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怒りの行方

ちょっと残酷シーンがありますが御了承を。苦手な方は…次回までに粗筋を用意します。

 石牢はその研究施設の地下に設けられていた。

 日も当たらないそこには頑丈な鎖に繋がれた元奴隷がいた。

 魔素による変異を起していて諦めた表情を見せていた。


「なあ、アンタ俺達を殺してくれないか…

 頼む殺してくれ、俺はもう誰かをこの手で同じ目に合わせたくないんだ」

 頼むよ…俺は…もう耐えられない」


 慶司がソアラを連れて降りて行くと頼み込んできた。


「ああ、そうだこの娘だけは別だ…この子は触れても感染しないんだ

 頼む、その子だけでもいい、助けてやってくれないか。

 アンタ此処の奴等とは違うんだよな。

 俺を始末したらこの子を連れて逃げてくれ、此処まで来れたってことはそれなりの腕利きだろう」

「……」


 慶司もできるなら助けたい。

 そういう思いはある。

 しかし、牢屋の中を確認して男の言っている意味が解ったのだ…

 牢屋の中には二人しかいなかった。

 残りの者は互いに命を奪い合って自決していったのだろう。


「目を瞑ってくれ…必ず、俺がお前たちの分の恨みを叩きつけてくる」

「ありがとう…」


「【深淵氷炎(安らかな眠りを)】」


 男の周囲の気圧を一気に下げさらに温度変化をさせて一瞬に絶対零度までにされた男は粉々に砕け散ると共に結晶が燃えて消えた。



(ソアラ、至急竜聖母様へ連絡してここに竜と輸送用の乗り物を頼んでくれ)

(わかったよ、いってきまーす)


 シュタッと敬礼をしたソアラは光速で飛び去った。


 不安そうな目で銀の肌に変質してしまった女の子は慶司を見つめていた。

 目の前で人が消えていったのだ恐怖を覚えたのだろう。

 会話を聞いていても恐れるのが当然だから仕方がないかと慶司も思った。


「おにいちゃんは、みかたなの、それともころしやさん。

 あたしたちをころしにきたの?」

「俺は、味方だ…」

「でもおじさんが…」

「…そうだな、俺が彼を殺した、だから俺は彼の最後の望みを叶えるさ」

「さいごののぞみってなに」

「君を助けること、そしてこの研究をした奴等を始末する事だ、ちょっとこの鉄格子が邪魔だから後ろに下がっててくれるかな」

「うん」


 慶司は鉄格子を確認すると太刀で切り裂いてしまった。

 唖然とする女の子を外へと連れ出して森へと一旦逃がしてシルフィ達に護衛をさせる。

 慶司は書類をリヒトサマラへ送ると方針を変更する事にした。

 彼女を保護して逃がす為にも時間稼ぎが必要である。

 そして何よりこの実験施設は残しておけなかった。

 全てを運びだした慶司は空へと飛び上がって魔法を詠唱した。


「【神威かむい】」


 放たれた魔法は一瞬にして研究施設を粉々に爆砕してしまった。


(たっだいまー、直に手配してくれるって言ってたよ、シルフィとも連絡を取っておいたから直接迎えに行ってくれるよ)

(ありがとう、次の研究所の内部に一般人がいるかどうか確かめてくれないかな)

(お安い御用だよ~)


「エルどうしても許せそうにないんだ、叩き潰してくるからあの子の護衛を頼めるかな」

「仕方ないのじゃ、引き受けよう、主様のそのような辛い顔は見てても辛い」

「ごめんね」


 じゃあ行ってくると一言告げた慶司は次の研究所へ向って飛び立った。


「本当に辛そうな顔じゃ…」


 飛び去っていく慶司を見つめながらエルは呟いた。





(見てきたよ~中はローブの人と普通の騎士それと動物達だけだね)

