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鬼と人と約束と  作者: 敦人
五章 人魔大戦
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人魔大戦 ⑪

生い茂る枝葉を蓄えた大木の陰に身を潜めたファルモットは、風が運んでくる音と匂いから明確な意思を持って追ってくる敵部隊の位置を予測しつつ呼吸を落ち着ける。

手にしている人の頭部程の大きさの筒から伸びる導火線の長さから爆破までの時間を計り、木々の位置と投擲距離を計算し最善の奇襲位置を割り出していく。


「竜人と海魔族達の観測記録だと空中で爆破させた方が効果的って事だが・・・。」


どう考えても遮蔽物が無ぇからだよなぁ。鉄片に太い幹を貫ける程の貫通力を残すには火薬の量が足りてねぇし近接爆破の方が確実性があるわな。


網状のスリングで爆弾を包み一度揺らし重心を確かめたファルモットは、改めてスキルを用い敵の進軍ルートと最適な奇襲位置、時間を脳裏に浮かばせると目を瞑り呼吸を落ち着ける。

導火線に火を付け、スリングを旋回させたファルモットは、スキルと頭脳が導いた最適、最善のタイミングと位置に向け爆弾を投じた。




煙を上げる積載所から消火や物資の運搬の喧騒を背に置き、次の地に馬を走らせていたオリヴィエは、緩く弧を描き空から飛来した物体を視界の端に収めた瞬間、押し倒されるような衝撃を受け落馬する。

それが近衛兵の1人が覆い被さってきたからだと気付いた時、追加の衝撃と轟音を受け聴覚を奪われた。

 



髪を濡らす血とのしかかる重みで僅かの間、気絶していたと気付いたオリヴィエは、慌てて身体を起こし、連れ立っていた近衛兵達と馬の全身に鉄片が突き刺さり、地を赤く染め息絶えている惨状を前に立ち尽くす。


何が起きたの・・・?


部下達を並べ目を瞑らせたオリヴィエは、瞼の裏に浮かぶ寸前の光景から投じられた物体の軌跡を思い返し、あり得ないと強く思う。


空を覆う枝葉の下、馬で走る私達にピンポイントで投擲した?そんな事出来る筈が無い。

偶然だと信じたいけど・・・でも、もし、これが狙い撃ちされた攻撃なら敵は確認の為に現れるかもしれない。


姿勢そのままに、意識を周囲に向けたオリヴィエは、背後から得た違和感に気付き視線を向け立ち上がる。


「出て来なさい。」

「んだよ。仕留め損なった上に奇襲も失敗とか笑えねぇなぁおい。」


大木の陰から身を現したファルモットは、弔いを終え、血に濡れた頬を拭い立ち上がるオリヴィエから得た疑問と違和感に軽口を止め思考を高速で回し始めた。


うん?嬢ちゃんの鎧の破損から見ても鉄片を受けたようだが何故立てる・・・?


裂けた服の切れ目や顔から覗く皮膚に傷は無く、負傷を庇う軋みも感じ取れない事に更に疑問を強くし一歩後ずさりする。


アンリは、あの爆弾をエミルやフェミナのような不死対策として治療阻害系の呪いを採用したと言っていた。

なら少なくとも即座の治療も再生も出来ない筈だが・・・何故その傷が無くなっていやがるんだ。


理解出来ない事に警戒を増した視線が相手の顔と紋章に止まり、相対する者がオリヴィエだと気付いた。


先発隊の総司令官?本人か?何故こんな所で遊んで・・・いやそれより、こいつを攫ってアンリに届けりゃアホな戦いも終わるんじゃねぇのか?


