自分からか向こうからかそれは問題ではない。
日本の江戸時代には街道は整備されていて一里塚の配置や宿場町の設置が行われている。
最長でも4里程で設置されていて500km程の旅で14日で歩いたと言われている。
野営をしながら移動をしているファーレン世界はこれよりすこし辛い距離にあると言える。
いや、そうせざるを得ないと言った方が正しいか。
先ず村を形成していくのだが魔獣、獣の被害が予想される。
そうなると防衛に必要なだけの人数で固まるしかない。
そして、街道が必ずしも農耕に適した最適の場所にあるとは限らない。
だが少ない宿場ではあるだけに機能は充実している。
各種のギルドは出張所をつくり、宿屋があって警邏もいる。
周辺の小さな集落では出来ない情報の交換が可能である。
応護衛任務中ではあるがギルドへの報告は必要である。
3日目に最初の村に到着した慶司は早速報告へと訪れた。
「こんにちは、通過報告です」
「はい、ご苦労様です、はいチーム白銀の翼、現在護衛任務中ですね、
確認しました、明日には出られますか」
「はい、その予定です、この先で問題の発生はありますか」
「了解しました、いえ、討伐依頼の案件は出ていませんね。
では変更があった場合はご連絡を。良い旅を」
「ありがとう」
次の街に向かう情報を集めて宿へと帰る、
道中で肉屋と雑貨屋、食料品店とよって保存食の買い足しをする。
ブレーメの肉を買うついでに骨も貰い、煮干なども買って、
スープの素を増やしておく予定だ、これは案外使えたし。
宿の裏手で調理をして明日のご飯にはデザートでも出そうなどと考えている。
そして、また厄介事が発生しているのであるが今の慶司は知らない。
宿に戻り裏手でエルとエイミーにも手伝ってもらいながらスープを作りまくる慶司。
簡易で作った熱風乾燥粉砕壷一号を操るエル。
材料の追加から出来上がった物を袋にしまっていくエイミー。
慶司は食の確保と喜んでもらえる食事の為に。
エルとエイミーは後で作るデザートの試食のために。
と理由は様々だが頑張っていた。
さて、お次は明日食べるためのデザートだ…というところで
ギルドからの報告があった。
この村の北4テル(12km)程のところの村が壊滅して逃げ出してきたという。
ちょっと厄介なのが相手が昆虫系であり、
まさに数押のタイプのようなものである。
情報を確認しに向かうこととなった。
この場所がエルの支配地の近くでもあり、
さらに翠竜の近くでもあるのが影響したのか、
原因は調べてみないと解らない。
ギルドで詳細を聞くまでエルの機嫌が最悪だったのはしょうがない。
先日の雨で山の一部が陥没し、どうやらそこが巣穴だったのかそれともそれに伴う土砂崩れが原因なのかは解らないが、突如として遅いかかってきたことから巣穴拡大ではなく攻撃を受けたと勘違いした本能的な行動で、さすがに地面の中をメインとするカンポを見張りきれない。しかも普段は大人しいのだから。
そしてよりにもよって、ウィルソルカンポという大型種の魔素変化した個体達で体調が3ネル以上、4ネル以下というこれが一面にいる、一匹ならいいのだ、強いキバに針を持つが普通に殺せる。
が村を襲うということは巣から全部のウィルソルカンポに他のソルカンポまで出てきてると見ていい。
走れば逃げ切れるので村人は全員避難してきている。
慶司はギルド長と話すことにした、
「おそらく此方にくるんですね」
「うむ、村人の話だと地面を埋め尽くす規模でせまってきたそうだ、しかも明らかに人を狙っている」
「では、一応の避難準備の指示を出して置いて下さい、自分とエルで今回の件は引き受けますので、依頼をお願いします、ただ魔法で焼き尽くしたり、魔術で焼却するので討伐証がとれませんがいいですか」
「これを、対処するというのか」
「はい、一応、これでご納得頂けますか」
「わ、わかった、これを見たら信じるしかあるまい
応援はいるかね」
「いえ、危ないのでそれこそ避難準備をお願いします」
「わかった、宜しく頼む」
ギルドを出たところで宿へ向かって一応報告をする。
今の雇い主はシャーリィ達だ。
「倒せるのですか…」
「まあ君が行くなら信じて待とう」
「気をつけて」
あとはエイミーに避難準備のどさくさ紛れで犯行に及ばれないように荷車を頼んだ。
時間もないので急いで現地へ向かう。
シルフィをよんだらウェンディがすまなさそうに言っていたとのこと。
