画策 ①
陽が沈み賭場が賑わい始めた頃マイは苦境に立たされていた。
手持ちの金は底を付き、手にした銀貨チップ3枚が無くなれば即座に勝負が終わる所まで負けていたからだ。
「どこで間違えたの・・・ねぇ、何故こうなったの・・・?」
「・・・引き際を誤ったからですよ。」
ケイトの声に俯いたマイは目尻に涙を湛え、握ったチップに祈りを込めてディーラーを見据える。
狙いは赤、黒でも奇数偶数でも無く一点、数字狙い。倍率36倍を当てて元手以上にしなければと思い過去のデータから法則を探し出した。
予測するのは確率では無くディーラー、生物である以上必ず癖や動作に付け入る隙がある筈です。
ルーレット盤が回りディーラーが玉を縁に転がし、賭け時間を示す砂時計を逆さにする。
マイはチップを右手の指に挟み、呼吸を整え口を開いた。
「しっかり目に焼き付けなさい。これが敗北を予感しながら・・・それでも戦う事を止めれなかった姿よ。」
「それが駄目なんですって!?」
右手を振り下ろすように盤上の数字15に叩きつけたマイはチップが指に無い事に気付いた。
えっ?と思い、視線を向けると伸びた腕からチップが00の数字に置かれ、同時に砂時計が賭け時間の終わりを告げる。
「マイさんは熱くなりやすい人だったのか、賭事には向かない性格だ。」
アンリは呆然と横顔を見ているマイに視線を向けルーレット盤を指差す。
「ほら、玉が止まるよ。」
声に従い向いた先、玉は00の枠に入っていた。
おぉー、と周囲から声が上がり、手を挙げて応えたアンリはマイ達に視線を向け、
「勝った金で応援してくれた皆に酒でも奢ってやりなよ。」
「あ・・・えぇそうね、そうします。」
チップを換金する為カウンターへ向かうマイを見送ったアンリはケイトに向き直り、
「新しい事業の話し合いをするから引き続きマイさんの相手を頼む。出来れば・・・夕飯も外で済ませてくれ。」
「はいはい、なら屋台で食べて湯屋でゆっくりするから時間稼ぎはそれ位でいい?」
頷き背を向けたアンリに投げるように言葉を続ける。
「その事業大丈夫でしょうね?マイさん、貴方の事、危険視してるわよ。」
「どうかな、まぁ教会との関係強化を全面に押し出して逸らすようにはするよ。」
「下手して勝手に死ぬのは許さないからね。」
手を挙げ応え出口に向かうアンリに舌打ちをしケイトは溜息をついた。
カイネは新たな儲け話に目を輝かせしきりに頷き、横に座るフランから受け取ったワインを口に運ぶと瓶底を机に叩きつけ両手を広げ天を仰ぐ。
「良いぞ!素晴らしい話じゃないか。これはあの堅物には話せない内容だ。」
「だからケイトに時間稼ぎを頼んでるんだが2人は問題無さそうで良かったよ。
でも、しばらくしたらマイさん戻って来るけど教会空けて大丈夫なのか?」
カイネはポーズを元に戻すと頬杖を付きつつ、
「問題ない。昼寝してたら神の啓示を受け取った。
なんでもインフルエンザにかかったから隔離してくれとの事だ。きっと理解してくれるだろう。」
「流石カイネ様、信仰の厚さが窺える話です。」
アンリは全知全能でも病気になるのか?と思うが口にはださずメモに視線を落とし頷く。
「じゃあ雇用する流奴はここの農地開拓として教会に申請をだしてくれ。」
「あ~、それは無理だな。私が責任を持つとしてもソドムで働かせるのが限界だ。魔族の集落に連れてくるには実績がない以上諦めろ。
建前だけって事も出来るがバレたらマイがお前を殺すだろう。」
ふむ、と頷いたアンリは周辺国の情報が書かれた資料を取り出し思案する。
「なら・・・ソドムで貸倉庫の事業を始める為としようか。これなら商人は物資の保管場所が増え商売の助けになるだろう。
なんならディストラントに土地を購入してそこでもやろう。」
「・・・利益配分はどうする?お前は知らないだろが流奴とは異世界から流れてきた奴隷を指す。
教会も表向きはともかく人権も何も無い存在を慈善事業で匿ってる訳じゃない。
それがどういう事か理解出来るな?」
「まぁな。流奴を各国へ橋渡しする見返りに寄付金を得ている事は知っている。
俺としてはとりあえず倉庫業の純利益の3割を寄付金として納めることを確約する事で借り受けとして納得させたい。
雇用した者達の衣食住はこちらで面倒を見るならギリギリの線と思うんだが。」
カイネは熟考し幾つかの前例を思い出し頷く。
「微妙だが可能だろう。だが・・・リスクは高く薄利になるぞ。」
「それで良い。目的は文明の加速をこの地で行うことだ。
それに・・・うん、やり方次第では倉庫事業は餌に出来るかもしれない。」
カイネとフランは同時に首を傾げるがアンリはもう一度手を叩き注目させると、
「流奴の多くは記憶を奪われてると聞くが記憶持ちを集める事は可能なのか?」
「申請次第だが厳しいだろう。記憶持ちは珍しい上に多くは別の何かを失っている。馬鹿狐の存在を出せない以上納得させる理由を作らなければならないな。」
「ん~、そうだな。記憶持ちなら現状に納得していない奴も多いだろう。面倒な人材を引き受ける事をカモフラージュにしたら6割位は含まれるかな?」
「ならそれで申請してみるか。マイを納得させるのは私がやっておくからお前は土地の取得に動け。良いな?」
頷いたアンリに目を細めたカイネは話の整理と説明を考え始めた。
ノイルはアンリ達に同族への説明を記した手紙を預けると駆けるように西へ向かう。
夜空の下一面の花畑に目的の相手は待ちわびたかのように立っていた。
「ココ、待つのは良い女のする事では無いぞ。」
「フフ、焦がれるように待つのも良い女の条件じゃない?」
フェミナが背を向け石畳を進み、ノイルも歩みを同じくする。
「あの商人に身を寄せるのね、貴女が従う程の器かしら?」
「器は測れんかったのう。何しろ妾史上最大のイカレで会話を交わすのが精一杯よ。」
フフ、とこぼしたフェミナは振り返り、
「それでも信じるに足ると判断したのね?」
「まぁそうよな。なにより人間を支え傾かぬ国を作る・・・長く生きたがまだ試した事のない試みよ。それも魔族の地でなどこの先もない事ではないか?」
「フフ、貴女はブレないわね。私もその過程を見物させてもらうわ。」
ノイルは歩を止めフェミナの背を見据え口を開く。
「本当に良いのかえ?あの地に新たな魔族を統べる王が誕生する事を理解出来ておるのか?」
「えぇ、どうぞ。私もそれを待ち望んでいるのよ。」
ノイルは小さく頷き、
「なら世界は大きく荒れるであろう。互いに楽しもうぞ。」
言葉を残し姿を消したノイルを確認したフェミナは口角を上げ弓にすると笑みを作り、
「期待してるわ。貴女が本気なら世界はもっと面白くなる筈よ。それを思うと・・・堪らないわね。」
花畑にフェミナの笑い声が響いた。




