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異世界見聞録―黒髪の青年と白銀の少女の物語―  作者: せおはやみ
トラブル・道連れ・世は情け
39/105

盗賊達の挽歌―野望の終焉―

 朝日が昇り、盗賊を殲滅した慶司達は出発の準備を整える。

 出発の前に、ホルスを荷車に繋いだ。さらに荷車を飛ばさせる可能性もある、故に念入りに車軸周りの点検確認を慶司は行った。荷物の固定も確認して、武器装備の点検を済ませて出発した。

 わざわざアルテとヘリオスまで外すのは用心のし過ぎとも思えるが、変更にみんな従った。

 荷車の運転をヘンドリックに任せ、アルテとヘリオスにはエルとエイミーが乗る。

 荷車から離す必要がなくなり常に最大の戦力を確保した。

 荷車の幌は蜘蛛の糸を織り込んだ特製に変えてある。自分達のシャツなどをつくったが大量に余ったのである。まだリヒトサマラにいけば2反ほどのこってる。

 裁断なかせのこの生地は通常の刃物を通さない。耐火性はないがそこは魔術展開で補える。


 これだけ準備をしたが、道中で山賊が現れることは無かった。

 いつもの様に食事を準備はしたが簡単なものに止めてウラヌスとホルスの疲れを取る事を優先し、距離を稼ぐ事にした、途中一度の休憩を入れると、夕方まで歩みを進めて野営を開始した。普段なら慶司が先行して料理をするのだが、エイミーとミランダに料理を任せた。

 慶司は食材を狩りに行くと同時に周囲の見廻りも兼ねて出かけた。

 左手の方にはブレーメまで続く森が街道沿いにある。

 次のエトの町まで森は続いているが右手は草原で、小さな山が少しある。

 エトの町を左に進めば山間をぬけてマギノ、右に進めばベネアである。

 急いで向かえば明日の夜にはエトに到着できるが…


 さてエトかミトどちらが情報を流してないのだろう。

 どちらの村も町も知らないにしてはおかしい。

 判らないな、慶司は獲物を抱えて戻ることにした。

 考え続けたが、帰り着くまでに答えに辿り着く事は出来なかった。



 ―山賊の洞窟―


「ちっ、やっぱりこっちは狭いな」

「まぁ仕様がないですぜ、ウィルソルカンポなんぞに襲われたら守りきれませんや」

「そりゃな、あんな化け物の大群なんて相手にできねえ」

「あっしも村を回ってた時分に一度見ましたがありゃ竜じゃなきゃ退治できやせん」

「暫くはミルトの町へいく行商がいなくなる、だからエトの町から出てきた奴を狙えるこっちの棲家に戻ってきたんだ。」

「あれだ、いつも通り10人ばかり決めてエトへ仕事にいってこい」

「行きたがる奴が少ないんですがね」

「バカヤロウ、これがあるから俺たちが暮らせるんだ、情報も仕事も一石二鳥いや、もう一つふくめりゃ一石三鳥ってことになるんだ、俺様の素晴らしい戦略に文句を言う奴はぶっ殺す」

「いえ、では行ってきやす」


 なにが、俺様のだ…どうせ吹き込まれた事をやってるだけの癖しやがって、

 暴れたら手に負えない強さなのは知ってるがバカの下でバカをやるのもつかれるぜ。

 子分は内心で独り言を重ねて毒づいた。



 その日の夕刻、いまだ戻らぬ手下たち、1人はそのまま偵察としてミトの村へと向かわせて、ウィルソルカンポの進路を調べさせている。だが残りの9人からの連絡がない。まったく何処まで襲いに行きやがったんだ。山賊の頭目はまさか全員が死んでるともしらず不満をもらした。

 彼が怪しんだのは手下が逃げたす事だ、しかし手下の女から家族まで調べ上げ、過去にも見せしめとして殺してきた事で恐怖は与えてある。裏切る奴はいない。そう信じて疑わない。