さすがに土砂で崩れた魔素のすくない地域では監視のしようもないだろうと慰めた。
シルフィには発動した魔法に風での補助をお願いするねと頼み、
ウィルソルカンポの大群は地面を被い尽くして移動している。
確かにこれは、厳しい。黒い波だ。
再度ウェンディに周囲で慶司達を認識できる範囲に人が居ないかを確認して
自分でも確認した慶司は次の行動へと移る。
【逆鱗】は周辺の地形を崩すし爆発させてしまう、
しかも爆風で仕留めれないウィルソルカンポも出てくる。
まず慶司を敵だと認識させ、反対方向に集約して処理する必要がある、
普通に【焔】を発動し直線上へと投射する。
群れの動きが一瞬とまり、さらにその後全ての動きが集中する。
慶司は【飛翔】で反対側にまわりこんだ
【竜鳴ノ一極焔】
さすがに口から発射ではない、刀身に魔力を乗せて竜族魔法として発動する
鞘に手を掛けつつ準備、抜き払うと同時に発動する咆哮と同等の魔法である。
抜き放たれた太刀から放たれた魔力は最大限の火焔と風の勢いをもって燃え上がり
灼熱の炎として前面180度に展開する。
さらにそれをシルフィが風でコントロールし燃やし
できるだけ地面に破壊を与えず消し炭にしていく。
炭となったウィルソルカンポの大群は何が起こったのかも理解しないまま消滅した。
流石にシルフィにコントロールしてもらっても一部の地面がガラス化しており
熱の酷さを物語っている。
そしてさすがに魔力を使った量が多く、生成しているものの気疲れというものがある。
「うむ、我の吐息と比べても全く遜色がないな、我ならさらに3回位は往復させておるぞ」
とエルは言いながら漏れたウィルソルカンポを仕留めてくれていた。
そのまま慶司とエルは処理を進めながら巣穴に突入し、
内部で卵を産んでいるであろう女王まで到達、
【風牙】で頭を切り落とし、周辺の卵を破壊しつくす。
一応村を安心させるために牙を持ち帰る事にした。
最後に巣穴の爆破を行った。
一応アルザスへは、飛翔魔術を皮に毛を付与して作った手紙を使って連絡、
エルは周辺の調査を命じていた。
飛ぶ速度もさすがに遅いから2日はかかるだろうが髪を抜かれた分だけ便利である。
そうそう利用されては困るのである。
村に行き殲滅完了の報告をしたら大騒ぎになった、一応、大部分は倒したし
ウェンディやシルフィにも確認はしてもらってるが暫く警戒だけはして欲しいと伝え
牙を提出して宿へと戻った、エイミーは裏で作業を続けてくれていて、
ただいまというと摘み食いでもしていたのか頬にカラメルがついていた、
指でしめすと慌てて拭った。
「ちょ、ちょっとだけにゃ」
「美味しくできたの」
「ばっちりにゃ」
「それじゃあ明日が待ちきれんのぉ」
「もうちょっと別のを仕込むから今日はそれを皆で夕食後にでも食べよう」
「ほんとかにゃ」
「まあ、一仕事終えたし甘いものは嬉しいの」
「ただいまかえりました」
「「「おかえりなさい」」」
「ほら、お嬢様いった通り平然と帰ってこられたでしょ」
「ええ、ほんとね、心配するまでもないって言われても信じられないけど…
この感じだと本当に心配するのがばからしくなりましたわ」
ウフフと笑ってる、何を吹き込んだのか…
「こんなことならもっとウラヌスとモフモッフしてれば」
「ウラヌスと遊んでたんですか」
「ええ、あの子達はほんと賢いですわ」
「帰国したら飼うそうですよ」
「ウラヌス達ほどのをさがすなら、ミランダさんあたりに睨んでもらえば解りますよ」
「それはどうしてですか、彼らは視線や気配に敏感です、強い人間に睨まれれば怯みますし、見返してくるならそれなりの根性や野生があります、その野生と友達になるのであれば睨み返す子を、従順な子を選ぶならその逆です、あとは本当に生まれて1年ぐらいの子を選ぶのはいいかもしれませんね、兄弟や姉妹のように育ちますよ」
「絶対飼うわ」
「それまでにウラヌスたちで慣れておくといいですよ、あいつらも一緒に居てくれる人がいると喜びます」
「じゃあもう一回モフモフしてくる」
ウラヌス達がうぉっと思ったかどうかは定かではない…
「宿の夕食を取った後、エイミーの作ったデザートがありますから食べましょう」
「私というか慶司のにゃ」
「いや、エイミーの腕もなかなかのものぞ」
「うん、レシピは俺だけど作ったのはエイミーです」
「なんだか解らないけど、慶司さんたちが退治に出かけてる間にお作りになられていたものですか」
「きっとあの甘い匂いのお菓子ね」
