死神ユリウス
自警団を鎮圧したカルマは1人周囲を見渡し、集団の輪の外へ警戒を強めていた。
自体が飲み込めていない自警団も、カルマを警戒していたことで緊張が走り、無意識にカルマの視線の先を追いかけている。
「…来たか。」
そう呟くカルマの視線の先には、黒いマントの男が2人いる。
「…?
何かがおかしい。」
リヴァイとピトーは次の行動へと動き出そうとしていたが、リヴァイはいち早く後方の異変に気づき、カルマの元へ駆け寄る。ピトーも異様な空気を感じ取り、リヴァイの後を追う。
カルマはリヴァイが合流すると、少し安堵するように息を吐き、口を開いた。
「…説明は後でします。」
リヴァイはカルマの少ない言葉を理解し、剣を抜いた。
カルマは敵に視線を向けつつピトーにも声をかける。
「ピトーさん、自警団を退避させてください。これが終わった時に、領主は話し合いの場を設けてます。」
「!?
…どういうことだ!?」
「…それも後で説明します。」
カルマの言葉は少なく、それ以上の説明をする時間がない緊急性をピトーは察した。
「…くそ!
あの黒マントの男達から今すぐに退避だ!!」
ピトーにとってカルマの剣技は別次元のものだった。その男を警戒させる程の剣士がいるものなのかと半信半疑の中、仲間の命を最優先に考え退避を即断する。
リヴァイは黒いマントの男を警戒しながらカルマに訪ねる。
「俺はどっちの相手をすればいいんだ?
1人は身内なんだろ?」
黒いマントの2人の内1人からはシエルの人形劇の懐かしさを感じる。
「…身内は僕がやります。
リヴァイには"死神"ユリウスの相手を頼みたい。」
「!?」
教団のディオールが口にしていた"死神"。
しかしリヴァイが反応したのは、その名前の方だった。
「…ユリウス。」
ユリウスの生存。
この世界の戦争にシエルが参戦しなかった理由が、リヴァイの中で合致した瞬間だった。
「この世界では戦わなかったんだな、俺達。」
リヴァイは誰にも聞こえない声で小さく呟き、ユリウスに照準を合わせ呼吸を整える。
ユリウスは自警団のリーダーであるピトーを目で追っていたが、リヴァイから視線を向けられたその刹那、何かを直感し抜剣と同時にリヴァイへと斬りかかった。
同行してたもう1人もユリウスに合わせて動き出し、かつて共にシエルに生み出され、共に時間を過ごした、カルマへ刃を向ける。
リヴァイ、カルマ共にその刃を受ける。
「…"剣聖"ユリウス!!」
剣を交えながらリヴァイはユリウスをかつての二つ名で呼ぶ。
リヴァイの表情に見えるのは殺意ではなく、圧倒的な悔恨。
ユリウスは呼び掛けに反応せず、一撃目を受けられたことから次の剣技へとすぐさま切り替える。
命の奪い合いを望まないリヴァイとカルマは、剣を押し返し間合いを取り、今度はカルマが2人に呼び掛ける。
「僕たちは殺し合いがしたいわけじゃない。
話し合うことはできないのか?」
ユリウスは冷たい視線で答える。
「全てを奪う。それが俺の目的だ。」
ユリウスは応じる様子を一切見せないが、カルマは冷静に返す。
「今の一撃でわかっただろ?
僕らは君達と互角以上に戦える。その上ここには領主の援軍が辿り着いている。不利なのは君達だ。」
ユリウスはそれでも動じない。
「互角だとすれば、殺意のないお前らに殺意のある俺が負けるはずはない。
それに…ここで止まるようなら俺はその程度だった。それだけだ。」
ユリウスは再び踏み込もうとしたが、同行している1人が口を開いた。
「…こちらが提示した場所、日時で改めて2対2で決闘。それなら飲んでやる。
当然、こちらは殺すつもりで行く。」
領主側の援軍を放棄するだけで、一見リヴァイ達にメリットはない提案だが、カルマにとっては違った。
事前に2つの取り決めを領主としていたからだ。
一つ目は領主側がカルマに死神の情報を渡す代わりに、カルマは領民を守ること。
そして、二つ目はカルマと死神が衝突した際には、カルマの交渉が決裂するまでは、領主側の軍は死神に手を出さないこと。
つまり、ユリウスが次の一撃に踏み込めば、二つ目の取り決めが履行され、領主側の軍を交えた文字通り死闘が始まる。たとえ2対2の不利な状況になったとしてカルマはそれを望まない。カルマの真意を読み切った提案だった。
「…見透かされているか。
…わかった。その条件で構わない。」
リヴァイ側としてはどう出るか気掛かりなのはユリウスだったが、同行者の提案には口出しせず、剣を鞘に納めた。
リヴァイはユリウスに声をかける。
「ユリウス、なぜこんな無差別に近いことを…。」
ユリウスは足を止め、迷いのない目で答える。
「…俺の意思は、戦時に死んだ仲間の無念を晴らすことだ。」
ユリウス達は場所と日時を伝え、その場を立ち去った。
「ユリウス…俺はお前とは戦いたくなかった…。」
リヴァイは下を向き1人つぶやいた。
カルマも思うところはあったが、リヴァイへ伝えるべきことを優先する。
「…リヴァイ、これから領主に一緒に会ってくれ。そこで話し合いの場を設けることに成功したと口裏を合わせてほしい。」
自分同様かそれ以上の状況に置かれつつ、気丈に振る舞うカルマを見て、リヴァイも切り替える。
「…わかった。」
2人が話していると退避指示を出し終えたピトーと、女性を連れたオビが駆け寄ってきた。
「…あれ?こいつが死神?」
オビは嫌そうな目でカルマを指差すが、
カルマはオビを相手にせず、リヴァイが代わりに答えた。
「(やっぱりカルマにはツンケンするのな。)
…死神はもう撤収したぞオビ。その子は?」
「領主の娘リーシャだ。」
リヴァイはやらかしやがったと呆れ顔をしている。ピトーはもちろんリーシャにはすぐに気づいた様子だった。
カルマはやりとりを聞き流しながら軍の方向に合図を送っている。すると1人の男がこちらに歩いてきた。
「お父様!」
「…」
ピトー、リーシャそれぞれの反応がある中、領主が近づいてきた。
「みんな、揃ってるね。ひとまず城に行き話をしよう。…ピトー君、これからのことも。」
ピトーは警戒しながら、領主に言う。
「動きはバレていたってことか。
…勝手な判断はできない。みんなに一言報告をしてから向かう。何人か連れて行くかもしれない。」
「構わないよ。」
領主は穏やかな表情で応え、今度はオビに視線を向ける。
「…君にも聞きたいことがあるんだ。」
「…あっ…はい。」
父親としての圧の強さをオビは感じ取り、珍しく低い物腰で応えた。