 自らへの過信故に判らないのである。




 慶司達の一行は2日後の昼にエトの町へ到着した。

 まず宿をとり、いつもならギルドへ向かう慶司なのだが、今回は街の様子を見て回るのみである。

 他の仲間には宿屋で待っているように伝え、買出しをエルとエイミーに任せ、本人は料理屋に居る。


「とりあえず、蒸留酒をくれ、銘柄はお勧めがあればそれでいい」

「じゃあ、蒸留酒ならこれだ、ブルトン産のアリー酒でもこいつだな3回の蒸留と樽はトリス産の物をつかったバルニーだ」

「ストレートで、炭酸はあるかな」

「チェイサーか、炭酸ってのはレモーネの味のやつがあるがそれでいいのか」

「鉱石とあわせたやつかい」

「ああ、じゃあそれを」


 そうか、こっちにも炭酸はあるんだと慶司は喜んだ、

 どうせ酔わない味と匂いを楽しむだけなら炭酸飲料のほうが嬉しいのだ。


「最近ここらで野盗や強盗の騒ぎなんかあったりするかい」

「いや、そういう話はでないな」

「意外だな、これだけ大きな町にもなれば盗賊の一団ぐらいは目をつけそうだが」

「そこはあれだ、竜族様のおかげとこの町を取り仕切ってるのが冒険者ギルド長だからな」

「なんだ、この街は商人ギルドや薬剤ギルドの力が弱いのか」

「いや、冒険者ギルドの力が強いっていったほうがいいな、この町は西にマギノ、南にベネア、東にミルトってな感じで交通の要所になってる。だから商人も中継としては利用してるがな。なによりも力を持つのは護衛を管理するギルド長って訳だ。」

「だけどギルド長が護衛を雇うわけじゃないだろ」

「ここのギルド長はやり手でな、商隊に必要な護衛を近隣から上手く集めて手なずけているのさ。足りないとか、期日切れなんて案件がないとくる。それに自ら商売も始めてこの町では一番の金持ちさ」

「そこまでやり手の人が長だと盗賊も寄り付かないか」

「そうだな、まぁ警邏も多く冒険者からやとったりと少し税は高いし横暴なところもあるけどな。こりゃ内緒だぜ」

「内緒の話が多そうな長だな」

「ああ、まあ人の売り買いまでしてるんじゃないか、そう噂されるぐらいの勢いで金持ちになったからな、商人ギルドも参加を認めた店の影のオーナー様だ」

「世の中には面白いぐらいに成功する人間もいるもんだな」

「ああ、何でかしらんがそんな奴の下で働きたがる奴は多いんだ」

「自由気ままとはいかんもんだな」

「違いない」

「ありがとう、お勧め美味しかったよ」

「ああ、また来てくれ」



 ―エトの町・邸宅―

「それで、ミトからウィルソルカンポの続報は、せっかく大きくなったこの町を潰されてたまるか」

「早馬が到着しまして、ウィルソルカンポは討伐されたそうです」

「そうか、竜族が退治したのだな、高い税を払ってるんだそれぐらいはしてもらわんんと割りにあわんな」

「いえ、それが竜ではなく冒険者だったらしいのですが情報には含まれて居ません」

「なんだ、赤竜の牙か白竜騎士団でもきてたのか」

「違うようですが、詳細は不明と」

「使えん奴だな、まあいい、ウィルソルカンポが退治されたならまた交易を再開できる、草原に向かう便の手配を奴等にさせろ、今回は15人手に入ったんだ、いつまでも食わせてるだけだと金がかかるだけだ」

「連絡はいつものでよろしいですか」

「ああ、いつものでやっておけ」


 フッフッフ笑いがとまらんな、一時はどうなるかと焦っていたが魔獣の問題さえなければ草原から小国へと売りさばけば、証拠も残らんしな。

 今は只のギルド長だが、もう少し金があれば、本部長も夢じゃない。本部長は今空位だ、そうすればミダワをここのギルド長にし、さらにギルド代表まで狙う事もできるだろう。

 アヴァリスは欲望を膨らませた瞳で夢想を続けた。



「それで、この町で怪しいとしたら冒険者ギルド長だというのじゃな」

「そう、いろんなお店で聞いたけど、まず一番の権力者であること、それ自体は問題とまでは言えないけどこの近辺で騒ぎの発生が0というのがおかしい、実際被害にあったのにそれを全て消し去るなんて出来ないよ、できるとすれば…」

