上級ダンジョン攻略の報告をしよう
報告の内容は、情報の少ない五十層以降から、最深部の七十層に至るまでの道のり。
その道中で出会った魔物の種類と特徴。それに俺達が気付いた簡単な攻略方法もだな。
加えて、その魔物から得られた「魔石」の質。節目の階層に現れる、ボスモンスターの強さ。特徴や特性など事細かに報告する。
更に、道中で手に入れた宝箱の中身までも報告する。これに関しては「任意」で良いと言われたが、特に隠す必要も無かった為、纏めて報告した。
今回の探索で俺たちが手に入れた魔石やアイテムの総数を聞いて、ギルド長のトーマスや学者連中は、目ん玉が飛び出る程驚いていたよ。
例外は賢者殿だったな。彼女は終始、楽しそうに笑っていたよ。
「……以上で報告を終わります。最後に私個人の所感ですが、五十層以降に限って言えば、想定以上に難易度が高いと感じました。寒さと吹雪に対する備え。そして姿の見えない魔物を素早く発見する能力……これらが必須となります」
この難易度こそが「上級ダンジョン」の下層だと言われればそこまでだがね……。
「これは……何とも悩ましい話ですな……」
話を聞いたトーマスが、眉間に皺を寄せて唸っている。
ギルドとしては、下層で手に入る品々――特に「魔石」が欲しい。だが安易に攻略を推奨すると、死人の山を築くだけだろう。
この話、どこかで聞いた事がないか?
……そうだ。これは「特級ダンジョン」で発生した問題と同じ構造なのだ。
つまり、高難易度のダンジョンを探索できる冒険者がいない事が、そもそもの問題なのだ。
では、その問題を発生させた「根本」の原因はなんだ? それは十年前に起こった悲劇……「大氾濫」である。何処までも祟ってくれるな。
「……恥を忍んで、君に頼みたい事があるのだが……」
トーマスが俺の顔色を窺いながら、そんな事を言い出した。何を言おうとしているのかは分かっているぞ?
「既存の冒険者の指導……ですか? 現状では無理、とだけ言わせて頂きます。私達にも、やらなければならない事が山積していますので」
「……そうか。いや、無理を言って済まなかった」
俺の答えに、落胆した顔をするトーマス。
申し訳ないが「世界の崩壊」という大問題に比べれば、ギルドの問題など些事でしかないのだ。
この問題は、五年・十年という長期間な視点を持って取り組まなければならない。現状で俺達がそんな長期間拘束されるわけにはいかんのだ。
「ああ、そう言えば。ギルド支部で売れなかった「魔石」を買い取って欲しいのですが……」
「うむ。それは喜んで買い取らせてもらうよ。しかし……とんでもない金額になりそうだな」
「一番大きいこの魔石はキープしておくつもりです。そこはご了承下さい」
あの「特級」の魔石は、後の使い道を考えてあるのだよ。
うん? 何に使うのかって? それはまだ秘密さ。
「そう言えば、この国の「魔石」不足について、あの後何か分かった事がありますか?」
少し前に、国内の魔石が不足しているという話を耳に挟んだのを思い出した。
「それについてはワシから伝えよう。どうやら国内の魔石を買い漁っては、国外へ持ち出している者達がおるようでのう。そやつ等の所為で、魔石不足が起こっておる、と言う所までは判明したわい」
昨今の魔石不足について、賢者殿が丁寧に説明してくれた……が、気になる事を言っていたな。
「者達……という事は、買い占めている者が複数いると?」
「その通りじゃ。しかもその者達が国外に出る場合も、複数のルートを使い北のサンテキア・東のハイデスへと向かっておったわ。お陰で国外へ出た後の足取りは全く掴めん」
「徹底していますね。余程「最終地点」を知られたくないのでしょうね」
そりゃあそうか。それだけ魔石を買い漁っていたら、「お前、そんなに集めて何してんの?」と問われるに決まっている。
つまり、買い占めた者達は、その集めた魔石の在処を知られたく無い。
そんな、正体を隠したい者達とは……。
