小悪魔の微笑み
宿に戻ってきた慶司だったが、残念な事にそのまま寛ぐ事はできなかった。
「主様、帰ってきたか」
「にゃ、よかったにゃ」
「何があったの」
「テメエも此奴らと一緒か、テメエの飼ってるピレードに怪我させられたんだよ」
「だれこの人達」
「俺らは白狼傭兵団だ」
「で、何しにきてんの」
「言い掛りをつけてるにゃ」
「ウラヌス達が柵からでて逃げ出して此奴らに怪我をさせた、と一応は言っておるんじゃ」
「えっと言い掛りだよね」
「なめんてんのかテメエ」
「ちなみに怪我ってどんな怪我なんですか」
「骨折だよ骨折、それと噛み付かれたからな慰謝料だしてもらうぜ」
ふむ、よくある強請り集りって奴かな。
そもそもウラヌス達が自分達から出るわけが無い。
「それで今ウラヌス達は」
「騎士団が騒ぎに駆けつけたんだけど、小屋で大人しくしてる」
「じゃあまず、怪我してるんですよね」
「おう此奴ら三人だ」
「じゃあ怪我をまず見せて下さい、いまここで」
「なんでそんな事する必要があるんだよ」
「怪我してるんでしたら見せる事が出来ますよね、しかも噛み傷があるならなお更です」
「それがな、こいつら見せんのじゃ」
「はぁ、詐欺、強請り集りで態々うちの子達を騒ぎに巻き込んで欲しくないんだけどな」
「何だとテメエちょっと女連れてるからって生意気な口利いてんじゃねえぞ小僧がっ」
「そもそも、この宿の宿泊客でもない人がどうして裏の厩舎にいたんですか、盗みに入って抵抗されたかなにかでしょ、そちらこそウダウダ抜かしてると痛い目みるよ」
「上等だコグハァ」
「手を出そうとしてる人間を黙って見てると思いましたか、幸せな考えしてるね」
「ふざけウゲェ」
「ブヘッ」
「ウッ…」
「全く…警邏の騒ぎは起こしたく無いのにな…ロープで縛ってとりあえず突き出すか」
「いっそ殺したほうがよかったにゃ」
「大分エイミーもエルに感化されてきたね」
「いや、それが正しい判断なのじゃ」
「きっとそのはず…にゃ」
「エイミーは警邏の詰め所わかるかな」
「大丈夫にゃ、調べてあるにゃ」
「じゃあ呼んできて、それと此奴らつれて一応ウラヌスのところへ行こう」
「ふむ」
そして宿の裏に回ってウラヌス達のところへいくと一人の女性が佇んでいた。
「失礼ですが、うちの子が何か」
「ああ失敬、余りに見事なピレードだったからな、というかこの子はピレードで宜しいのか」
「ええ、ちょっと見た目が違いますけどピレードですよ」
「そうか、ふむこの子を譲ってはくれといっても無駄だろうなあ」
「ええ、大事な仲間ですから」
(御主人!)
「あれ…っと誰かなんか言った」」
「いや、なにもいっとらんぞ」
「まさかね、それで、貴方は」
「すまない、騒ぎがあってたまたま外を巡回していたので仲裁に入ろうとしたのだがそ奴等の動きが怪しかったのでここで見張りをしてた、私は国教会騎士団所属、セリーヌ・ド・メルキュールです」
「有難うございます、慶司といいます、見張って頂いて助かりました。どうやら盗もうとしたか、言い掛りをつけるにしてもおかしかったので」
「当たり前じゃ、ウラヌス達が噛み付くなど考えられん、もし噛み付くとしたら盗み出すのに抵抗する時ぐらいじゃ」
(我、噛む、無い)
「えーと、ウラヌス?」
「ワフッ」
(ウラヌス、喋ったかお前)
(御主人様!)
