ちいただけますようよろしくお願いいたします。