「ありがとう、それじゃあ悪いけど後2箇所研究施設は潰してしまおう」


 慶司はそう精霊達に告げると建物へと突入した。

 世間で商会の倉庫と偽って、教会の施設という事になっていなかったこの施設の襲撃を附近の住民は気が付かなかった。住民の目から逃げるために郊外に構えた為である。

 襲撃側の慶司からしても好都合だった。

 内部の研究者全てを始末し、護衛の騎士すらも全て切り捨てた慶司は、一応書類には目を通した。

 研究内容の報告書関連の物のみをリヒトサマラへ運んだ後は全てを灰にした。

 研究方法などを理論に関わる一切を残す考えは全く無かったのである。

 崩壊原因を知る住民はいなかった。

 ただ火柱を突然上げた建物に驚き、生存者はいないという事しか理解出来なかった。



(慶司さん、大丈夫ですか)


 シルフィが気を回して念話で確認してくるぐらいに顔つきが悪いのだろうか…


(大丈夫、ちょっと腹が立ってるだけなんだ)


 無理に笑顔を作ると次の研究所へと向った。




 慶司が到着した三番目の研究所。

 そこはジャック・ド・ビアンが過去に訪れたという、人体実験を行う為の施設であった場所である。

 ジャック・ド・ビアンの訪れた時と異なるのは、この施設が今は神薬を騎士に投与し力の使い方を教える施設だったことだろう。

 それゆえに警護の騎士は全て変異した銀色の騎士だった。


 故に、神薬を残す事が無いようにしつつ殲滅していった。


 心臓を貫いても死なない可能性がある為頭部の破壊か切断のみである。

 襲い掛かってくる騎士だったモノを次々に屠っていく。

 慶司の後には死体しか残らなかった。


 慶司が残った報告書を確認して全てを灰にした後で、殲滅の最終目的地に神殿を選んだのは寧ろ当然の結果でしかなかった。




 慶司が到着した場所は街中だった。

 幻影の魔法を伴って降り立ち、神殿の前に立った慶司は竜翼を一旦コートへと戻して歩き出した。


「人の命を軽んじる輩に名乗る名は無い、ただ俺はお前たちを許さ無い者として推参した、邪魔をするなら全てを切り伏せる」


 門前での大音声での宣言、幾ら夜になったとしても通りを行く人々は何事かと驚いた。

 突如として現れた一人の冒険者が聖教会へと喧嘩をふっかけたのである。

 巻き添えをくらったら堪らないと我先に逃げ出した。


「ここを聖教会の神殿と知っての狼藉か」

「人体実験をして人を人で無い者に変える邪教の間違いだろ」

「貴様!」


 詰め寄ろうとした騎士を慶司は槍杖で貫いた。


「グホッ」

「言っただろう、邪魔をするなら全て殺す」


「「キャアアア、人殺しがっ」」

「「ウワアアアアアア、逃げろ巻き込まれるぞ」」


 その場に居た騎士は4人、一人は貫かれて絶命していた。


「許さぬ、神の名の下貴様を生かしては置かぬ」

「神の名だ? その神とやらは人を騙して差別を推奨し、奴隷をつかって私腹を肥やす豚たちの事か」

「神を豚呼ばわりするとは…」

「煩いんだよ」


 慶司の投げつけた槍で貫かれた騎士が壁に縫い付けられる。


「ゴフッ」

「馬鹿が武器を捨てやがった」

「馬鹿はテメエだ」


 武器を手にしてないと踏み込もうとした騎士に逆に踏み込んだ慶司が刀を抜き放った。


 切れ味が良すぎるのだろう、身体強化をせずとも竜族を切り裂く程の慶司の太刀である。

 ましてや初期の頃とは違い肉体強化の性能も日々の特訓で上がっている。

 斬られた自覚の無い騎士が振り下ろそうとした上半身は足元に落下した。


「なっ…」


 その光景を見た騎士が内部へと逃げ込もうとした所を投擲具が頭部を貫いた。

 一部遠巻きに見ていた人々は一瞬の惨劇とさらに悠然と神殿へと入っていく青年を眺めることしか出来なかった。



 慶司は走るでも無く次々に現れる騎士を斬り倒していった。