「ちょ…うーん、えっといいや大丈夫」
「どうかしたのか主様」
「え、あーうん後で説明する」
(我来た男捕まえに来た体当たりした)
(大丈夫疑ってないからね)
「わふん」
凄い勢いで尻尾振ってる…っていうか喋ったかぁ。
そんな事になるんじゃないとかとは思ってたけど。
意思疎通が半端なかったしね…
「ふむ、ではこいつらは白狼傭兵団なのだな、うーむ」
慶司が先程の出来事を説明したらセリーヌの顔が曇った。
「何か不味いのかなその白狼傭兵団が相手だと」
「こいつらとは我が騎士団とも揉めていてな、ここの領主のボアード伯の私兵なのだよ」
「ということは警邏に連れて行かしても」
「まず処分はされないだろうな」
「困ったな」
「我が騎士団でなんとかしたいが…ボアード伯に口実を与えるのは不味いのだ」
「いえ、そこまでお願いする訳にもいきませんから後はなんとかします」
「そうか、力になれなくて済まない」
一応セリーヌのほうからも事情の説明をしてもらい、その場は警邏に引き渡すという事で決着が付いた。
セリーヌに礼をいって別れた慶司は対策に迫られた。
シャーリィさえいれば即時にでも都市を離れたいが出来ない。
慶司は夜具を荷車に用意して宿に了承をとって番をすることにした。
隠れて掴まえても釈放されてしまうので、目だって越させない方法をとったのだ。
そして翌日、さらにややこしい事態が起こった。
まずシャーリィ達が到着した、これは素直に良かったことだ。
だがシャーリイの到着を待っていたのが慶司達を含めて三組もいた事である。
一組目は慶司達、これは一応連絡済の話であるから正式な依頼だ。
二組目は国教会騎士団、セリーヌの部隊である。これは司教が手配したらしく信頼は出来るだろうとの話だった。王都に戻るまで聖教会派の貴族からの刺客より護衛するために派遣されたというところだろう。
三組目が問題でこれが白狼傭兵団だった。貴族の義務として帰国した王女一行の護衛をする為派遣した、というのがここの領主でもあるボアード伯の主張らしい。もちろん正式な護衛ではない。
本来は王都の騎士団が動いてもいいはずなのだがこれは知らないところでヘンドリックの報告が握りつぶされていた為に派遣されなかった。元々は護衛に20名の騎士がいたのである。護衛の増援依頼も無い為、そのまま帰ってくると思われていたのだ。
ここで三組で護衛という訳にいかないのはボアード伯が聖教会派の貴族だからだ。
しかも昨日揉めた相手がいる訳だ。
これがセリーヌの騎士団とのみならばヘンドリックからの話でなんとか騎士団のプライドも納めてもらって共に護衛できたのだが、白狼傭兵団は無理だった。
そして見事に紛糾した。
「騎士団ならまだしも、このような冒険者風情と護衛だと受けられんな」
こう言ったのは白狼傭兵団の団長であるカイゼルである。
元々傭兵と冒険者は組合組織も違えば仲のいい間柄では無い。
冒険者は傭兵を只の荒くれ者の集団とみなしているし、傭兵も冒険者を腰抜けだと見なしている。
この後の事もあるので慶司も本物のカードは使えない。
銀だったらまだしも鋼9の護衛カードを見せても意味は無い。
なのでここはルージュの出番といきたいが、ルージュなら多分この時点で殴り飛ばしているので話し合いには参加させていない。
「では、こちらから選ばせて頂く護衛は国教会騎士団と慶司さん達だけとなります」
「それは聞けない話だ、ボアード伯から護衛の依頼を受けているからな、そもそも俺らだけで十分なんだよ」
「面倒な人達ですわ」
ミランダさんも辟易してる。
正直何がそんなに嫌なのかしれないが困った…
「ミランダ、この男はなんの権利があって私の決定に異をとなえてるのだろう」
「伯爵の意で御座いますよシャーリィ殿下」
「王女がそれに従う必要はあるのかしら」
「御座いませんが、現在騎士団もおりませんのでなぁ」
そう呟いて困ったと頭を掻くヘンドリック。
ああ、ミランダさんの微笑みが悪い顔に見える。
セリーヌさんに何か呟いたらセリーヌさんが慌てたぞ…
そしてシャーリィも聞いてニヤッって、これは悪い予感がっ。
「では、セリーヌしばしこの街に騎士団を止めこの者共が勝手な行動を取らぬよう監視するように王女から依頼する。我等は急ぎ王都へ戻る故護衛はこの慶司を含めた4名に任せる、頼んだぞ」
「なんだとっ」
「控えなさいっ王女からの命である」
「フンッ勝手にしやがれ」
「殿下、その依頼お受けするにあたり一つだけ条件をお願いしても宜しいでしょうか」
「なんだ申してみよ」
