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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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交渉 ~ノイル②~

風が周囲を駆け、靡いた髪を抑えたノイルは酒を煽り飲み干した杯を置き箸を持つ。


「妾の目的はわかったかえ?もう責任を負う立場は嫌じゃ、魔族らしく自由気ままに暮らしたいと思うておる。」


重箱から山椒と塩で味を付けた川えびの素揚げを口に運びサラの膝枕で眠る男を一瞥し、


「私利に塗れた瑣末な願いとわかっておるがその為にはああして新たな勢力の台頭をさせるしか思いつかなかったのよ。

まぁ、それも阻まれたがの・・・。」

「そうか、だが気にするな。負け狐の思惑は誰も気に止めん。」


ハハハ、と笑うサラはアンリの髪を撫で頷く。


「同族を連れ合流しろ。それが願いに近いのはわかっているだろ?」

「そうですね。諍いはあるかも知れませんが貴女の力、知識があれば皆、歓迎するでしょう。」


ムクリ、と起き上がったアンリは1度首を振り頷く。


「諍いは起こさせん。それ程の価値がノイルさんにはある。」


アンリはまた膝枕に戻ると視線を上に向け、覗き込んでいるサラの顔が胸に阻まれ見えない事にほう、と声を漏らした。

これが下から見る景色か・・・、素晴らしい。


「どういう事かえ?」


ノイルの言葉に顔の向きを変えたアンリは真剣な眼差しで見返し、


「男の夢と希望は大きい程良い。そうだろ?」

「アンリさん、話が噛み合ってないですよ。」


アンリはもう一度起き上がりラズに向き直るとサラの胸を指差し、


「ここには真理と夢と希望がある。そういう話だ。」


サラに改めてデコピンされたアンリはラズにもたれ掛かりしなを作る。


「暴力・・・反対、不貞寝しちゃうぞ。」

「アンリさん、変な芸風に私を巻き込まないで下さいね。」


ラズに頭を下げ離れたアンリは頬を掻き、


「真面目にやるよ・・・ノイルさんの価値はケモミミや尻尾も含めて幾つもあるが最大はスキルだ。」


ノイルはサラ達に半目を向け、


「真面目な話の前半がおかしい、そうは思わんか?」

「いつもの事だ気にするな。集中すれば普通になる、すぐに力尽きるが。」

「そうですね。まぁこういう人と思えば良いですよ。それが一番楽です。」


アンリは3人を見渡し肩を竦める。


「お前ら俺が大切な話をしてるんだから真面目に聞けよ。」

「「「お前のせいだよっ!?」」」


3人に怒られたアンリは不貞寝を始めた。








賭場の一角で人だかりが出来ていた。

ディーラーに向かい合い回る玉に祈りを込めたマイはルーレットの数字に玉が収まると大きく項垂れた。

積んだチップが消えるのを忌々しい思いで見届け再び項垂れる。


「マイさん?もうやめた方が・・・。」


ケイトに振り向き首を横に振ると大きく深呼吸をして親指を立てる。


「安心して。昔殺した軍人が今際に遺した言葉を今理解したわ。勝敗は結果。そう・・・戦い続ける限り負けではないわ!!」

「マイさん!?それギャンブルでは駄目な言葉ですって!!」


必死に止めようとするケイトを無視したマイは精神統一をし現状を確認する。それは今までの経験から導かれた大切な事であり、仕事を効率よく終わらせる際にも行うことだ。


アンリから貰った布施はとうに消えている。

テオロギアに帰る際も歩きを視野に入れるならまだ大丈夫よ・・・。何よりこの身は死なぬ身体。飢えも渇きも苦しいだけで問題にならず野盗が襲ってくれるならそこで思わぬ軍資金が入るかもしれない。

そうとも、まだいける!


呼吸をおいたマイは懐から皮袋を取り出しディーラーに頷く。


「早くチップに変えて。勝負はここからよ。」








花見の場で余興代わりにエルフ族の曲射が行われていた。

矢羽根を切り風に乗せた矢は木々を縫い進み的に当たり歓声があがる。

それらを背後にアンリはノイルと向き合っていた。


「落ち着いて真面目に頼むぞ?」

「任せろ。真面目一筋21年浮ついた事など1度もありません。」


曲射をしていたエルフ族も含め全員が嘘だ、と思うが口にしないでいた。

アンリはそれに気付かずノイルを示し、


「ラズが教えてくれた貴女のスキル[強奪 記憶]だよ。ルークスさんの身に起きた突如の思い出しと先程言っていた俺の事を知っているという事は読み取りと返却が可能だな?」


ノイルの頷きを見たアンリは笑みを作る。


「ならば簡単だ。俺のいた世界の記憶を取り出し、それを各専門家で共有しよう。

生憎、俺は調理は教えれるがそれ以外はからきしでね。絵でも言葉でもなく映像として見れるなら思いつく事があるかもしれない。」


先を促す沈黙を受け止め更に続ける。


「貴女のスキルを利用する事で強制的に文明を進めようって事だ。

その中心は貴女であり、妖狐族に任せよう。これなら諍いを起こすより頼りにする者が多くなる筈だ。

当然、俺一人の記憶より大勢の記憶が合った方がいいだろうから流奴の雇用も進める。

その結果教会に恩も売れ俺もマイさんに殺されずに済む。あぁ、素晴らしい。そうだな!?」


若干引いたノイルは戸惑いながらも頷く。


「アンリや、お主情緒不安定かと思う程振り幅激しいの。」

「そうか?だが気にするな、俺も気にしない。

それより貴女が同盟に加わってくれるならその方向で俺達も行動をしよう。

何しろ流奴の確保は難しくてね、森で見つかるのは大体食い荒らされた肉片か餓死者だからな。」


ラズが数秒悩み首を傾げ口を開く。


「アンリさんはそういうの見てもあまり動じないですよね。前にカイネが保護してた流奴は話だけでも嫌がるナイーブな人でしたけど。」

「当然だ、最近の日本人は事故だろうと怪我人だろうとSNSにあげる謎のスプラッター耐性を得つつあるのだ。

何より俺は調理を担当するから獲物の屠殺も見てる。いちいち動じてたら仕事にならんだろう。」


はぁ、とよくわかっていない返事をしたラズは酒を口に運びノイルを見る。

既に結論を出しているのだろうその目はアンリを見据え口を開いた。


「主は今後を理解出来ておるのか?妾はそれらにおける・・・否、全ての責任を主に押し付けるつもりよ。」


ノイルの言葉にアンリは頷き、


「うん、失敗も後悔も俺のせいでいいよ。

自分では何も出来ない俺が、助けてくれる皆の為に出来るのは汚名を受け止め挽回の知恵を回す位しかない。

それに従業員を守るのも雇用主の仕事だろう?」


ノイルはココ、と笑い目を瞑り数秒の思案をもって三指を付き深く頭を下げた。


「これより世話になろう。言葉に偽り無いのなら妾を好きに使うが良い。」

「ノイルさんも気兼ねなく俺を利用していいからね。俺達は大体がそういう関係だ。化かすのが得意な貴女に期待してるよ。」


言葉を終えても下げられたままのノイルの耳に優しく触れたアンリは感嘆の声を洩らし、背筋を伸ばしたノイルに張り倒された。

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