表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰にも届かなかった僕の声が、君にだけ響いた。  作者: ひとひら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/44

第2話 君の声が聞こえた日

退院してからの僕は、まだこの世界にうまくなじめずにいた。


なるべく人のいない時間を選んで、公園へ足を運ぶ。

風にそよぐ木々の音だけが、僕のかわりに何かを語っているようだった。


誰もいないベンチに座って、そっと目を閉じる。

そして、小さな声で歌を紡ぐ。


――まるで祈るように。


それは、僕が唯一、自分らしくいられる時間だった。

誰にも届かなくていい。

自分の奥にだけ響いてくれれば、それで良かった。


でも、その日だけは違った。


「……きれいな、声」


その言葉が、空気をふるわせた。


はっとして顔を上げると、そこに女の人が立っていた。

やさしげな目をして、僕の歌に耳を傾けていた。


綺麗なんて……そんな風に言われたことなんて、なかった。

僕の声は、ただ痛みと傷だけを運んできたものだったから。


思わず立ち上がって、その場を離れた。

なにも言えなかった。呼吸がうまくできなかった。

ただ、遠ざかる足音だけがやけに大きく響いていた。


また、怖くなってしまった。

僕の声を好きだなんて、どうしてそんなことが言えるんだろう。

――そんなはず、ないのに。


 


***


(視点転換/彼女)


あの日、偶然通りかかった先で、誰かが飛び降りたと騒いでいた。


ストレッチャーに横たわる少年。

あまりに綺麗な顔立ちに、思わず息を呑んだ。

でも、それ以上に感じたのは、

彼の姿が、あまりにも儚くて、消えそうだったこと。


「どうして、こんなに綺麗な子が……」


その日から、ずっと彼のことが頭から離れなかった。


数日後、いつものように公園を歩いていると、

どこからか、歌声が聴こえてきた。


風に乗って届く、透明で、優しくて、切ない歌。


まるで、水面にひとしずく落ちるような、静かな響きだった。


声の方へそっと歩いていくと、

そこには、あの日の少年がいた。


ベンチに座って、目を閉じて、ひとりで歌っていた。


あの時の傷も、苦しみも、

まるでなかったかのように。


……でも、背中はどこか寂しそうだった。


「すみません」


そう声をかけた瞬間、

彼ははっとしたように立ち上がり、何も言わずに去ってしまった。


でも、あの声が耳から離れない。


きっと彼は、本当は誰かに気づいてほしいと思っていた。

……あの歌には、そんな祈りがこもっていた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