新たな商談
アンリは転移魔術式の起動を終えると木箱の上から視線を下ろし手を挙げた。
「やぁ、今回も毎度ご贔屓にありがとうございます。荷物の確認お願いします。」
こちらこそ、と会釈をし兵士達が木箱蓋を空け納品の確認を始め、護衛と買物に着いてきたカイネとフラン、テオロギアへ帰るために共に転移したマイも木箱から降りて警戒から周囲を見渡していた。
アンリは代金を受け取り転移させるとムーラに歩み寄り領収書を渡して口を開く。
「紹介したい人がいると聞いたんだが誰だ?俺は忙しいから適当な用事なら次にして欲しいんだが。」
フランは倉庫入口に待機している人影を確認しアンリに耳打ちをし1歩下がる。
アンリはふむと頷き襟を正すとムーラを指差し、
「お見合いだな!?先に言ってくれればもっと小洒落た服を着てきたのに酷い人だね。」
「・・・流石はアンリ殿。普段と変わらぬイカレっぷり、正直手に余りますな。」
ムーラが笑い声とともに手招きで入口に待機していた男を呼び寄せるとアンリの頬が引き攣った。
「ムーラさんが男色なのは知ってるけど俺はノーマルなんだよ。ごめんな・・・。」
「違うわ!?シスターフランも布施を受け取った上でデマを流すでない!」
納品の確認をしていた兵士達も小声で何かを話しているのがわかりムーラは冷や汗を浮かべる。
誤解を解かなくてはと思いフランに向き直ると、
「既に鶏は鳴いておりましたので。それに神の言葉を遮る事は出来ないように噂とは広まるものですよ。」
言葉と同時にムーラは崩れ落ちた。
対応には困ったのか招かれた男は目線を泳がせ介抱するべきか悩むが誤解を増長する可能性を感じ諦めてアンリに視線を向ける。
「マルナ王リック様からの伝言を預かったカナトです。
貴方の仕事の話と言えば要件は伝わりますか?」
アンリは顎に手を当て思案する。
仕事・・・最近は店にも出ていないから家事の事か?
それとも新作料理の相談という線も有り得るだろう。
だが王の命令で来ている使者の問いに間違える訳にはいかないと思い参考としてカイネに向き直る。
「なぁ、客観的に伝えるならカイネの仕事はなんだ?」
カイネはアンリの横で歩みを止め同じポーズで思案を始めた。
神の教えを広め信仰を集める事だろう、そして信者から布施を得て生活をしている。
それをわかりやすく言うならこうだろうと思い口を開いた。
「見えぬ者を信じさせ、人と金を集める事だ。」
「詐欺師っぽいな・・・。」
「なっ違うぞ!?え・・・違うよな?」
マイの無言の蹴りがカイネに当たり2人の喧嘩が始まると怒声を背後に置いたアンリは頷き、
「仕事とはなかなか理解されないものだね。口にすれば尚更伝わらないと実感したよ。」
「流石・・・予想外の展開は聞いていたものより上です。」
「常に期待を裏切らない。それも商人の秘訣だよ。」
ハハハ、と笑うアンリに引き攣った笑みで応えたカナトは深呼吸をしてから気持ちを切り替えた。
「アンリ殿に相談があります。お時間よろしいですか?」
「うーん、まぁわかったよ。話だけでも聞こう。」
アンリは後ろに声を掛けようと振り向くとフランをレフェリーに白熱した喧嘩がありカナトと顔を見合わせる。
「先に行こうか。」
「そうですね。あっムーラ翁仲介ありがとうございました。」
一礼したカナトの背を追い出口に向かう。
ディストラント城内の客室でふむ、と頷いたアンリは机に腕を乗せ書類を捲った。
マルナの産業や貿易記録に魔族襲来の被害地域から損失と細かく書かれた文を確認してから顔を上げた。
「状況はわかったよ。竜人と獣人族にはマルナを襲わないように叱っとくから安心してくれ。」
「本当ですか!?まさか竜人族も傘下に収めてるとは・・・。」
「傘下じゃないけどね。族長が適当だけど他は気の良い人達だよ。」
カナトは腑に落ちない顔だが襲われ続けた過去がある以上仕方ないのだろうと思い、それ以上は口にしないで話を変える事にする。
「他の件は時間が欲しいかな。余り他所の国を知らないし適当な答えじゃ納得しないだろう?」
「そうですね・・・。今私共の国は非常に厳しい局面に立たされています。どうかそれを考慮して下さい。」
「もちろんだ。互いに良きパートナーになれる、そんな提案を考えさせてもらうよ。」
カナトは言葉と笑みに妙な寒気を感じるがそれを振り払うように力強く頷き気持ちを切り替える為に先ほどから気になっていた疑問を口にした。
「この注文書にある剥製ってなんですか?」
「あぁ、キマイラとかコカトリスだ。後はマンティコアだったか?あれらの食えんし気持ち悪いごちゃ混ぜ生物に危険手当を付けたら思いの外狩れてな・・・人の国なら売れると聞いて作ってる。」
カナトの引き攣った顔に同意の頷きをし、
「君の気持ちはよく理解出来る。キマイラなんて顔が獅子で身体は山羊だぜ?消化器官どうなってんだって話だ。草食獣じゃ肉は消化し切れないってのに進化を間違え過ぎてるよ。」
「あの・・・そういう事じゃ無いのです。
あの厄介な魔獣は狩るのも大変ですがなによりも何処の国も欲しがる全身希少価値の塊です。牙や毛皮、爪、血、骨 、内蔵等余すことなく魔術品や装飾品に変わる宝と知っていますか?」
アンリは腕を組むと続けて、と口にし促す。
「あ、はい。ですから剥製にするより解体して転用した方が良いかと思うのですが・・・。」
「素晴らしい、貴方は最高の識者だ。その情報を得た以上こちらも譲歩しなければならないな。」
ふむ、と頷き手を叩く。
「他の国に知られる訳にはいかない内密な会合だったな。2週間後リック王を狩猟として森に入らせてくれるなら身の安全を保証し誰にも知られる事のない会合を約束しよう。もちろん信じれないなら護衛の兵や識者も連れてきてくれて構わないから気兼ねなくどうぞ。
そしてその場でマルナの利益になる話を確約しよう。」
「ありがとうございます。必ず伝えましょう。」
2人は握手を交わし席を立つ。
アンリはマイの送別会の為に馴染みの店に向かいカナトは早馬でマルナに帰還した。




