新たな仲間と共に
慶司達の旅程はまず途中にあるアムスという都市までが10日、さらにそこから10日ほど南へいけば王都である。先日の最終日に襲撃を受けているので出来るだけ時間はかけずに向かう。
さてブルトン王国の大まかな地理だが、最北の都市はサクスンの港、西の果てにはロンデという港がある都市があり、東はケルン砦という城砦都市があってフルトリアとの国境を守っている。中央の王都より南は深い森がありその先も山脈が聳えている。新大陸以外では唯一離れた島の領土をもつ国なのも特徴の一つだろう。西のロンデの先にあるその島では鉱山開発を行っている。以前慶司が酒場でだされたアリー酒は王都から北東へいった山間の都市アリーで生産されている。
気候は大陸の北部にある割には穏やかな気候だといえる。これは国が山に囲まれていて、その外側をさらに海に囲まれているからだ。流石に冬場の風は冷たいが、山で雪が降る為に平野部が雪で困る事はない。
比較的北部の王国の中でも暮らしやすい土地である。
ただ大陸の一番北西の端に位置している為に南の国家との貿易も大変である。
国内で女王に逆らう貴族もまだ多く、国教会がブルムントの正教であるが、以前として貴族の領土内では聖教会が庇護をうけて活動しているなど捻れた様相を呈している。その支援を目的として攻め込んでくる隣国フルトリアとは時折争いが起きている。
国教会では差別、奴隷を認めない方針を打ち出したため貴族、商人など利益に走る者達からすれば目の上の瘤である。
このままいけば王族、国教会派対聖教派貴族による争いが起こるのは誰の目にも明らかであった。
そこに女王の体長不良と時期女王の国外への使節派遣である。
主導していたデブル公爵は聖教会派とは公言していないが今回の事で疑念が生じている。
さらにその配下と見なせる人物にボアード伯爵がいれば傭兵団などに護衛してもらうわけにいかなかったとミランダから聞かされた。
先行として慶司、右側ルージュ、左側セリーヌ、馬車の御者にはヘンドリックとエイミー、荷車後方にエルで配置についている。
現在慶司はミランダと並んで御者台に座りブルトンについて色々と教えてもらっている。
まあそれよりも忙しなく出発になった事で解決していない問題があるんだが…
―ウラヌス達―
(アルテ、ヘリオス、我輩はやったぞ、御主人様と会話できたのだ)
((なんだってぇ))
(うらやましいわ、まだ私たちには無理だったわよ)
(ク…さすが御主人様と一番長くいるだけはあるな)
(うむ、我輩感無量であったが、まだ言葉を完全に覚えてないからな、普段から我々はこの会話方式でいこうと思うのだがどうだ)
(いい提案ね、そうすれば私も奥方様と話せる日が)
(俺も賛成だぜ、エイミー様と話せるときに役に立つだろう)
(うむ、修練あるのみだ)
こんな会話をウラヌス達がしてるとも思わない慶司だが、片言でもウラヌス達と会話できたのは喜ばしいことだった。
以前から会話を理解はしてると思ってたし、前回念話を試みた時も出来なくて残念に思ったのだ。
だがまさかその念話を仕掛けたことがきっかけとなっていたなど思いもよらなかっただろう。
それまでのウラヌスたちは会話とは即ち鳴き声でするものだと思っていた。
慶司達に伝わる言葉は発することが出来ない、言葉は理解しているのに伝えられないので諦めていたのだ。
それが念話という方法で話しかけられた事で言葉を思念で飛ばして会話が成立すると知ったのだ。
その方法を仲間で試すと思ったよりも簡単にできた、慶司達にも幾度か試みたが上手く行かなかったのだが遂に成功に至ったのである。
こうしてウラヌス達は新たな進化を見せる事になる。
ピレードという種の限界を超えて新たな生き物となるのである。
通常魔素の変化にさらされた動物は大きくなることが先ず前提となる。
その上で知恵を見につけるのだが緩やかな魔素の変化をしていたピレードたちは体の大きさを求めてはいなかった。既に十分な巨体であり求めたのはスピードと頑丈さ、常に慶司達と戦いたいと心の想いに進化が答えたといえる変化を見せていた。