 大規模魔法を一切使わずに次々に切り殺されていく兵士や司祭。一切の慈悲も無く全てを殲滅するだけの行為だった。

 内部に入り【明王憑醒みょうおうひょうせい】を展開した慶司はまさに夜叉の如く殺戮していった。

 たった一人に聖教会の騎士が突撃しては蹴散らされるのである。

 逃げ出す者は召還したエクレアやフレア達が対処してしまう。

 見た目は翼を広げ天使と見てもおかしく無いほどに神々しい姿だが騎士達からすれば悪魔だった。

 そして聖教会の司祭達には己の罪を裁きに現れた使徒としか思えない姿だったのだ。

 悪魔と罵り攻撃する者、己の悪事を悔いて逃げ出そうとする者、隠れてやり過ごそうとする者、慶司は神殿の奥へ奥へと全てを屠りながら歩みを進めた。



「貴様、よくぞ此処まで来たものだな。褒めてやってもいいな」

「銀色の豚か」

「クックック、なんだ貴様この神々しい姿をみてわからんのか、俺達はこの神殿を守護する聖騎士の中でもさらに精鋭と認められた神聖騎士」

「悪いが、小物は邪魔だ、その神薬を作らせた腐れ聖女とベルトランがいるはずだ」

「お二人を呼び捨てならまだしも侮蔑して呼ぶとは…捕まえて何処の組織か吐かせようかとも思ったが、止めだ、殺せ天罰を与えろ!」

「了解!」





「もう片付きましたか…何物でした」

「……」

「応えなさい」

「…何者かね、お前たちを殺す為に来ただけだよ」

「貴様…表の神聖騎士団の目をどうやって掻い潜ってきた!」

「その前に一つ質問だ、爺、お前がベルトランか」



 少し時間を戻して神殿の深部の手前である。

 神聖騎士達は精鋭と名乗るだけあって隊列に乱れが無い。


「掛かれ!」


 掛け声をかけたまでは恐怖すらなかった彼等は驚愕する間も無く倒れた。

【【流水抜刀繊月りゅうすいばっとうせんげつ

 構えた姿勢のまま振りぬかれた太刀によって腕ごと、あるいは剣ごと頭部を切断されていたのである。


「き、貴様ぁ!」

「神薬で仲間を吸収して力を得て何が神聖だ」

「我等は選ばれ…」

「静かにしてろ」

「【(ほむら)】」


 魔法を放とうとした隊長格を切り伏せて全てを灰にして慶司は中へと進んだ。





「その前に一つ質問だ、爺、お前がベルトランか」

「余に向ってなんという」

「なら良いんだ、さっきの質問の答えだが殲滅してきたそれだけだ」

「ヒィッ」

「せめて聖職者らしく、人体実験された人々への懺悔をしながらあの世に逝かせてやるよ」

「奴隷や獣人がなんだというのだ、ギャアアア」

「それが足の分の代償だ」

 両足を膝下から切断する。

「まて、我等は神の為に、グォオオ」

「人を欺いて神の名を語り続けた分はその右手でいいだろう」

 右の二の腕から先が切り落とされる。

「た、助けてくれ…何でも払う、地位も授けよう…だから見逃してくれ」

「奴隷たちが同じ事を口にすることも出来ず蔑まれて来たんだ、その分を支払ってもらう」

「まっガアアアアアア」

 左手の肘から先が無くなる

「血が流れて直にお前は死ぬ、それまで己の罪を償えるか神に許しを乞えばいいさ」

「神は、神は決してお前を許さぬ」

「馬鹿か、神はこの世界にはいないんだ」

「なっ」

「これが実験で奪われた分だ死の間際まで光の無い暗闇ですごせ」


 振り向いた慶司はベルトランの両目に刃を一閃させた。

 光を失った老人は憎悪を撒き散らしながら徐々に声を枯らして最後はヒューヒューと呼吸だけをしながら息を引き取った。

 どうせ新たな法王が国王によって選ばれるのだろう…

 だがこの研究に関係した者のみを殺戮し研究結果を残さないと慶司は決めている。

 書類は全て焼却し、さらに神殿の奥へと進んでいった。





「…誰です、此処は聖なる祈りを捧げる場所、血の穢れを持ち込む事は許されません、身を清めてから出直しなさい」

「貴女が聖女か」

「…何者です」

「目を開けろ、お前たちを殺しに来た」

