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鬼と人と約束と  作者: 敦人
五章 人魔大戦
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契機 ①

朝日が登り始める時刻。何時もの様に鳴り響く大砲と銃声を合図に始まる戦闘の物々しい雰囲気以上に張り詰めた室内で対峙するサラとファルモットは机を挟み火花を散らしていた。


「ナメられたものだ。本気で私に勝てると思っているのか?」

「当たり前だろ単純女。負ける要素が見つからねぇよボケ。」

「おぉ、よく言った。泣かせてやる。」


手にするカードと賭け金を握り締め白熱する2人を背にしたアンリは、いつもの事と我感せず塹壕で戦闘をしてくれている仲間達への料理の試作をしている。


常在菌が豊富な土壌を壁に寝泊まりし、非衛生的な環境に陥りやすい塹壕内は、栄養と休息を怠れば感染症等の流行病が蔓延してしまう為、栄養価が高い食事を届けたいとの思いからだった。

一方で戦闘が頻発的に起きる為、食事に割ける時間は多くなく、スープ類の食器が必要な物や配給に時間が取られる物が好まれない事が前線からの要望とあり頭を悩ましていた。


おにぎりやサンドイッチの様に手で食べる方針で、配給の容易さと衛生面は紙で包む事でクリアとしよう。

直ぐに食事が取れない状況も想定し、時間を置ける様に全体を加熱調理するもので考えるならコシーニャが良いかもな。


茹でた鶏肉と刻んだ根菜を潰したじゃが芋で包み揚げた南米で食されているコロッケの様な料理だが、塩抜きした豚肉やチーズ、玉子、カレーと味の変化もしやすく、おにぎりのように1つで主食と副食が取れる点が好ましいと考えたからだ。


下準備で鶏肉を鍋で茹でながら上に蒸籠を乗せ、試作用に用意したじゃが芋や里芋、キャッサバやタロ芋等の芋類を置き加熱し、蓮根やゴボウをみじん切りにしながら、ナードとシーラの連名で送られてきた報告書の内容に思考を割く。


正直、全壊は難しいと考えていたがナードもシーラも部下達を用い非常に良くやってくれた。まだ事前集積船こそ点在しているようだがその対応も追加の指示無く上手くやってくれるだろう。


前もって港湾の位置や海流、物資を遡上出来る河川を調べ尽くし、時間と資金を投じた爆弾を対応策の乏しい空爆で用いたとあって必勝を確信していたが嬉しいものは嬉しいと表情を綻ばせる。


「なんだアンリ。楽しい事でもあったのか?」

「馬鹿な事を・・・ここは戦場だ。悲しい事しか起きないよ。」

「にしては、頬が緩んでるがな。見慣れたあくどい笑みだぞ。」

「まったくだな。っとコールでどうだ。」


スキルを用い、五感を繋げているファルモットは、サラの動作や目線等の機微を捉え勝利の笑みを浮かべる。


サラのスキルは嘘がわかる優秀なもの。だがこの女は、そこから先を深読みしない単純さがある。弱気と捉えられるコールをすれば・・・。


「レイズだ。破産させてやる。」

「そうくるよな馬鹿が。受けるぜ。」


お互いの手札を見せ合い勝利にガッツポーズを決めチップを寄せるナキと殺気を膨らませ悔しがるサラに苦笑したアンリは、先程の問いの先を言う。


「いやなに、シーラ達が物資の積載船を潰してくれたからな。

想定通りなら、兵站線を絶たれたこの状態を知らない彼等は、我々の討伐の為に本隊と合流し、増員された人数による爆発的な消費活動に陥いった結果、餓えと内乱で機能不全化する・・・うん?」


頭痛に似たスキルから否定の警告を受け取り言葉を止めたアンリは首を傾げる。


ならないだと?

いや、籠城し守りを固めた俺達を損害少なく抜くには、絶対的な人数と装備が必要と判断する筈だが・・・何故だ?