そこに知性の獲得、念話での意思疎通とさらに劇的に変化を促す要因が齎されたのだ。
憧れたのは空を飛ぶ竜族たち、ご主人様も空を飛ぶのだ。
ウラヌス達は大空を慶司達と駆ける事を望んだ。
襲撃がやってきたのは二日目の夜である。
まさかベネアのミルモス達が襲撃した時に全滅したとは思っていない黒狼の襲撃だった。
白狼傭兵団はたしかに騎士達が抑え込んでくれていた。
しかし、表の顔からの情報はその日の内に裏の顔である黒狼へと伝わった。
この黒狼の指揮者も情報を聞いて相手を侮った。
騎士が四十人もいれば厳しい戦いになるとは思っていたが表の白狼傭兵団の見事な手際で相手の人数は目標もふくめて八人だが、内二人しか男はいない、一人は腕が立つらしいと聞いてるし、もう一人は騎士のヘンドリック、さらに国教会騎士のセリーヌ、この三人しか脅威がいないなら與猶だと嗤った。
ここまで4人で帰国したと報告にもあったしベネアでの戦闘では騎士と相討ちでもしたのだろうと結論をくだした。それにこちらの人数は二十人、手練で構成してるのだ。
闇の中から配下へと攻撃の合図を下そうとした。
(ご主人様、敵来ます)
(ありがとうウラヌス、アルテたちと馬車を守って)
(わふ、はい)
(今ウラヌスとお話になってましたよね)
(そうなんだよ…また相談する、敵だよね)
(はい、まさか察知範囲で負けるとは思いませんでしたわ、相手の人数は十五人です)
(俺も吃驚したよ、後は一応防壁展開を宜しく)
(わかりました)
「エル、ここを頼むねちょっと倒しに行ってくる」
「うむ、気をつけるのじゃ」
「さてと、【竜撃ノ伍八識無我】【竜身ノ一、竜腕】【飛翔】」
慶司は速やかに戦闘態勢に移った。
背後から忍び寄る気配に気が付いた時にはもう手遅れだった。
その男は突然現れて振り向いたら既に七人の配下が倒されていた。
「散れ」
そう命ずるだけで精一杯だったのだが動けた配下は四人だけだった。
命じた瞬間に動いた配下は首を切断されていた。
何が起こったのか…
余りの出来事に散らばった者達も恐怖した。
頭の中では逃げることしか考えられない。
だが逃げたら粛清されるのだ。
ならば殺すしかないっ
そう一斉に判断したのだろう、打ち合わせもなしに五人が同時にしかけた。
近づいてみた異形の姿にも勢いを止めず切り掛かった。
だがまさに一瞬で四人が殺されてしまう。
槍で貫かれ、投擲具で頭を穿たれ、喉を貫かれ、刀で切り裂かれた。
そして生き残ったのは自分だけだと気付いたその時、目の前の異形の男が声を発した。
「黒狼だね、お前たちが狙ってるのは知ってる、それに雇い主が貴族だってこともだ」
慶司としては当てずっぽうの質問だった。
だが一瞬男の顔が歪んだのを見逃さない。
「デブル公爵、ボアード伯爵、ハッケル男爵」
今回の使節派遣を推し進めたと言われる貴族の名を並べる。
そして反応があった事に満足した。
「なるほどね、デブル公爵か、ボアード伯爵かとも思ったけど黒幕は間違いないね」
指揮を取っていた男は自分の反応で答えを探された事を悟ったようだ、悔しそうな顔をしている。
「知らんなっ」
この男達は証人としては役に立たない、直に自害を選ぶ。
突き刺してきた剣を躱して首筋を切り裂いた。
毒で死ぬよりは良いだろう…
挟撃に向かった黒狼の配下たちは一斉に切り込んだ。
目的は素早く突入して敵を引き付けてその背後から本体に切り込ませる事だ。
無理に戦わずとも護衛を離せば良い任務だ、気軽に突撃を開始した。
六人で突入したが、さすが王宮の騎士団長二人掛りでなんとか足止めができる強さだ。もう一人の国教会騎士も二人掛りでギリギリ、さらに冒険者の女が強くて二人掛りと三人で押さえ込まれてしまった。
そこまではまだいい、待っても本体が切り込んでこないのだ。
何があった、別働隊の指揮を任された男は冒険者の女の相手をしながら毒づいた。
慶司が十五人を倒すと同時にシルフィから別方向より六人が来ますと連絡があった。
急ぎ戻った慶司が現れたことで別働隊は一気に崩れていく。