「警邏の実権と護衛を含む冒険者を束ねるギルド長となると」

「商売にも手をだしてて成功してるって話だから調べたけど、商っているのは魔術品と貴金属があるぐらいで成功するにしては悪いけど無理な商品に手を出してる」

「これは、調べんといかんのぉ」

「シャーリィ達には説明して見るしかないかな」

「うむ、一日では流石に無理じゃしの、後顧の憂いを立たねば安心できぬ」


 二人は全員を集めて説明する事にした。

 まず、冒険者ギルド長の疑惑と現状、現状で怪しいと考えられる原因。情報封鎖の可能性。

 放置する事で山賊の追撃の可能性があると説明し、2日程の滞在を願った。


「私は是非そのギルド長のアヴァリスなる人物を懲らしめるべきだとおもいますわ」

「お嬢様に同じく、ここは見ぬ振りをすべきではありません」

「うむ、騎士足る者悪しきをくじかねばなりません」

「では、明日一日を使って町の噂を集めましょう」

「「「「はい」」」」


 慶司がギルド長の屋敷の内偵を、エルとエイミーはギルドの依頼や様子を見に行く。

 シャーリィとミランダ、ヘンドリックは町へとでかけ最近の変わった出来事などがないか、など聞き込むことにした。


 翌日、ギルドの受付には顔をださず依頼内容を見て回る。

 季節はずれの特殊依頼として採取金ランクが一つでているだけで変わらない。

 もう少しで採取金ランクの資格がもてるエイミーとしては興味がある。

 じぃっと見てると依頼が剥がされた。

 凄いにゃ、と思ったが、剥がした冒険者を見ても金を持ってるようには見えない…

 こんな事を言えばなんだが採取の金を完遂するには他の狩猟か討伐の銀の高位でないとありえない。

 エイミーはエルを捕まえてギルドを出ることにした。


「さっき変な依頼を持ってった奴がいたにゃ」

「ふむ」

「ちょっと調べたいから後をつけにゃがら話すにゃ」

「よかろう、距離をとって尾行するとしよう」

「そもそもこの時期にヒトニギンの実の採取は受けるほうも出すほうもおかしいにゃよ」

「それよりその依頼は金のランクであろう」

「そうだったにゃ」

「金の依頼を受けるということは、金の冒険者がいないと通常のギルドでは考えられんぞ、ギルドの信頼が落ちるゆえな…ふむ、エイミーよ、お主は薬剤ギルドへ行きヒトニギンの買取を今してるのか調べてみてくれぬか、そうすればバカらしいというか欲しがるか反応で判る事もあろう、まさか薬剤ギルドまで一味だとは思わぬが、用心するに越した事はないからな」

「わかったにゃ、それなら今まずあるかどうか聞くにゃ、普通の薬剤ギルドであれは取り扱わないにゃ、無い場合に手に入るか聞けばいいにゃ」

「うむそれでよかろう、我は奴の後を魔法を使って追跡する、エイミーはこれを持っていけ」

「わかったにゃ」


 エイミーが走って行く

 エルは追跡を続けながらシルフィを呼ぶ

(シルフィ少し力を借りたい)

(構いませんが貴方の今の魔力では厳しいのでは)

(シルフィよ主様の下で魔力を分けてもらって一体を送り込んで欲しいのじゃ)

(フフフ、変わりましたねエルウィンでは少々お待ちを)

「まったく一言余計じゃわ」


 エルは独り言を呟きながらも歩く男を付けていく。



 その慶司は…

 魔法を駆使して上空から屋敷の屋根に侵入し、忍者のような真似をすることになっていた。

(慶司さん、いまからエルウィンの頼みですこし魔力を頂きたいのですが)

(わかった、何か掴んだんだねエルの手助けを頼む)

(畏まりました)

