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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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商談 ①

夕暮れ時、城下町の道を行き交う人々は別れを済まし慌ただしくそれぞれの家路へ向かっている。

対して王城内、執務室は沈黙に満たされていた。


レアは椅子に座り直し咳払いを一つし頭を下げた。


「済まない、自己紹介がまだだったな先に済ませよう。」


互いに連れている者達を自己紹介を終えた時、ムーラは立ち上がりカイネに向かい深く頭を下げた。

その姿を見たカイネは笑みを浮かべ、


「すっかり爺さんになったな。」

「カイネ様はお変わりなく羨ましい限りです。後ほどお話する時間を作っていただいてもよろしいですか?」

「酒の一つも奢れよ。それなら聞いてやる。」


ムーラは目尻を下げ頷き、全員の視線が2人に集まるが一つ呼吸を置いたムーラは頭を下げ、


「中断させて申し訳ありませんでした。始めましょう。」


アンリはカイネとレアを見てから頷く、頬を掻くと顎に手を当て、


「事前にお渡しした書類の話からで良いのかな?」

「なら初めに確認させてくれ。魔族の侵攻を無くすとあるが本当に出来るのか?」


アンリは頷き、机に一枚の紙をレア達に見えるように広げた。


「ここに書いてある魔族とは同盟関係を結んでおり、この国に隣接する所に居住区を持った魔族とは話が付いている。」


アンリはサムトやケイト達から聞いていた情報を整理し、


「必要なら魔獣狩りもこちらでやる。

それなら不要な傭兵も雇わず、内政に今以上に集中出来るのでは?」


手にした紙をアンリに返したレアは震える手を隠すように机から下げ思案する。

信じるなら魅力的な提案だ。だが相手は商人、対価の前に頷く訳にはいかないと思い、


「我が民の安全と未来に見合う対価は何を求める?」

「この国でも商売したいと思っているから土地と建物が欲しい。出来るなら大通りに面したいい所を頼む。」


レアはムーラに視線を向け頷く。


「今の対価で買わせていただく。土地と建物は後ほど用意させる故確認してくれ。」

「ありがとうございます。まだまだ商談はあるので契約書は最後で良いかな?」


レアはこの話だけでも会った甲斐があり、内心でガッツポーズをしながら頷いた。

アンリは別の紙をカイネに渡し、


「じゃあ馬の話はカイネの方でまとめてくれ。俺は次の商談に入る。」

「よし来た。おい、農地開拓の際、必要な馬を用意してある。担当できる奴はこっちに来い。」


カイネの言葉にムーラの横に座っていた青年が立ち上がり商談を詰めはじめた。


「じゃあ次は新しい貿易路の話でもしようか。

俺は転移魔術を使うんだがそれを利用してはどうだろう?

早く、安全にソドムまで移動させれるし、今まで運べなかった生鮮食品も送る事が出来る。これはこの国が新たな貿易国家としての立ち位置を得られる話じゃないか?」


机に前のめりに構え詳しく話を聞こうとするレア達に頷きアンリの商談が始まった。






陽が沈み森が闇に染まった頃、ラズとリノアは髪を拭きながら机に置かれた資料を眺めていた。


「商談は上手く進んでいるのでしょうか?」

「フフ、心配しなくても大丈夫ですよ。商談はディストラントが承諾しやすく調整したのですから。」


怪訝な顔のリノアに頷き、


「アンリさん曰く人の国への足掛かりらしいですよ。

但し、毒が盛られた甘い罠ですけどね。」

「毒ですか・・・?」

「えぇ、商談内容は人が有利、ですが事業が始まればコントロール出来るのは私達です。

フフ、アンリさんを無下に出来なくなる危険性に人間達は気付きますかね。」


リノアは言葉から危険性を思案しよう腕を組む。その動きを見ていたラズは微笑み、


「アンリさんの考えに理解が及んだ事が無いのなら時間の無駄ですよ。

ただ、備えはしておいて下さいね。これからの動き次第では魔族討伐の機運が高まるかも知れませんから。」








商談を終えたレアは高鳴る気持ちを抑えながら契約書にサインをした。

魔族の侵攻が無くなる事を前提に農業改革なども進み、新たな貿易路を得た事で流通に可能性を見出していた。

元々内政に注力したいと思い考えていたプランが幾つもあり急ぎ有識者を集め会合をしなければと思う。


「アンリ殿これからも末永く頼むぞ。共に繁栄をしていこう。」

「今後ともご贔屓にお願いします。それと事業書を纏めていないので今は提示出来ないが治水、利水関係の工事に付いても考えがあるので聞いて頂きたい。」

「良い。食事を運ばせる故、その場で概要だけでも話してくれ。」


レアの合図で扉が開き侍女が料理を机に並べる間にサムトがアンリの肩を叩いた。


「素晴らしい提案ありがとうございました。ところでお聞きしたい事が、契約は貴方が元の世界に帰れるまでと思って良いのだろうか?」

「ん?方法が見つかっても俺は帰らないぞ。タイムオーバーというやつだ。」


全員の視線が集まり首を傾げたアンリはサラと視線があった。嬉しそうな目に安堵を感じ頷く。


「良いか?今直ぐ帰れたとしても半年も行方不明だったから会社はクビだ。アパートも解約され家財は処分されてるだろう。」


口にして落ち込んだアンリをサラが慰める。それに応えるように一息吸い、


「更に戻ったらアパートの違約金に未払いの賃貸料で俺は借金だ!こっちでは金持ちなのに酷い話だろ!?」

「ア、アンリ殿落ち着いてくれ。あれだ、金貨とか持って帰ればどうだ?その、あれだ。希望を捨てたら人間終わりだぞ!?」


サムトに向き直ったアンリは大きな溜息を零す。


「サムトさん・・・いや、サムト騎士団長。行方不明だった人間が金貨を持って現れたらどう思う?」

「すいません・・・その、盗難して姿をくらましてたと疑います。」

「謝るな、それが当然だ。

そして想像してくれ、拘留され取調べでうっかり異世界に行ってきたなんて言ってみろ・・・次に行く所は精神病棟だろうな。

きっと自然豊かな山奥で窓には鉄柵があるんだぜ・・・。そこから出られないまま疑われて生涯を終えるんだ。笑ってくれよ。」


侍女達も含めた全員が沈黙し俯く。数秒後代表するようにレアが立ち上がると深く頭を下げ、それに全員が倣った。

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