ノエル&アオイVs.ウィン・ヤマト&セバ・スチャン9
「ん······んぅ? ここは?」
何が起こったのか思い出せない私は寝ぼけ眼で周囲を見回す。
その目に映ったのは自分の方を見る冒険者達と白い床。ウィンと戦っているらしきノエルだった。
それを見た私は自分がノエルを庇って致命傷を受けたことなどを思い出して起き上がる。
勿論未だに戦っているノエルの助太刀をするためだ。
しかし、私がノエルに近づいて行くにつれて不思議なことに気づく。
ノエルはウィン相手に苦戦しているどころかウィンを圧倒しているのだ。
ウィンはノエル相手に一方的な防戦を強いられている。
そして、私が傍観している内にノエルの体を赤いオーラが包んでいった。それと同時に何とか凌いでいたウィンがノエルの攻撃を凌ぎきれなくなり、ノエルの拳を受けて悲鳴を上げ始める。
「しっ、試合終了だ! それ以上の攻撃は止めろ!」
その段階で、周りにはられていた結界は解かれて、試合の終了が伝えられる。
しかし、ノエルはそれでも攻撃することをやめなかった。
「ノエル······?」
明らかに普段のノエルとは違う様子に私は戸惑いを隠すことが出来ない。
「アオイちゃん! 大丈夫だった!?」
「アオイ君······ノエル君は一体?」
審判の掛け声と共に試合が終わったからか、ノクスさんとミズキ姉さんが試合場まで降りてくる。
「おい! お前は奴の仲間だろう! さっさと奴を止めないか!」
二人の問いに答えようと私が口を開こうとすると同時にその言葉によって私の言葉が止められる。
見ると、セバ・スチャンさんを含めて何人かでノエルを止めようとしているみたいだが、暴風の領域の効果がまだ切れていなかったらしく、とても近づくことなど出来てはいないようだ。
「ちょっと! あなた······」
自分達が行けないような所に私を行かせようとする審判の人達を止めようと、口を開いたミズキ姉さんの肩を掴んで言葉を止める。
私もノエルのあんな状態を見ていたくはなかったからだ。
その後心配そうにこちらを見るミズキ姉さんに大丈夫という気持ちを込めて一つ頷き、ノエルの元へと向かう。
「──っ!」
やはりというか何と言うかウィンの暴風の領域の有効範囲に入った瞬間に体が切り裂かれる。
しかし、私は体が裂かれていくのを感じながらも気にせずに進んでいく。一々回復などさせていたらキリがないし、おそらくノエルの所にたどり着くまでに残りの魔力も使いきってしまうだろうからだ。
そして、何とかノエルの元へと辿り着くと自分の傷を癒してノエルに声をかけようとする。
しかし、その瞬間足がもつれて後ろからノエルに抱きつく形でぶつかってしまう。
しかし、そんな状態でもノエルはウィンへの攻撃を止めなかった。
私は少し怖くなり、ノエルに抱きつく手に力を込める。
しかし、その手もすぐにノエルによって振り払われ、私は少し後ろに後ずさる。
そして、ノエルが遂にこちらを振り向いたが······その目に映っていたのは普段私に見せてくれるような暖かな色では無く、狂気と怒りに染まった色だった。
私は一瞬怯んでしまったが、それでは駄目だと自分に言い聞かせる。それと同時に、ノエルも一瞬動きを止めた。
私はその隙を逃さずにノエルの両頬を自分の掌で挟むと、ノエルの目を真っ直ぐに見つめて
「もうやめてノエル! もう試合は終わっている!」
そう私が叫ぶと同時に、確かにノエルの瞳から狂気の色が消え去ったのだった。
今回で一応長かったノエルvs. ウィンは終わりです。「えっ!? そこでおわんの!?」と思われる方も多いかもしれませんが、そこはご了承お願いいたします。