セリーヌの戦ってる二人を走りよった慶司が切り掛かって倒し、首筋を糸が巻きついたところをセリーヌが止めを差した。
セリーヌがヘンドリックの方へ、慶司がルージュの方へと別れて援護に回りそのまま対峙した。
「情報は取りました、デブル公爵が裏で糸を引いてます、そして此奴らが黒狼である事も確認しました」
そう聞いた瞬間に動揺した暗殺者達は次々と討ち取られた。
傷の浅いものも逃げられないと覚悟すると毒を含んで自害をした。
「やはり、情報の漏洩を防ぐ為に自ら死にますな」
「ええ、この黒狼という組織なんらかの手段で配下の人間の弱みでも握っているのだと思います」
「厄介な相手だな…まったく」
「慶司さんの方は問題なく終わったのですね」
「ええ、埋める間がなく来たのでいまから戻って埋葬しなくてはいけませんけどね」
「ふむ、悪人と言えど野晒しにするわけにも行かぬからな」
「ところで慶司さん、その背中の腕は…」
「これが話してたベネアで黒狼を返り討ちにしたときの慶司殿のすがたじゃよ」
「すげーよな、最初は人族じゃなくて別の種族かと思って尋ねちまったぜ」
「はあ、やはり金10を取られるような冒険者の方は凄いのですね」
「いや、これはちょっと竜族からの贈り物のような」
「それこそ奇跡のような素晴らしいものではないですかっ」
「そうじゃろ、そうおもうじゃろ」
話を聞きつけて近寄ってきたエルは鼻高々である。
倒れないように後ろから支えておかないと危険だ。
あまりエルが自慢してもエルの素性までは話してないのだから意味はないと思うんだが。
もしかして気が付いてなかったか…
先ずは遺体を処理してからという事になった。
火葬も出来なくはないが魔力でするには膨大な魔力が必要になる。
素早くやればいいのだがそうなると骨もなにも残らない方法になる。
そこで、土の魔法で一気に穴を開けて遺体を埋めるしか方法は無かった。
作業を終えて戻り、デブル公爵達が黒狼を雇っている事と今後も襲撃がある事を話し合った。
流石に白狼傭兵団が関係はしてると思っていても表組織だとまでは思わなかった。
ただ、今日始末をした刺客たちが戻らなければ失敗を悟った相手がどのようにするかと考えただけである。
問題はその襲撃の規模がどれ位の人数で来るかだ。
警戒は続けるとして対策を明日考えるという結論で明日に備える事になった。
「そうだ、エルやっぱりウラヌスと話せるよ、まだアルテとヘリオスは無理だったけどね」
「やはりそうか、すごいのぉ我の知るところでそのような話は聞いた事がない」
「褒めてみてやったら喜ぶと思うよ、今回の襲撃の察知はシルフィより早かったんだ」
「おお、それは凄いな」
(ウラヌスよ、偉いぞ、アルテとヘリオスにも伝えておくのじゃ)
(はい、奥方様)
バタバタバタと尻尾をブンブンふって嬉しがってる。
「ね、これってどういう現象なんだろう」
「うーむ、研究者でもこれは驚きの内容じゃろうなあ、妾にもちっとも解らぬ」
「そのうちに魔法使ったりしてね」
「ありえぬ話ではないぞ、魔獣のクラスの高い物は魔法ににた現象を起こしているからの」
「そう言えばウィルヌスを討伐した時に風の防壁に近いものを纏ってたか」
「うむ、妾たちの真似をしようとしてれば無き事ではない」
「ウラヌス達が空を飛んだりするのかな」
「どうじゃろうなあ流石に飛行はわからんが、炎ぐらいは出すやもしれぬ」
「今後の楽しみってとこかな」
「そうじゃの」
二人はウラヌス達といつか完全な会話ができるだろうと語り合い、夢を膨らませていた。
さらにエルとも話せた事でウラヌス達がより努力する事になるのだが、それは二人の関知できることでは無かった。
次の日からは村や町は素通りする事に決定した。
村で留まるのは必要な食料を購入する間だけである
最短で到着を目指す為だから疲労も貯まるはずだった。
しかし現実はというと。
野外にも関わらず快適な寝床が用意される。
料理は宿で食べるより美味しい。
十分な休憩である。
これでは疲れが貯まるどころでは無い、元気になってしまう。
毎食慶司が工夫を凝らして料理を出してくるのだ。