 ふわっと風になったシルフィが立ち去る。


 魔法でも流石に透視は不可能だ身体能力を上げる【竜撃八識無我りゅうげきはっしきむが】を使い潜入して屋敷内の会話や音を拾っていく。

 流石に内部では幻影の魔法を使用してもばれる。

 屋根裏を移動してこいつがアヴァリスかという会話を聞きつけた。


「こんどの便で得た金は全部、金か白金で持ち帰ってこい。ナーベに手配させればよい、水と食料を40日分手配できるようにするんだ、女と子供ばかりだ運び出す手はずを整えておけ、町を出るときに騒がれでもしたらいくら警邏を抑えてるといえ面倒になる猿轡と足と手は縛っておくんだ」


 人身売買か…さらには金や白金を手にいれて密輸もしてるのか。

 警邏は一応まだ大丈夫ではあると…

(よし、とりあえずシルフィ、すまないもう一体緊急でアルザスまで飛んでくれ、執事神パーフェクトバトラーの出番だ後処理を頼まないといけない)

(判りました、伝言のみなら届けれます)

(そうだな、エトの町で不正あり、ギルド代表へ不正摘発の用意をするように手配、それと金、白金の不正輸入あり、至急手配の上こられたしで)

(わかりました、では)

 今出て行った男をつけていこうと慶司も尾行をするために屋敷を出る。

 男はギルドの裏口から入ると職員らしき男と出てきて歩き出した。

 二人は数軒の店で食料を買い水の樽を買っては倉庫まで運ばせた。運ばせた先は同じところのようである。種に魔力を込めて運びだす荷物に投げ込んでウェンディに確認したので間違いない。

 町のはずれにある大きな倉庫で受け渡されたようだ。

 そしてこの男たちもそちらに向かっている。



 途中でエイミーとエルに持たせた種を経由してウェンディが連絡をしてくれた。

(エイミーさんが薬剤ギルドは無関係、冒険者ギルドの金ランクの依頼書が怪しいていってました)

(ありがとうウェンディ、エイミーに伝えてくれるかな一旦宿に帰還して待ってて欲しい)

(わかりました、伝わるかやってみますわ…

 大丈夫でした、彼女は魔力量はすくないですが草の声を聞く才能がありますね、是非お友達になりたいです)

(喜ぶと思うよ)



「ナーベさんもはやく職員代表になれるといいですね」

「ミダワさんなんてそのうちギルド長だぜ、もっと美味しい汁を吸わせろってんだ」

「まあ、ミダワさんももと冒険者でゼゲンとは古い仲間だっていうじゃないですか」

「まあな、あいつは暴れたら達が悪いから、ミダワさんが抑えてるってことになってるしな」

「俺なんて屋敷の下っ端扱いですぜ、執事なんて職にはなってますがやってるのは使いっ走りですよ」

「その分屋敷で金を誤魔化せてんだろうがよ」

「へへへ」

「まったく、あのアヴァリスさんが気が付いてないはずねえだろうが、気をつけろよ」

「へぇ」

「よし、それじゃ、あいつ等が来る前に全員馬車に詰め込んでいかなきゃな、くそ、せっかくの女なのに売りものだから手を出すなってな、ひでえはなしだぜ」

「ばれて殺された馬鹿もいましたね」

「あぁ、そういうことに容赦しねえ人だからな」



 さて、どうするかである、この男たち二人を倒して少女達を直ぐに助けるのは可能である。だが助けた後が問題で警邏を完全に信用してないだけに…

(慶司さん、エルさんからの伝言です「盗賊の隠れ家は発見した、5人ほどが町へと向かったがどうする殲滅するか」だそうです)

(一時帰還、ブリガンを召還中打ち合わせしてくれと伝えてくれ)

(了解しました、ウェンディにその場はそのまま見晴らせますので)

(見れる木か草がありそうなのなら頼む)