脳裏に浮かんだ妙案に気持ちを浮つかせたファルモットは、現状では鹵獲の用意も機動力も足りていないと思い直しオリヴィエとその後方の喧騒に視線を向ける。


火の手が回る積載所の消火で手一杯とはいえ、いつ援軍が来るかわからん状況でのんびりするべきじゃねぇ。

責任と調停の点から判断するなら総司令官を殺すのは後々面倒になりそうだが、大人しく見逃してくれる筈もねぇよなぁ。






ただならぬ佇まいの敵を探ると決めたオリヴィエは、周囲に自身のスキルを受ける者がいない事を確認し、正面で見動きを止めている騎士にスキルを宿した言葉を飛ばした。


『顔を見せなさい。』


何を、と口にしながらもヘルムに手を当てた感覚で違和感に気付いたファルモットは、なるほど、と呟き指示されたまま動く腕に苦笑する。


こいつのスキルは扇動だったか・・・強制力は薄いが従う事にそうあるべきとする高揚に似た感覚を得ているな。


ヘルムを外しかけた腕を止める事で駆られる焦燥感も確かめつつ改めて頷く。


「面白いスキルだ。あんたと共に戦う者には、神の祝福かそれこそ天啓を得たかのような錯覚を与え、反する者を不安に苛ませられるのか。」

「・・・。」

「人を惑わし選択肢を奪う信仰みたいなもんなら指揮官を下りて教祖でも始めたらどうだ?」


軽口を続ける男の声に怒りと憎悪を増していくオリヴィエは、相手の身につけている装備から出身地を見定めようとした所で首を横に振る。


こちらから奪った装備を魔族の協力者に回したのね。これ程の手練となれば南側大陸の有力者、もしくはギルドから派遣された兵?


どちらにせよ確認は必要と判断したオリヴィエは、相手が構えていない今を好機と捉え、スキルを用いると同時に距離を詰める。


『動くな。』

「うぉ!!?」


スキルによる行動制限で対処の遅れた相手を切り上げ、ファルモットのヘルムを弾き飛ばした。


「顔を見せる程度で手間を掛けさせないでもらい・・・。」


後退する敵の顔を見据えたオリヴィエは、相手が誰なのかを理解し即座に剣を構えた。


「貴方程の勇士が道化に与したのですか!?」

「んだよ。問うなら剣を下ろせよ嬢ちゃん。失礼だぜ。」

「はぐらかさないで下さい!!」


正眼の構えのまま向けられる真摯な視線を受けたファルモットは、スキルを用い相手の表情や熱、視線に重心と様々な情報を繋げ感情を色として読み取り思う。


警戒と不安、そして懸念が主な比率か。この手の色を宿した奴は、簡単に逃してくれねぇんだよな。


剣を握る手を動かす事で警戒の色が比率を増していくのを確認し思う。


俺の事を知っている上での問いは時間稼ぎも兼ねてるか・・・こっちの目的も足止めなんで付き合う事に問題はねぇし、上手く誘導出来るならこいつの身体の謎も聞けるかもだ。


「オッケーだ嬢ちゃん。少し話すか。

俺がアンリに与したってなら答えはノーだ。単なる仕事だよ仕事。ビジネスパートナーって関係さ。」


数歩程距離を離したファルモットは、切っ先を地に刺し柄に手を乗せるのを見てから同様に後退したオリヴィエは思う。


まともに戦っても傷を引き受けてくれるレントのお陰で制圧は出来るかもしれない。でもそれは可能性であって最善では無いわ。

この地は私達の陣地。時間の経過はこちらに優位に傾くのだから今は戦う必要は無いの。


自身に言い聞かせるように内心で呟きながら即座の対応が出来るように足回りを気にしつつも、敵を前に不要な何故、の問いが思考を占めていく。


北側の地で武を志した者は皆、彼に憧れた。自分も同様にだ。

どれ程の戦力差があっても退かず、大軍に囲まれ補給を絶たれても戦い続け、大国の暴威を防ぎ続けた護国の盾の武勇伝は、幼心に勇気の火を灯し、軍への志願を決めた理由でもある。

彼への憧憬があり、いつかその背に追い付くと信じていたからこそ自身の忌々しいスキルも必要と思え、陰湿な妨害にも折れずにいられたのだ。


衝動的な個人的な感情を鎮めようと胸のロザリオに手を当てた時、


「貴方とは戦いたくない・・・仕事ならこちらで雇いますので降伏して下さい。」


決して頷かれない言葉を、それを促す事で失望されるとわかっていた言葉を溢してしまった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 近衛兵スゴい!!彼らにとって得体の知れない何かを認識してすぐにオリヴィエさんを守るなんて、死んじゃったけどスゴい!! 『扇動』というスキルが相手にどのように作用するのかが分かりやすかった…
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