ここにいてはいけません
案内された部屋は、これまで使っていたものとは比べものにならないほど整っていた。
けれど、落ち着かなかった。
豪華すぎる空間は、どこか居場所ではない気がする。
少しだけ息苦しくなって、リリアは廊下へ出た。
静かな屋敷だった。
足音が響くほどに、人の気配が少ない。
それでも、しばらく歩いたところで——
「……何をしているのですか」
背後から、声がかかった。
振り返ると、ひとりの女性が立っていた。
きちんと整えられた身なり。
控えめながら隙のない佇まい。
使用人だと、すぐに分かる。
「申し訳ありません。少し、外の空気を……」
言い終わる前に、その女性は一歩近づいた。
距離を詰める動きに、思わず体が強張る。
「ここにいてはいけません」
はっきりとした口調だった。
拒絶。
その二文字が、頭をよぎる。
「すぐにお部屋へお戻りください」
淡々と告げられる。
責めるでもなく、怒るでもなく。
けれど、有無を言わせない響き。
「……はい」
反射的に頷く。
やはり、ここでも同じなのだろうか。
居てはいけない存在。
そう思った瞬間——
「廊下は、まだ整備が終わっておりません」
続けられた言葉に、足が止まる。
「足元も不安定ですし、万が一お怪我でもなされば……」
そこで一度、言葉が切れた。
ほんのわずかに、視線が柔らぐ。
「公爵様に申し訳が立ちません」
最後は、また淡々とした声に戻っていた。
けれど。
先ほど感じたものとは、少し違う。
責められているわけではない。
ただ、止められている。
それだけのはずなのに——
なぜか、追い出されたような感覚は薄れていた。
「お部屋までご案内いたします」
女性はそう言って、静かに歩き出す。
振り返ることはない。
けれど、その歩幅はリリアに合わせられていた。
無理に急がされることもない。
ただ、一定の距離を保ったまま導かれる。
その後ろ姿を見つめながら、リリアは小さく息を吐いた。
——ここは、前とは違うのかもしれない。
まだ、分からない。
けれど。
少なくとも、完全な拒絶ではない。
そう思えた。




