反抵抗義賊組織
その女性が現れたのは慶司達が一旦都市建設から離れようとした時だった。
飄々とした佇まい、そして後ろに見覚えのある女性がいた。
ケルト城砦都市で兵士に詰め寄っていた女性である。
二人とも只者ではない、そういう雰囲気があるのだ。
「たしか、後ろの方は先日お会いした方ですね」
「……そういう話だったからな」
「貴方が慶司さんですね、初めまして、クレアと申します、こちらの者はイデアです」
「どうも、慶司です、先日お話したばかりだったのでこんなに早く来られたので少し驚きました。確かどこかの村長の方だとお聞きしてましたが」
「ブルトンでの騒ぎを聞いてたので、先行してイデアに向かわせていたのです。
落ち合って直に此方へ向かわせて貰いました。
なんでも元奴隷の人だけで村を作られるとか…
此処がそうなんですか。それにしたは既に用意されていたかの様な土地ですが」
周囲を見回しながらクレアは尋ねた。
慶司からすれば十日間突貫作業で作っただけだが周囲から見ればそう見えるのだ。
それは慶司も理解する所である。
「ええ、此処に港を建設していく予定です」
「ブルトンに限らず大陸の西に港が出来る場所は無かったと記憶してるんのですが」
「そうですね、その認識は間違いではありません、ここは削って作った場所ですから。それより立ち話もなんですから、よければまだ出来立てですけど建物へどうぞ」
「ありがとう、ではお言葉に甘えてお邪魔させて頂きます」
エイミーが先に管理者用にと建設した建物へと走ってくれた。
お茶の準備をするためである。
後回しで建てればいいと言ったのだが働く皆がせめて作らせてくれと言って聞かなかったのだ。
慶司はこんな来客も考えていなかったので助かった。
「どうぞ、自分達は長期では此処に居ない為狭いですけど」
「そうなのですか、こちらは慶司さんの領地なのでは」
「そこを説明すると長くなりますが、管理地として預かりますが領地ではありませんよ。
他の貴族では税の問題などの解決が面倒なので自分が管理者として預かっただけです。
実質は国王の支配地と言ってもいいかと」
「正直此処に来るまでお話を信じれませんでしたが…
ブルトン王国は本気で奴隷撤廃と差別廃止、聖教会追放をするのですね」
クレアとしては混乱する出来事である。
国とは聖教会であり、奴隷、差別、戦争が当たり前の存在だったのだ。
それを否定する国が出来て竜族と国交を結ぶなど考えもしなかった。
そんなクレアに慶司は自信をもって説明する。
「ええ、それは間違いありませんよ、竜族が国交を結んだ事でも理解してもらえるかと」
「それも確認しに来たのです、国というものが出来て以来そんな事を成し遂げた国などこの大陸に存在しなかったのですから」
「偶然ですがシャーリィ女王陛下が大陸の南部から此方へ帰還するお手伝いをさせて頂けて、その縁もあって女王陛下の事は知っていますが言った事は必ずやり遂げると俺も信じてますから」
「【不可侵領域】で【竜の騎士】と呼ばれる貴方が信じると言われれば納得した方がよさそうですね。
少々不思議に思っていたのですよ。私立ファーレン冒険者学院を立ち上げ、竜王格闘杯で優勝した貴方がどうしてこの時期にこのブルトン王国で活躍されたのだろうかと…竜族の加護という訳ですか」
「うーん、そうですね、其処まで調べられていれば気付かれますよね。一度シャーリイとはグラームで別れています。その後大会を終えてからこちらまで竜族に頼んで来ました」
「貴方の行動は、竜族の意向としてですか」
「いえ、あくまでも活動の意志は俺の個人的なものです、ただ竜族とは縁も深くて問題がないかどうかは確認したり、協力をお願いしたりする仲ですが」
この女性はどこまで知ってるのだろうかと少し慶司も警戒感を強めた。
唯の村長で学院のことまで調べて知ってるのは明らかにおかしい、だが先日後ろに控える女性の想いは本物だったとも感じている。
「なるほど、ブルトン王国の変革の裏には貴方の存在があったわけですね、では此方も村長などと名乗らずにおきましょう」
「クレア様」
イデアと呼ばれた女性が声を上げた。
村長ではない事ぐらいは気が付いている慶司だが、そこまで慌てる人なのかと内心興味がでた。
「良いのです、まず最初に私に敵意はありません、これだけは述べておかねば話せませんので御了承を」