 さて、それならここから片付けるか、慶司は音もなく降り立ち歩み始めた。

 問題はどう始末をするかだ、気を失わせるなどというのは実際厳しい話である。

 首筋なんて叩いたら骨が折れて結局死ぬ、一か八かの方法である。頚動脈を押さえて絞める、

 これが一番意識を奪うには確実である。

 一人が荷車、一人が外と荷物の運び込みをしているところへ近づいていく。

 まず中で荷物を積んでいる男の背後から首を絞め頚動脈を押さえて落す。

 ガタっという音に気が付いた外の男は、馬車の内から突然とびだしてきた慶司に驚き抵抗しようとした、殴りかかって鳩尾への肘打ちをもらって悶絶し、縄で括られて猿轡の上に樽へ放り込まれた。

 失神した男も同様に処理して荷車に積み込み食料と水をもって隣の部屋へと向かった。


「とりあえず、説明をさせて貰えますか」

「私たちを売るんですか」

「おうちにかえりたいの」

「おかあさん」

「はーい、まずこちらに食べ物を用意しましたがお腹は減ってませんか」

「お腹すいてる」

「ぺこぺこなの」

「売る前にご飯を食べさせるんですか」

「じゃあ、ご飯を食べならがら話を聞いて下さい」


 子供や女性といっても若い子ばかりである。

 村でさらわれた子や山賊に襲われて家族全員が死亡した子もいた。


「いま直ぐに連れ出すと危険なのはわかってくれたかい」

「はい、理解はできました」

「まだおうちにはもどれないの」

「おとーさん」

「おにいちゃんはここにいるの」

「うん、悪いのがくるから懲らしめる、だからお姉さんのいうことを聞いてここで待った居られるかな」

「うん」

「それじゃあ君が一番年長でしっかりしてる、悪いが、この子達が外にでないように頼むね」

「ええ、わかったわ」


 一番最初に怪しんでいたしっかりした女の子に世話を任せ、慶司は外で山賊達が来るのを待ち構えた。

 山賊だから手加減の必要もないのだが、子供達を怖がらせることになる。


「なんだ、まだ積み込みおわってねえじゃねえか、ナーベの野郎仕事ぐらいきっちりしろってんだ」

「あいつは調子がいいだけで腕っ節も弱いからギルドの受付に回された馬鹿ですぜ」

「全くだ、そのくせに偉そうにこれがお前の仕事だとかいって依頼書を回しやがる」

「お頭の前だと喋れなくなる癖な」

「ハハハ、ちげえねぇ」

「とりあえず全部運び込んじまえ」

「しょうがねえな」

「あん、この樽中になんかはいってるぞ」

「おうこっちもだ」

「奥に押し込んじまえ」

「そこまででいいよ、降ろすのも大変だしね」

「何だおめえ、新入りか」

「そんな話は聞いてねえぞ」

「できれば抵抗はして欲しくないけど、無理っぽいね」

「おい、此奴、態度がおかしいぞ」

「いやぁ困ったな」

 無手で近づかれるとどうしたものかと考えてしまったのだろう

 一人目の山賊にやすやすと慶司は近づき、間合いから鳩尾へと蹴りを叩き込んだ。

 正直、力加減を間違えたら御免なさいである。

 やっと一人倒されて事態を把握した山賊たちは武器を構えた。

 右にいる二人目には樽を蹴ってぶつける。

 左から切り掛かってきた三人目は、箱の蓋を顔面に叩きつける。

 残りは正面二人である、同時に切りかかってくるのを箱を盾にして躱す。

 一人は箱を蹴り滑らせて吹っ飛ばして、最後の一人は傍にあったロープの束で殴りつけて昏倒させた。

 全員をロープで括って馬車に積めて外側から鍵も掛けた。

 自分達が女の子達を売るために用意した丈夫な護送車だ、縄を抜けられても逃げれない。



(シルフィどうだい、そろそろブリガンさんには伝わったかな)

(はい、今伝え終わったところでブリガンさんはマギノへ向かいました)

(じゃあもう少しでコッチにくるかな)

(あとはエルとエイミーにここの子供達を保護するように伝えてくれるかな。町でタオルとジュースを買って来るようにとも伝えて欲しい)