「どうした?」


サラの声に我に返り思考を止めたアンリは、肩を竦める。


「この一手で自滅に追い込めた筈なんだか・・・俺のスキルがそうはならないと警告してきている。どこかしらで情報が洩れたのか、敵本隊の合流が無くなったのかも知れない。」


言葉にしながら小さい芋に串を刺し硬さを確かめるアンリは、内心で首を横に振る。


あの場にはレウがいた。呪術師兼番台を表の顔に情報屋の側面を持つ彼女なら敵国に情報が渡る脅威も価値も理解している筈だ。であれば絶対に漏洩なぞ許す筈がない。


蒸籠に芋を戻してから刻んだラードを加熱し、灰汁を掬いながら思考を続ける。


納得する為の仮定になるが、レウ達の襲撃を受けた後、情報を前線に届けた者がいたと考えるべきだろうな。

延焼しながら沈み傾く船を這いずりまわり、命を懸けて伝達を成した敵がいたとしたら・・・残された時間は少なく、無駄死にとなるかもしれない中、策とし行動に移すにはあまりに希望に縋る行為だと理解していながらもそれを成した奴がいたとしたらだ・・・。


「おいアンリ。煙が出てるぞ。」


サラの声に我に返り、油温が上がり過ぎ白い煙を作り始めている事に気付く。

慌てて火から離し焦げたラードのカスを取り除くアンリは、1つ息を吐いた。


「少し考えすぎていた・・・正直に言うなら海運組合と陸上部隊、それに各国の思惑が錯綜して指揮系統は弱点だと認識していたんだがしくじったようだ。

死ぬ事になっても戦う理由も信念も揺るがない。そんな嫌な難敵がシーラ達の所にもいたんだろう。」

「ハハ、あんたが敵を褒めるとはな。で?性格の悪いお前さんなら次の手も考えてあるんだろ?」

「これでもいい性格していると人には言われるんだがね。」


それ褒めてねぇから。とは言わず手にしたカードを混ぜながら言葉を待つファルモットは、内心でアンリのスキルを知る重要な問いだと言い聞かせる。


海側で起きた仮説と敵の対応は予測の範疇を出ていないにも関わらずサラもアンリも共に確証を持っている雰囲気だ。

これがもし単純な未来予知の系統なら事前に試行と手回しを行い、あらゆる可能性を潰し成功に辿り着いただろうからそれは無い。


サラと自分の前にカードを配りながらアンリに顔を向けると小声を口にし思考を走らせている姿が見え前から立てていた予想に確信を抱く。


おそらく当人が可能性を認識し、それに判断が下るタイプの感覚系・・・判定後も相手の対応次第で結果が変わるあたり、常に可能性を探り続ける先読みというより、現在を基軸に大筋を予測する直感か。


推測を纏めた時、うん。と頷いたアンリから声が来た。


「ファルさんには苦労をかけるが、貴方とその部隊には、少し予定を変更してある働きをしてもらいたい。」

「言ってみな。無理と判断しない範囲ならやってやる。」

「うん。どうやらもう少し敵さんを追い詰めないと平和的な交渉が出来そうもない。だから彼等の物資積載所を襲撃して欲しい。」


調理の進行具合を確かめたアンリは振り向き続ける。


「今日中に転移させる手筈を整え陽動の準備もしておく。カイネから受け取った物は試したか?」

「あぁ、問題無い。仕事内容もな。転移位置は指定出来るのか?」

「夜魔かハーピー達に術式を刻んだ石を投下させるからある程度は、だが近すぎるのは迎撃される恐れがあるから駄目だぞ。」

「んな近場に転移させられたら俺達も全滅しちまうわ。」


手札からカードを捨て、山札に手を伸ばすファルモットは笑う。


「昼前までに転移位置を決めとく。そっちでカイネの姉さんに話を通しておけよ。」

「うん。それは大丈夫。建前になるけどグレイグ団長とリベルト王にも指揮権の委任状を用意してもらっておくよ。」

「抜かりねぇなぁ。ほんと悪い性格だぜお前。」


肩を竦めるアンリに苦笑したファルモットは、戦いを前に遊べる最後の時間と思い、サラとの勝負に戻った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アンリが可能性をありえないと切り捨てるのか、それともありえると認めて考えを進めるのかがドキドキした [気になる点] 襲撃がうまくいくのか否か [一言] 更新ありがとうございます コシーニ…
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