「構いませんよ、其れだけの情報網を持っている貴方が徒の村長とは思えませんから」
「そうか、ではお話します。私はフルトリアで黒狼支部を束ねるものです。貴方方には此方の支部の者が迷惑をお掛けしました」
流石に黒狼の名がでるとまでは思わなかったが、聞いて成程と納得したのだ。
確かに大陸に張り巡らせている情報網は竜族を越える物だろう。だがしかし、何故態々正体を明かしたのかである。
「今この場で、正体を明らかにしたのは何かお話があると言う事ですね」
「そうですね、協力してもらえるならと言われていたので此方に協力したいのですが、それにしても黒狼の名を聞かれて驚かれないとは流石ですね」
「いえ、こう見えて驚きはしてますよ、それよりも不思議なのは支部と言われましたが黒狼は支部が存在するのですか、てっきり黒狼という組織でシャーリィを狙っていると思ったのですが」
「そうですね、ではまず、そこからお話させて下さい。
信用して頂く他無いのですが、黒狼は反聖教会の抵抗組織です。そして支部毎に頭目が居ます。大陸北部にはブルトン、フルトリア、エイミリアの三箇所、大陸南部にはロゲリア、マレドに支部がありそれをフルトリアの隠里とロゲリアの隠里にいる長老が指示を出して組織を運営しています」
「反聖教会の反抗組織ですか…」
これは予想外だった、所謂レジスタンスである。
「私たちは獣人族の隠里に住む者達で作った組織なのです、部外者は居ません、そして黒狼は獣人かハーフのみで構成されています、受ける仕事は教会の人間の暗殺と、それを依頼した人物が悪人であった場合の始末、これを双方ともに行う事で教会の勢力を削いで着ました。全ては獣人奴隷の解放の為」
「成程…ではブルトンの黒狼の仕業というのは」
「こちらを任されていた人物が国を裏から操って、最終的には自分達獣人に住みやすい国を作ろうと浅墓にも考えて立案したのか…それとも聖教会に踊らされたか、それは不明ですが、明らかに黒狼の理念を逸脱した行為、フルトリアに援軍を求めにきましたので処断しました」
「そうですか…シャーリィの意志を知らないにしろ聖教会派の裏で働く獣人の組織という謎がやっと解けました」
納得の話である。
全部を完全に信用するかと言われれば九割九分は信用しても構わない情報だ。
それほど腑に落ちたのだ。
「私の話を信用して頂けるのですか」
「実際信用できるだけの情報をお持ちですしね、成程と納得の行く話もありました」
「では、我等も此方で手助けを」
「いえ、それは必要ないですよ」
「なっ、貴様、クレア様の心遣いが要らないというのか」
イデアが激昂したが、ちょっと勘違、というより早とちりだ。
人の話は最後まで聞くべきだ。
「違いますよ、手助けが必要なのは貴方達の方です」
「それはどういう意味でしょうか」
「恐らく先の反乱についても調べられてますよね」
「ある程度は調べさせていますが流石に全部は無理ですね」
反乱軍の使った薬などは調べてないと言う事か…
ならば説明をしておかないといけない。被害を増やす結果となる。
「まず最初にある薬が使われました、それは人を魔素変化させる物です、そしてもう一つはこの大陸では存在しない黒いトカゲです、どちらかに聞き覚えはありますか」
「いえ、人を魔素変化する物など聞いた事はないですね、黒いトカゲはもしかすれば大陸産ならありえるかもしれないけれど」
「では聖教会の聖騎士が人体実験されていることは御存知ですか」
「奴等ならやりかねませんけど…まさか、その魔素変化の薬と関係があるのですか」
「俺はそう睨んでます、そして竜族を目の仇にしているのは王族よりも聖教会というのも一つあって、竜種を狙った生物兵器とも言えるものの変化結果とその使われてからの人が似ていたのです。戦争中でしたし、感染の恐れがあった為、即座に焼却してしまったので、本当に同じ種類かまでは判断できませんでしたが」
クレアは少し考え込んだ。
何か自分達が知らない事態が始まっているのか、そう考えさせられたのだ。
あの化け物の様な標的、もしかしたら…
「イデア、たしか以前聖教会の魔術研究支部を調査させましたね」
「はい、ですが大した機関ではなかったようですが…」
