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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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転移

晴天の空の下市が並び往来する人々は笑顔で店を覗いている。賑やかな喧騒の中新調した装備を纏い憂鬱な表情で歩くのはクラシスだ。


「クソ、何でこんな目に合わなきゃならん・・・。」


原因はわかっている。

だが何故もっと早く連絡が来なかったのか、この件に鬼は関わっているのか、幾つも思う事はあるが神殿がある通りに出たので気持ちを切り替える。

通りの向こうから手を上げた男が近付いて、


「お、来た来た。準備は出来てる急ごうか。」

「ヴェイグも来てくれたのか。急な集合で悪いな。」


クラシスは辺りを見回し他に知っている者がいない事に気づく。


「・・・ヴェイグだけか?」

「いくら何でも急過ぎるから集まらんだろう。まぁもう一人いるから・・・・・・あの馬鹿どこ行った!!?」


ヴェイグの声が周囲に響き歩いていた人々が振り向く、向けられた冷たい視線に2人は頭を下げて誤魔化していると背後から声がきた。


「何してんの?クラシスも久しぶり~。これ美味しくないけど食べる?食べちゃう?ならあげる。」


紙袋に入った白身魚のフライを2人に差しだすギルドの問題児、魔術士フローがいた。

クラシスは紙袋を受け取りつつ頭痛を感じる。


よりによってコイツとは最悪だ・・・。テンションだけで生きてるような女が何故今日に限って居るんだ・・・。


「何黙ってんの?早く行こうよ、なんか面白い店やってるみたいだから楽しみなんだよね。」

「あ、あぁ、仕事だからな。わかってるよな?」


フローが適当な返事をして神殿に向かう後を2人は項垂れながら着いていく。

中に入り申請書を渡し案内されてた部屋の床には魔石を溶かし描かれた魔術式が広がっている。

起動までの待ち時間にヴェイグが腕を組みクラシスに視線を向ける。


「で、ソドムに何の用だ?フィンに聞いてもマスターのご乱心としか言わなくて内容を聞いてないんだが。」


ご乱心~。と指差すフローを無視してクラシスは内密に頼むと念を推す、


「前に指輪を落としたと言っただろう?その中身が最悪のシスターの手に渡ったから返して貰うのが任務だ。」

「ふーん。なら観光ついでの楽チンなお仕事だね。」

「フローは黙ってろ。ソドムって事はシスターカイネか・・・噂によるとなかなかの曲者らしいが。」


クラシスは心底嫌そうに頷く。はぁ、と溜息をつきその場にしゃがみこみ横に倒れた。


「もうすぐ新年だぞ。何でこんな事に・・・。」


扉が開きの神官から起動の準備が出来た事を伝えられる。身体を起こすと扉の向こうには魔力切れを起こした神官達が数人横になっているのが見えた。


「急で済まないな彼等に礼を伝えてくれ。」


神官は頷き扉が閉まると魔術式が展開され術式に身体が沈み転移した。




大陸の南街道の終点にあるクラン公国。

シーズ大森林街道に向かう商人や通って来た旅人の安息の地であり宿場と交易により栄えた地でもある。

魔獣、魔族の侵攻の際には道中の護衛を兼ねた冒険者達と国を守る3万程の駐在兵により固く守られている地だ。


「久しぶりに来たが相変わらず栄えてるな。」


神殿から出たヴェイグとクラシスは辺りを見回し身体に異変がないか確かめる。


「何してんの?早く今日の宿を決めようよ。」

「先に馬の確保だ。・・・フローは怖く無いのか?」

「転移の事?便利な魔具よね。私も適正あれば使ってみたいかも。」


ヴェイグは転移にテンションが高くなっているフローを奇異な目で見る。


「正気か?処刑魔術を習いたい何て言う奴初めて見たぜ。」

「まぁそれよね~。個人で使えるから魔具に比べると魔力ロスはないと思うけど嫌われてる分野よね。使い手も殆どいないし・・・クラシスは誰か知ってる?」

「まぁな、ソドムに1人いる。前回の仕事のターゲットだった奴が未熟ながら使っていた。」


フローはクラシスの言葉にテンションを更に上げる。手を叩き下から覗きみるようにクラシスに視線を向け笑みを浮かべる。


「聞いたわ!そいつと鬼にやられたんでしょ?ねぇねぇねぇ、本当の本当に鬼だったの?混ざり者の大鬼族や小鬼族じゃなくて鬼なの?」

「オーガやゴブリンに負けるか!あの女はフェイントも見抜く化物だ。勝てる気がしない。」

「俺はクラシスを負かした相手なら興味あるな。ソドムにいたら手合わせしたいから詳しく話せ。」


クラシスはヴェイグに視線だけ向け溜息を付く。その場から歩き出しながら口を開く。


「大抵の剣戟は皮膚で弾かれた、ケイトの魔術も同様にな。教会からの資料も加味しての俺の結論は伝承通りの存在だ。相手にするだけ被害が増える災害だと思っている。」


3人は話しながら通りを抜け貸馬屋に辿り着く。明日の朝からの馬を借り宿に着いた所でそれぞれ別行動に移った。

フローとヴェイグは飲み屋に向かいクラシスは情報収集の為ギルド支部に向かう。









花畑に風が吹き花弁が揺れるのをテラスから見ていたエミルは伸びをして席を立つ。


「あ~あ。虫人族は潰走っと、順当過ぎてつまんない。」

「ココ、全滅しなかっただけ大したものよ。とはいえ逃げるアテがないなら時間の問題よのう。」


ココ、と再び笑い視線をフェミナに向ける。何やら気難しい顔で見る先には黒塗りの映像があった。


「あの人間は何故私の監視を感知出来るのかしら・・・?」


初めに気付かれた時から思っていた事だ。

今回ので5回目で偶然では済まされない事に僅かな苛立ちを覚え机に肘を置き深く思案する。

ドライアド族の特性の植物会話を知っていてもその範囲は個体差が大きく大森林全土を網羅している事を知っているのはこの場の者を除けばキースだけだ。

その情報が漏れた事は有り得ない事だから何かしらの魔術かスキルだと思う。


「魔術ではなさそうじゃ。スキルとしたら感覚系か感知系、大穴で共鳴系ってところかの。」

「そんな所よね。でも違和感を覚える程度しかわかってないみたいだし問題ないんじゃないの?」


フェミナは小さく頷く。

考えて納得するのは自分が答えを持っている時だけで今回のはそれに当てはまらないと思い席を立つことで囚われた思考を切り替える。


「一応気になるから調べるけど今日はお開きね。」

「私は一旦帰るわ。領土を留守にすると荒れるから嫌なのよ。」


エミルは2度その場で羽ばたき身体を浮かせると自身の治める領土へ向け飛翔した。

突風が吹き荒れ花畑から花弁が散り辺りが花の香りに包まれた。


「大事な花が散っておるが怒らないのかえ?」

「招いたお客だもの仕方ないわ。それに故意じゃないなら許すのが余裕ある王の姿よ。」

「そんなもんかの。ではまた来るで次は菓子でも用意しといてくれ。」


ノイルはテラスから飛び降りると着地と同時に姿を消す。後には伸びをするフェミナと食器を片付けにきた侍女だけが残された。

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