「ひょっとしたら、『魔導を極めし侵略者』の可能性もあるのではないでしょうか?」
「うむ。ワシもそう考えておる」
ここで、俺と賢者殿の意見が一致した。
「連中からすると、魔石の購入ルートが判明してしまうと、自分達のアジトなり研究所なりの場所がバレてしまいますからね。そこを隠す為に、敢えて面倒な手段を使っているとも考えられます」
「それに、彼奴等は「人形兵士」を始めとして、様々な研究・実験を行うのに、大量の魔石を必要としているじゃろう。今一番怪しいのは彼奴等で間違いないであろうな」
その通りだ。出来れば魔石の供給を断ちたいが、それは難しいだろう。どうせ魔石を直接買い付けている者は、末端の構成員――捨て駒だろうしな。そいつ等を捕まえても大した情報は持ってないだろうからな。
後手に回ざるを得んか。面倒な事だよ。
最後になるが、上級ダンジョンにて遭遇した「魔物」についてだ。
今回遭遇した魔物の中で、ギルドの記録に無い魔物が幾つか存在した。代表的なのはボスモンスターだな。
面白かったのは、色違いのゴブリンだ。どうやら他のダンジョンで、似た様な事例の存在が確認されているそうだ。
ギルドの記録によると、「青い」ゴブリンがいるらしいのだ。探せば他の色のゴブリンもいるかもな。
その「青」ゴブリンだが、どうやら「魔法」を使って攻撃してくるらしい。冒険者として暮らしていけば、その内出会えるかもしれんな。
ともあれ、今回の探索で遭遇した魔物は、全て新規登録扱いになった。めでたい……のか?
「貴重な情報の提供に感謝するよ。これからも宜しく頼む」
「ええ。こちらこそ、宜しくお願いします」
ギルド長トーマスと笑顔で握手を交わす。これで今回の要件は終わりだな。
そう思い、帰り支度をしようとしていた所で、
「済みませんが、もう少しダンジョンについて詳しい事が知りたいです!」
と、突然そんな事を言い始めた者が現れた。この男は、賢者殿が連れてきた学者の一人で、主にダンジョンの研究をしている学者なのだとか。
ダンジョン踏破者から直接話を聞ける機会など、そうそうあるものではない。なので、この機会に色々と聞いてみたいそうだ。
この男、名を「トシアス」という若者なのだが、何と言うか……良い意味で「変人」だったな。
普通の人間が気にしないレベルの細かい事まで聞いてきた。
例えば、ダンジョンの壁や床の「質感」だったり、ダンジョン内の「雪」が普通の雪と同じなのか? とか。
そんな事を気にしながら探索する冒険者はいないだろう……。だが、この若者はそこが気になるらしい。
面白い若者だ。そう思い以前に俺が作成した「ダンジョンについてのレポート」を、何気なくこの若者に見せてしまったのが運の尽きだったようだ。
始めはレポートを黙々と読んでいたのだが、次第に顔が紅潮していき、最後には小躍りを始めてしまった。余程レポートの内容が気に入ったのか。
仕舞いには「一緒にダンジョンについて研究しましょう!」と誘われてしまったよ。同類だと思われたのか?
「ありがたい申し出なのですが、私にはやらなければならない事が沢山ありますので、お断りさせて頂きます」
と断りの返事をしたのだが、トシアスはそれでも尚食い下がってきて、執拗に勧誘しれきたのだった。
その様子を、周りの人達も苦笑いしながら見ていたよ。いや、見ていないで止めてくれ。
このままでは収集がつかんか。仕方ない、今後も意見交換をする機会を設ける……という事でこの場は何とか治まったよ。ふぅ……やれやれだ。
帰りは賢者殿が送ってくれる事になった。
本来ならソニアが迎えに来てくれる手筈になっていたが、それは「上級ダンジョン」のある町で、しかも夕方だ。
この後に上級ダンジョンに向かい、何時間も待機してソニアを待つ。というのは時間の無駄でしかない。
そういう訳で、賢者殿のお言葉に甘える事にしよう。
「ほれ、さっさと行くぞい」
やれやれ、せっかちな事だ。
俺達はトーマスや学者達に別れの挨拶をして、賢者殿の転移魔法で我が家へと帰還するのであった。