「欺かれえた可能性が大きいですね、慶司さんが言われてる人体実験の聖騎士が…殺戮者のジャックだとしたら、慶司さんその聖騎士の名前はなんと言うのでしょうか」
「俺の大会での決勝戦の相手、ジャック・ド・ビアンです」
「やはりそうでしたか、あの男の強さは異常で、戦争参加すると被害が拡大する為何度も刺客を送りましたが返り討ちになっていたのです」
「無痛症に恐らくですが周りの時間を遅く認識するような人体実験がされていたと思いますよ」
「殺戮者は…」
「大会の最後で自爆を図ってそのまま精神に異常をきたしたので俺が止めを」
「そうですか、あの男を倒されましたか…ブルトン支部が壊滅に追い込まれるわけですね、そうでした、一応残りのブルトン支部の構成員は見つけ次第処分しています」
「それが貴方達のケジメなら止めません、ですが解って頂けたと思いますが今の聖教会は異常です、抵抗活動をされるにしても危険すぎる相手ですよ」
慶司はシビアである。冷酷に判断してこの世界にはこの世界の基準がある事を優先する。
自分の育ってきた倫理観では人殺しであったもそれを躊躇すれば他の誰かが傷つくのだから。
だから他の組織でもある黒狼が内部の粛清が必要だというなら別に何も言わない。
しかし無駄死にをするような行為を見過ごすような人間では無い。
その性格の為に厄介事に首を何度突っ込もうが変わらない、エルの好きな部分でもあるのだ。
因って…
「ですが誰かがやらないと、反獣人思想を植えつけている聖教会はどんどん勢力を拡大しています」
「そうですね、ですが貴方達だけが命を賭ける必要もありません、俺にも手伝わせて下さい、悪戯に例の魔素変化を起すような薬は使わないと思いますが…あれを使われたら大陸全土に広まる可能性すらあるのです」
「確かに慶司さんのお力添えがあるなら被害は減ります、此方からお願いいたします、なるほどこれが反乱軍を倒した本当の力なのかも知れませんね。
そういえば此方に来る際に大分国境警備も厳しくなっていましたが、ウチの者がこんな書状をもった聖教会関係者を一人仕留めています」
「これは、成程調査しに聖教会関係者がいたんですね。ですが一人で潜入したとも思えないですね」
「恐らくですが此方の諜報部隊の方が始末されて逃げていたとイデアからは聞いています」
「私たちが発見したときは何者かから逃げている様子でしたので間違いないかと」
「なんだか心辺りはありますね、さて、それでは今夜はよければ泊まって下さい、自分達も明日には北へ向けて出発しますが、サクスンまで行った後でフルトリアへ向かいます。
ですから黒狼の情報網で、まずは聖教会の研究施設について探って頂けると助かります」
「では今夜は御好意に甘えさせて頂くとして、聖教会の施設については洗い直させましょう」
「クレアさん達と連絡を取る場合はどうすればいいですか」
「ケルンにイデアを残しますので合流して下さい、イデア冒険者ギルドで仕事を請けつつ待機を」
折角だからという事で夜ご飯は慶司が作って振舞う事になった。
慶司の最近の技術の結晶とも言える土鍋を使用した海鮮鍋である。
海をもっと探せばカニも見付かるかもしれないが、用意できたのは白身魚と伊勢海老をでかくしたような巨大海老や貝であった。
流石に冬場だけあって葉物野菜も一種類しかなかったがニギンとマシュ苔、ギネなどを放り込んで食べるのである。
先日と違って最初から饂飩は放り込んで、最後の締めとして雑炊を炊くのである。
魚と海老、そして貝から出たエキスの香りが堪らない。
全員に最後にご飯が食べれるだけおなかに余裕を持たせた慶司はご飯と溶き卵を入れて蓋をし、細かく刻んだギネと柑橘系の搾り汁と酢と醤油を入れて全員に取り分けた。
醤油の味付けはやはり新鮮らしくクレアもイデアもおいしそうに食べていた。
幸せそうに食べる姿をみて、早く此方の世界の醤油を販売できるといいなと思う慶司であった。
翌日慶司達はアリーに向けて出発した。
色々とやらなければ行けない事が増えている。
だが、一つの問題に目処が立ったのだ、聖教会の調査。
フルトリアに知り合いの居ない慶司にとって黒狼からの情報は貴重であった。
そして彼等は戦い続けてきた人々である。
ブルトンでは諍いもあったが、心強い仲間ができた。
早めに変異魔素の問題だけは片付ける。
その想いを胸に新たな旅路に向かうのだった。




