表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

せめて電話してから 後編



久しぶりっ☆




「誰かお客さんきてるのー? 駿介しゅんすけ


 まずい。まずいまずい。

 姉ちゃんにとっての俺は立派な健康体。菜保なほにとっての俺は立派な風邪っぴき。矛盾が生じてしまう。演技が、ばれてしまう。

 あぁどうしよう! どうしよう!


「あーもしかして彼女? ワタシにも見せなさいよ。何? もしかして二人でイチャイチャしてたわけ?」 

「あーもしかしてお姉さん? 駿介、あたしもお姉さんにあいさつしたい。もしかしたらホラ……長い付き合いになるかもしれないでしょ?」


 あぁどうしよう! こうしている間にも姉ちゃんは軽やかな足取りで階段を上ってくる。どうしよう、どうしよう! 

 危険信号が鳴り響く。赤く光るランプが点滅する。頭から湯気が出そうだ。いや、もうでてるかもしれない。

 

「入るわよー」

「あっ、ハーイ!」


 もう、いいや。




「で、駿介はあたしを帰らせようとして嘘をついたのね?」

「よくやったわ~駿介。自己防衛ができるなんて、アンタは昔っからしっかりした子だったからねぇ。お姉ちゃん嬉しい」

「…………チッ、このミルクタンクが。上半身に尻ついてんじゃないの?」

「…………調子にのんなよ貧弱小娘。悔しかったらオヤジ臭じゃなくて女のフェロモン出しなさいよ」


「あのーお二人さん? なんでこんな殺気ムンムンなわけ?」


 菜保も姉ちゃんも汚物を見るような眼で互いを睨んでいる。菜保は舌打ちを何度も繰り返し、姉ちゃんは冷ややかな目からビームを出す勢いである。

 あぁ、俺がいたたまれないじゃないか。イカン、胃が痛くなってきた。


「大体何? この乳、でかすぎてみっともない。アカたまるんじゃないの?」

「あら、小さい人は羨ましいわぁ。だって肩がこらないんだものねぇ?」

「駿介と一緒にこれから大きくしていくの。オバハンは黙ってろ」


 なぁ女って胸で決まるのか? 

 目の前で繰り広げられる静かな戦いにバクバクと心臓が鳴った。頼むどうか俺に話を振らないでくれ。


「駿介は昔っからお姉ちゃん子だったのよね。ほら覚えてる? 一緒にお風呂入ったじゃな~い。あの頃頭洗うとき、お湯を頭にかけるたびに泣き喚いてたわよね」

「ねっ、姉ちゃん! お願いだから風呂とかそっちの話は!」

「怖いテレビ番組見た後とか絶対一緒だったわよねぇ。懐かしいわ。でも入らなくなったのは小五のころだから……ふふ、そう考えたら駿介も大人になったのね」

「わああああああ!!」


 大切なものがガラガラ崩れていく気がした。菜保を見ると、これまたニンマリと嬉しそうに笑っている。


「そーか駿介くんは小学五年生までお姉ちゃんとお風呂に入ってたんだぁ」

「菜保! 違う、これはきっと何かの陰謀だ!」


 どうかどうかどうかどうか菜保がぽろっと誰かにもらしたりしませんように。




「疲れた……」


 うなだれてため息をつく。彼女なんだからと姉ちゃんが言ったので近くまで菜保を送っていくことにしたのだ。なんだかんだ言って人情が厚い姉ちゃんのこと。応援は、してくれているに違いない。

 ……疲労困憊。本当に熱が出ている感じがする。


「いや~駿介の秘密も知っちゃったし、今日はたくさん収穫あったなぁ」

「誰にも言うなよ? いやマジで」

「何で一緒に入らなくなったの? 友達もそうだったから? それともイロイロ?」

「……いや」


 空を見上げた。今日の夕焼けは赤みがない代わりに鮮やかなサーモンピンク色をしていた。真っ赤な空が好きなのだが、こんな空も悪くはないと思う。

 

「姉ちゃんに好きな人ができてさ……。今もそうだけど、半身浴がダイエットにいいって言われてたから。俺がいると半身浴なんてできないだろ? ホラー番組見てめちゃくちゃ怖くなっても、小五からは頑張って一人で入ってた」

「はっはーん。お姉ちゃん思いなんだ」


 結局好きな人と結ばれずに、姉ちゃんは風呂で半身浴しているフリをしながら声を押し殺して泣いていた。本人はなにも言わないが、俺は知っている。


「そんで、なんで仮病使ったの?」

「…………疲れると思ったから」


 わぁ正直に言っちゃった。右ストレートがとんでくるぞと身構える。……でもいつまでたっても右ストレートはとんでこない。

 

「言ってくれたら帰ったのになあ」

「…………」


 ちょっと罪悪感。

 コンビニが見える。あそこで何か買ってやろうか。カルパスとかカルパスとかカルパスとか。この前後ろの席のヤツがカルパスのことをアルパカと言っていて噴き出したことがある。


「んじゃあここでいいよ。じゃあねバイバイ」

「え、コンビニ寄らないか? カルパス買ってやるぞ」

「いーよ」


 後ろ姿を見せて走り去っていく。菜保が遠くなっていく。サーモンピンクの空。長い影。

 明日カルパスを持って行ってやろう。ついでにスルメも。菜保は仮病の俺を一生懸命看病してくれたんだし。



「きゃっほう今日の晩御飯はくさやだぁぁぁ!」


 菜保はスキップして高く跳び上がっていた。心の底から嬉しそうだった。




お姉ちゃん欲しい


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