「汚らわしい、下がりなさい」

「まだ解ってないみたいだな、この神殿でもう残ってるのはお前だけだよ」

「…神聖騎士までも倒してきたとでも」

「さあ、信じないのなら別に構わないが」

「何故」

「何故だと。奴隷を使い人体実験をしてきたのはお前だと記載されていた、指示書も残っていたよ」

「奴隷…それで神の元へと召されていったのです、なにが不満だというのですか、苦しみから解放したのですよ」

「そして竜族の支配地への竜種による被害画策」

竜族(とかげ)に害をなしてなにが悪いというの、奴等がこの国を、この国の民を見捨てているからっ」

 竜族と口にしただけでこの反応は異常ともいえた。

 聖女は己の過去を振り返る。

 村で生活をしていた頃、両親と共に畑を耕し、弟の世話をして過ごしていた。

 世界は幸福で一杯だと信じていた。

 だが、その幸せを魔獣の群れが襲い一瞬にして聖女は全てを失った。

 偶然、彼女は用事があって隣村まで使いに出ていた為助かった。

 戻った町は獣達によって殺戮されつくしていた。


 なぜ、優しかった両親は何故死んだのか。

 可愛かった弟は…

 おじさん、おばさん、優しかった司祭様が何故死ななくてはならなかったのか…

 何故、何故、何故、何故………


 教会の聖騎士によって保護された彼女が修道女になったのはこの後だった。

 そして、教会の教えを聞き恨みが竜族へ、そして力を信仰へと求めたのは自然な流れだったのだ。


 聖女は語った、全ては竜族の悪行のせいだと。

 竜族が悪しき物だから魔獣がいるのだと。

 滅ぶべきは竜族で選ばれた人間こそが大陸を納めるに相応しいと。

 激昂の余り目を見開いて語っていた。


 目の前にいたのは悲しい目をしている天使だった…

 輝く翼、四本の腕を持ち武器を構えている姿は神か天使でしかありえなかった。


「ああ、救いにいらっしゃるのが遅すぎたのです」

「貴女はそこまで苦しみを知りながら、奴隷を殺し、獣人を差別し、人を欺き、戦争を起そうとしている」

「私は邪教と邪悪なる者達を滅ぼそうと!」

「わかっていない、あなたが自ら本当に憎むべき相手に仕え、そして罪を犯している事を」

「私は間違ってなどいない!」

「竜族がこの国を守らないのは差別をする者達が国を作っているからだ、そして竜を邪悪と断定し今も尚嫌われながらも危険すぎる魔物や魔獣を狩るために訪れる竜を攻撃させているのは聖教会だ、なぜそれがわからない」

「わ、私たちは間違えてない、でなければ弟が死んだのも」


 聖女はそう云うと手に隠してあった神薬を飲んだ。


「そうよ、私は神に選ばれた聖女。邪悪なものの使いとして現れた偽者がっ、信仰を汚す者には死を」


「もとより生かす心算もないが、哀れだな、それを使えば化け物になるだけだ。

 せめて人のまま死ぬほうがいいさ【深淵氷炎(安らかな眠りを)】」

「何をっ………」


 そのまま聖女だった哀れな女性は砕け散り、煌きと共にこの世から姿を消した。



 後に贖罪事件と呼ばれたこの出来事は、戦争の準備を進めていたフルトリア国内の聖教会派貴族を震え上がらせた。主導する聖教会が組織ごと崩壊の危機を迎えたのだ。戦争など出来るはずもなかった。


 国王は勿論の事件の調査に当たったが目撃されたのは一人の青年らしき姿のみ。

 目撃者と言っても遠くからのみ、特徴から考えた犯人と思しき人物はブルトンで目撃されていた。それも多数の目につく調査結果だった。フルトリア国王は政治顧問としての側近を新たな法王に任命するだけで捜査を打ち切った。そして暗殺されるかも知れぬ恐怖に怯えたといわれている。


 こうしてブルトンとフルトリアの戦争は一時的に回避された。

 明るくエル達の元へと慶司が戻ったのはリヒトサマラで一仕事終えてからだった。


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