今回は村を通過した直後で卵を手に入れたのでオムライスが出てきた。
牛乳を少しと卵、チーズの粉、塩、胡椒、で味付けされた卵を中が半熟の状態で仕上げて鶏肉とご飯にスープの素Cと胡椒で炒めた物にのせ、上から新しく作っていたデミグラスソースの素を戻した物をかけて仕上げた物だ。
手抜きには違いないが野営中に食べる料理としては十分である。
手を抜くといいながら朝ご飯用にパンの生地を仕込んだりうどんの生地を仕込むのである。
うどんカルボナーラなど手抜きの極地でカロリーも高い一品なのだが慶司も好きなのでついつい作ってしまった。
こんな食事が毎回でてくれば国教会騎士のセリーヌがウヌヌヌと唸り始めるのも無理は無い。
騎士団で野営といえばパンとスープと水で薄めたワインだけである。
しかも独り身で宿舎で寝泊りしているのだから普段の食事も推して知るべしである。
そしてとうとう、デザートも作れるかななどと簡単なホットケーキを用意したときに壊れた。
「ぬあぁ普段の私より食生活がいいとはどういうことなの」
「それを告白するのはどうかと思いますわ」
「セリーヌは普段は家なの」
「まあ、アタシだってこのご飯を知ってからはショックだったけどな」
「…宿舎に寝泊りしてますから、そこのご飯なのですが、ご馳走といえばよくてステーキ、普段はパンとシチューとサラダにスープが出てくるぐらいです」
「仕方ないわ、セリーヌ私だって王宮で同じ物は食べれないのだから」
「ご安心下さいませ、ここ最近のレシピもきちんとお教授頂いております、このミランダに抜かりはございません、特にデザートだけは確実に味も記憶しております」
「だがこのパンケーキのふわっとしたのも再現できるのか」
「はいデンプンの作り方と材料も教えていただいております」
「流石だ」
「恐れ入ります」
「なんだろう、この納得の行かない感じ」
「気にすると負けじゃぞ、ドレスムントでも慶司の伝えたレシピで店がパンクするほど忙しくなった料理店があったしな、白銀の翼と旅をすれば食について考えさせられるのも当然じゃ、この料理の為だけにスープの素なるものを作る魔術道具まで用意しておるからの」
「それは何処で手にはいるのですかっ」
「ギルドで使えるようにレンタルしてるにゃ」
「この数日間で野営について考えさせられる事ばかり…ハンドシャワーに洗濯袋、乾風器、霧風器、空調符、さらにこの料理にベット代わりの網、私が今までしてきた野営は一体何だったのだろうか」
「最初は驚いたがなれるとこんなもんだ」
「これで驚いていては駄目ですわ、セリーヌ様、掃除道具などもあるのですよ」
「フフフ、これは一家に一台慶司どのが欲しくなりますな」
「欲しがっても妾の主様じゃからやれんぞ」
「今から料理の練習をするべきなのだろうか、剣しか握ってなかった事を悔やむ日がこようとは」
「料理の得意な男を捕まえるっていう手もあるにゃ」
「そうですよ、セリーヌ様は美人ですからより取り見取りじゃありませんか」
「フフ、剣しか知らない私が…」
いかん暗黒鬼女へ落ちそうだぞ。
「セリーヌさんも野営では料理をしてたんですよね」
「フ、一応な…スープだけとかだが」
「なら大丈夫ですよ、レシピさえ覚えれば料理なんて簡単ですっ」
「そう、なのかな」
「ええ、基礎さえできるなら間違いありません」
「うむ、そうなれば剣と料理ができてモテモテじゃ」
「え、モテモテですか」
「そうですわね、さらに引く手数多になりますわ」
「そうかなっ」
「そうなれば私が後見として間にたってみせよう」
「本当ですかっ」
こうして次の日から真剣な眼差しで料理に取り組むセリーヌが誕生した。
野菜を空中で裁断するのを辞めさせるというのが最初の取り組みだったことで想像して頂きたい。
旅は順調に進んだ。
途中の村などで奴隷の姿などを見たときには悲しい思いもしたが、慶司達に出来る事は無かった。
シャーリィが即位して法の整備から整えないと解決にはならない。
次に慶司達を待ち受ける刺客が現れたのは、更に数日が過ぎ、アムスを通り過ぎた時であった。