「ハッ、私のみで構いませんので共に護衛をさせて頂きたく存じます、一人の護衛もつけないとなれば我が騎士団も報告ができませぬ」
「よかろう、許す」
こうしてシャーリィの強権発動という形で騎士団を抑えに置いて慶司達八名が王都へ向かう事になった。
騎士団で抑えきれるとは思うが、後門に白狼は笑えない
翌日を待って慶司達一行は出発する事にして、一晩騎士団の野営地に厄介になる事になった。
「ふわぁ、しっかし面倒事《話し合い》を任せたけど、またこのメンバーだなっ」
「そうですね、でもまあいいじゃないですか、変な護衛がつくよりは騎士団の人に傭兵団を抑えて貰ってる方が安心ですわよ」
「あの時のミランダさんの微笑みで嫌な予感はしたんですよ」
「フフフ、これも侍女の知恵ですわ」
「やれやれですがな、してセリーヌよ抑えは問題ないのか」
「問題ありません、副長も信頼できますので私たちが出発をした後は傭兵団を監視し街道への出口で野営をする予定です先生」
「先生」
「そうです、ヘンドリック様は私の剣の師匠なのですよ」
「成程、それで信頼しても大丈夫と」
「まあ、そういうわけです、慶司殿この子なら事情を説明しても良いかと思いますが」
「ヘンドリックさんが大丈夫と判断されるなら」
「では一応襲撃を受けたところから掻い摘んで説明するぞセリーヌ」
話を聞く度にセリーヌさんが驚きの表情で此方を見てる。
お騒がせして申し訳ないが…
「そうだ慶司、大会の結果はどうだったんだ」
「優勝しましたよ、色々ありましたけど」
ウフフと話を聞いていたミランダさんが満面の笑みを浮かべたがどうしたんだろう。
「流石ですわ、優勝されると信じてましたからっ」
「やっぱりかぁ、ってことは姐御達はどうだった」
「そういえば嗾けましたね、キャサリンさんとは戦いましたがカレルさんとは戦えませんでした、これ預かってた手紙です」
「ふむ、なるほどな、あの姐御が褒めちぎるなんぞ無いと思ってたが子供が欲しいとまで書いてるぞ」
「なんじゃ、あの娘未だ諦めておらんかったのか」
「まあ冗談だとも書いてるけどね、それにしてもなあ、カレルが不憫だ」
「やっぱり知ってるんだね、脈はありそうだったけど」
「そうなのか、だとしたらよほどいい戦いぶりでも見せたんだろうな」
「カレルさんが準決勝で敗退だったからね」
「それなら納得か、しかしよくあの姐御に勝ったな」
「先にルージュさんとやってなかったら危なかったかな、あとは大会用に特訓も積んだしね」
「あの、すいません、先程から仰ってる大会というのは」
「ああ竜王格闘杯のことだ、コイツ優勝して来たってさ」
「えっえええ~~っでも、あの大会の場所はグラームで…あれ、そういえばさっきの話でも」
「うん、竜族の協力でこっちまで来たんだ」
「そんな平然と…しかも竜王格闘杯の結果はまだ届いてませんがあの大会にはそれなりの人物たちが集まったと…あれ、ケイジさん、けいじ、ケイジ、Kzって渡良瀬慶司、白銀の翼!」
「なんだ正体を話す前に気付いてしまいおった」
「先生、なんでもっとはひゃく、早く教えてくれなかったんですか」
「驚かせようと思ってな、フッハッハ噛むほどに驚いただろ」
「驚きますよ、討伐金10の冒険者なんて知ったら、でもあのそのカードは」
「これは今回のために用意したカードなんです、目立つと意味が無いのでギルド本部からの支給品です」
「凄い人が護衛に…なるほど騎士団を抑えにつかってと仰った意味が理解できました」
「いや、本当は騎士団の方にいてもらったほうが安心できるんですよ」
「それで慶司さんが護衛についてることは秘密にするという事ですね」
「そうですね、お願いします」
「わかりました」
その後も大会の話や旅の話をして盛り上がった。
特にルージュは大会の話に、セリーヌは旅の話に関心があった。
持ってきた予備の空調符が何枚かあったのでセリーヌに見張り兵の人へと渡してもらえるようにと手渡すとさらに驚いていた。
最近になって入ってきたが売り切れ続出で現物を見るのが始めてだったらしい。
ミランダさんがニヤッとした、悪い笑顔だ。だがいっそ清清しい。
そしてその笑顔で開発者が慶司だと告げると、セリーヌはひっくり返りそうになっていた。
まあ、一番驚いていたのは国教会派の貴族出身のミランダでさえシャーリィの決意を聞いた時だった。
だが同時に感動もしており、絶対に叶えましょうと興奮していた。
そして新たな仲間を得た慶司達は南にある王都へ向けて出発する事になった。