 さて、エル達がくるまで離れるわけにもいかないしな…

 慶司はエルの到着と共に急いで山賊の隠れ家へと飛んだ。



「急ぐぞ、この件にはエルウィン様が関わっておられる、シュタイン、頭を抱えてる場合ではないぞ」

「どうして俺が代表の時に限って…うぉぉぉ」

「しっかりせぬか…ええい馬車に放り込んでくれる、あと臨時のギルド長はこのレディに頼むのじゃな」

「宜しくお願いいたします」

「おお、たしかミシェルさんだったかな、部下の方々には初にお目にかかるがブリガンと申す」

「「よろしくお願いします」」

「では馬車にのって待機しておいてくれ、竜体にもどって運びますからな」


 大急ぎでブリガンは用意を整えエトの町へ飛んだ。馬車を運んだとしても彼の速さならば然程時間は掛からない。



「なんだと、ウィルソルカンポを退治した冒険者がいてこっちに向かってただと…」

「一応の話ですがね、流石に情報を届けないと襲う相手にゃ悪すぎる、そう思って急いで帰ってきたんでさ」


 バキッ 破裂音と共に隠れ家の洞窟の方の扉が開かれる。


「そりゃ一足おそかったよ」

「誰だお前は」

「その情報の冒険者だ、お仲間にも挨拶はしたがな」


 こいつは何を言ってる、まさか9人が帰ってこないのは此奴の一行を襲ったのか。

 くそが、確かに得たいの知れない奴だが、こっちは冒険者が20人から居るんだ、魔法を使える奴もいる。ちょうど奴の後ろに回りこんでる、よしっやれ、アモンは目で合図した。


「当たってもたいしたことの無さそうな魔法だけど、汚れるのも嫌なんでね」


 こいつは今何をした、たしかに火炎の魔法を後ろの奴が投げつけたのに、

 消えただと、そんな馬鹿な火の魔法は当たるまで燃え続けるんだ。


「火炎の魔法か…【焔】せめてこれぐらいじゃないと獣相手にも使えないでしょ、はいお返し」

「うがうぁあああ」


 なんだ、こいつは何なんだ、あんな大きな火の魔法を平然と放ちやがった。

 こいつは赤竜の牙か白竜騎士団の人間か…化け物め、だが所詮は人間だ。

 これが間違いであるなどと思わない、アモンは部下に命じた。


「全員で一斉に突き刺せ逃げれないようにな」


 それぐらいの行動は読んでいる、というか入ってきてから、何もしてないと思ってるのかと。

「【操糸風刃そうしふうじん】」

 一瞬で取り囲んでる6人とその後ろでさらに2人が倒れる、全員が首に傷をおっているのである。


 こいつには敵わない…逃げるしかない、部下を犠牲にしてでも逃げる。

 そうアモンは決めた。

 だがそれよりも慶司の行動は早かった、残った部下の下へと一気に切り掛かって行く。

 首を、心臓を、切り裂かれ、突き刺されて絶命していく部下達、このとき初めてガレルにであい逃げ出した恐怖と同じ物を、アモンは感じた。


 クソがっぁ


 アモンは絶叫をあげながら幅の広いグレートソードを振りかぶり突っ込んでいく。

 斬った!