「ええ、その甘い匂いの秘密です」
「この蕩ける口当たりは…」
「これがデザート」
「若者になった気分ですな」
3人も大喜びである、作ったエイミーもエルも満足している
これは明日驚かすのが楽しみになってきた、
深夜のベット、旅行中はどうしてもくっつけない二人の時間である。
「のう、主様、面白い縁じゃな」
「シャーリィ達のことかい」
「うむ、なんとも不思議ではないか」
「人の縁っていうのは不思議なものだよね、世間は狭いよ
執事神の主人もここに居るし」
「こら、そんなとこを…」
「まぁ爺やの事は抜きにしてもシャーリィの事は助けてやりたい」
「そうだね、他の国は知らないけどシャーリィが女王になるなら俺も手伝うさ」
「炎竜の地ではどうする」
「そうだなぁシャーリィ達次第だけど、一応最初の予定通り学校の件なんかは片付けたいかな」
「うむ」
「それで、早めに追いつくしかないか、2週間近く足止めする可能性もあるし」
「そこはしょうがないかの」
「うん、その辺りは妥協していくよ」
「ふふふ、ホレホレ…」
「ハハハ、仕返しだ」
一方その頃…
場所は変わって大森林地帯の村。
「姉さんただいま」
「ようルージュじゃないかい」
「聞いたぞ姉さん、白銀の翼と一緒に闘ったんだって」
「討伐についていっただけさ、私はなんにもしてないよ」
「どんな戦いだった」
「そうだねぇ、一撃でウィルドを瞬殺かな」
「はぁ? ウィルドを瞬殺だぁ」
「ああ、そうとしか言いようがないね、それしか一緒には闘ってないから。
まぁその後の噂ならウィルハチュラの群れを一人で殲滅しただのと聞いたが」
「アンジェリカ姉さんのとこまできて正解だったようだ…クックック」
「あんたまさかとは思うけど相手が悪いよ」
「何を言ってるのさ、それだけ強い男なら、アタシの旦那にしてやってもいいさ、
フフ、フフフ、特攻隊長なんて任されて有名になって………
有名になったはいいが男が完全によりつかなくなっちゃったからね。
銀9のアタシだったら文句は言わせないさ」
「そのお前の探してる相手はいま討伐金10だよ」
「はぁあ?」
「お前さ、昔から言ってるだろ、情報を確かめなって、そんなんだから突っ込み専門の突撃隊長なんぞ任せれるんだよ」
「姉さんが途中で村に帰ったからだろうがぁ」
「あたしはのんびり過ごせりゃそれでいいのさ」
「くうぅ、そのせいで私の負担が大きくなったってのに、今の副団長なんてカレルだぜ」
「へぇあの坊やがね」
「今頃、副団長になってただろう賢才の姉貴が、どうしてこんなとこにいるんだ」
「なにも赤竜なんかで飛び回るのだけが冒険者じゃないさ、まぁいい男は捕まえ損ねたけどね」
「誰だよそのいい男って」
「アンタの探し人」
「なんだよ姉さん相手にされなかったのか、ああ、もう極上のが横に引っ付いてたよ」
「だが、私の方が上のはず!」
「その猪突猛進なとこも直せといったのに」
「いいんだよ、それで今そいつら何処にいるんだよ、リヒトサマラを出たのは解ったんだ」
「だから調べてから行動しなって…」
「わ、解った…」
「ふう、どうしてここまで突っ走れるのかわからんけど、2,3日すれば旅の先の情報ってのは入ってくるはずだ、どっち方面でなにしてるかぐらいはあのチームなら追えるだろ」
「そうだ、あの3人なのにチームってのも気に食わないんだ、うちらなんて団で登録なのに」
「あれこそ少数精鋭だよ、最低限の人数で受けれる仕事だけしてる、しかも連れてるピレードが普通じゃない、あれも一匹の冒険者達だからね、実際は6人で行動してるようなもんだ」
「3人のチームでピレードを3頭も飼ってるのか」
「そこらへんからして調べなってんだよまったく」
「はあぃ」
どうしてこう素直なのに変な事を考えるんだか…
アンジェリカは妹が心配になってきたと同時に慶司に迷惑がかかるかと思い
大した迷惑にもならんなこいつじゃとも思った。
賢才アンジェリカ、赤竜の牙の行動方針を全て一人で決定、作戦立案からなにから
こなした天才と言われた冒険者だった。
彼女の二つ名を聞けば襲撃者も諦めたと言われる。
その妹が慶司達を、いや慶司を探して走り回ってると噂の特攻隊長だったのだ、
今までは特攻宜しく考えないで走り回るだけで慶司達へ近づけなかったルージュ。
馬鹿だけど愛すべき馬鹿妹の為に情報を集める姉のお蔭で、彼女は慶司達に近づいていく事になる。
また一つ鴨葱特攻事になる慶司、
彼の旅路は波乱に満ち溢れている。