 そう思った瞬間、アモンの腕は肘から下が地面に落ちた。


「た…助けてくれ」

「他人の生血を啜って生きてきた悪党の科白がそれか」

「死にたくないんだ」

「苦しめられ奴隷として今も生きてる者が許すと思うか、お前の罪は死んでも償いきれないさ」

「じゃあてめえのしてる事はなんなんだ」

「俺か、おれのはただの自己満足だ、だが売られそうになってた子の中には親を殺された子がいた。

 お前は死んで詫びればいい、仲間も全員まってるさ」


 アモンは断末魔の叫びをあげ、無くなった腕ではなく体ごと慶司へと突進する。

 盗賊としての最後の矜持がそうさせたのかもしれない。

 慶司は首を落し刃についた血を拭った。






「おい、ミダワ、ナーベの奴はどこで油を売ってるんだ」

「あいつは調子がいいですからね、きっとどっかの女の尻でも追いかけてますよ」

「まったく、どいつも此奴も」

「そうだミダワ次のギルド長は、間違いなくお前なんだから、馬鹿の世話を頼むぞ」

「ええ、判ってますとも、アモンには使いようによっては動かしやすい駒ですよ」

「今度の商売を成功させたら、いよいよギルド本部長だ。そうすればこの町を都市にして牛耳ることもできるようになる」

「なかなか夢をみているようだな」

「そのようで御座いますなお嬢様」

「申し訳御座いません」

 庭から声がする、警備の奴等はどうした。

「おい、なんだお前等、人様の家に勝手に上がりこんでただではすまんぞ」

「警邏に引き渡してやるから大人しくしやがれ」

「面白い事をいうの、これが慶司のいう様式美の流れかの」

「恐らくはそのようなものかと…」

「人の話を無視して喋るんじゃない、おい、誰か居ないか」

「おい、いい加減にせんかアヴァリス」

「誰…だ、代表、なんで代表がここにいらっしゃる」

「此方の方はアルザスの統治者エルウィン様と従者のブリガン様だ、お前たちの悪事は全て抑えた」

「なっ、何のことだ」

「主様、倉庫で捕まえた奴らをここへ」

 ゲシッと蹴られて出てくるのはナーベ達である。

「山賊は既にここに居る者以外は抵抗したゆえに全員既に処刑ずみじゃ、まだ言い逃れるかの」


 その瞬間アヴァリスは崩れた。


「これにて一件落着じゃの」

「まだやる事は沢山あるよ」

「そこはほれブリガンとシュタインに任せるのじゃ」


 恐縮しているシュタインさんが少し可哀想である。


「後任の臨時ギルド長にはミシェルが就くそうだぞ」

「ああ、それなら安心だね」

「ええ、お任せ下さい、部下を連れてまいりました」


 ニコニコと笑顔でミシェルさんが現れた。


「お久ぶりです」

「こちらこそ、そして討伐金10おめでとう御座います。今回の件で護衛も金10で如何ですか」

「勘弁してください、護衛は基本的に受けませんよ」

「あら、私の情報では現在護衛中となってますが」

「それでもです、きちんとした評価をもってランクは決定してください」

「おかしいですわ、きちんとした査定の結果金10なのですけど」

「ミシェルさんは、俺が外を完全に出歩けないようにでもするつもりですか」

「ウフフ、そんなことはありませんよ、単純に事実を述べたまでです」

「まぁおいおい上がるクラスじゃ、のんびり待つが良いわ、それよりシュタイン、ミシェル我は護衛の任があるのでな、後のことは良く調べて対処するように頼んだぞ、保護した娘たちで帰るところのない娘はアルザスへ向かわせよ、よいな」

「はい、誠心誠意頑張らせていただきますわ」

「大変情けなきところ寛大な御配慮有難う御座います」

「なに冒険者ギルドは国にとっても重要じゃ、シュタインならば組織改善に尽力してくれているであろうと思っている、頼んだぞ。それと、ブリガン、先程も申したが娘たちを保護せよ、アルザスに止めるのが難しければ何か別の手を考え、そして報告せよ、それまでは必ずアルザスで預かるように、資金はこのギルド長から押収したものをまわせ、小国には売られた物のリストを提出、返還がなければ覚悟せよと申し付けよ。丁度よい脅しになる案件があったな、貴様等12世のようにはなりたくあるまいと仄めかしてよいぞ」

「ハハッァ」

「それでは主様、宿へと戻ろうぞ」

「ちょっとエル最後の俺がやったことになるじゃないか」

「嫌かの、主様」

「いや、悪くない、そちも悪よのう」

「フフ、主様程ではありませぬ」



 ブリガン達3人は腕を組んで歩いていく二人を見送った。

 この二人の行くところには常に何かが起こる。だがそんな物は二人にとっては些事にすぎないのか、そう思わせる程の仲睦まじさである。

 腕を組み宿へと向かう二人をみていると、不思議と笑顔になるのであった。


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