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種がもたらした災い 後編

 馬鹿が、こちらが裏で手を回しているとも知らずに何が森人の掟だ。

 そんな事を気にして商売ができるか。


 商売を自分勝手な解釈で論じる。

 儲けた者が偉い、この男は本気でそう信じているのだ。

 先程、態々《わざわざ》尋ねてきて断りを入れてきた。

 今頃はもう種が手に入ってる頃なのにだ。

 宿の一室、高級な庭付きの部屋で酒を飲みながら商人は笑った。





「ふむ、主様よ、そちも悪よのう」

「エルその使い方は間違えてる」

「ヌゥ」

「そうにゃ、そこは『話の判る奴じゃのう』にゃ」

「エイミーも内容は合ってるけど使い方が間違い」

「ニャニャ」

「「「……」」」

「お手柄じゃな主様よ」

「そうにゃ、悪人は懲らしめるにゃ」

「うん、まあ背後を洗わないと、殺しちゃ調べられないでしょ」

「ふむ、では行くか」

「じゃあエイミーはムーサさんに連絡をお願いするね」

「わかったにゃ急いでいって待機するにゃ」





 まあ、慶司が思いつくのはこの程度の悪戯である。


 人を殺した事についても反省という思いは無い。

 殺そうと来る相手は死ぬ覚悟が有って然るべきである。。


 以前の世界でも喧嘩を仕掛けてきた相手は必ず叩きのめした。

 言葉の暴力を振るう相手もいた。

 その手の相手は手を出させて叩きのめす。

 最後まで手を出さない奴もそれを見れば逃げ出す。

 自分が安全だと思うから人を傷つけるのだろう。

 そして言葉なら問題無いとまで思うのだ。

 だが自分が安全地帯にいないと気がついたら…

 隠れて逃げるだけである。


 だから慶司は手加減などしない。

 戦いは覚悟のある人間がやる事だ。

 極論をいえば暴力を振るうとは相手を殺そうとする事。

 即ち、殺すか殺されるかである。


 この世界に来て適応出来るのもこの世界は弱肉強食であるからだ。

 とはいえ、必要の無い事に暴力を用いたり殺害を求めない。

 自分以外が手を下すのを楽だと思ってもいない。

 楽だと思い、力でのみ解決を図る、それは自分を下げる行為だ。


 だからこの悪戯もあくまで懲らしめる為にするのではない

 最終的に裏に何があるか、それを確認するためである。


「その方の悪事、全て我がお見通しである、神妙にいたせ」

 慶司が庭から扉を開き、エルが飛び込む。

 もちろん宿には了解を得ている。

「なんだお前ら」

「お主が種を盗もうとしたことは既に知れておる」

 商人は焦ったというより驚いていた。

 なにせ突然庭の扉が開いて少女が飛び込んできての口上である。

 だが聞き逃せない内容だ。ここは言い逃れをしないと…

「なんのことやら、私は買い付けには来ましたがそんな恐ろしい事をしたりしてませんよ」

「フッフッフ、我が何も知らぬと思うてか、素直に白状せい」

「証拠も無しにいきなり来られても困りますな」

「そう言うであろう事はお見通じゃ、主様よ、証人を」

 後ろ手に縛られた配下の男が連れてこられる。

「そのような男しりませんなぁ」

「そんな旦那様」

「往生際の悪い奴じゃのぉ」

 ここまでくれば仕方ない…

「配下を捨ててしらを切るきか」

「では、私は用事があるので失礼する」

「そうは問屋が卸さないにゃ」

 ゲシッっと商人は逃げ出そうとしたところをエイミーに蹴られる。

「この紋所が目に入らぬか、この方は白銀竜様であるぞ」

「なっ」

「頭が高い、控えろ」

「ハハァ」

 効果音とか入れてあげたいぐらいである。

 というか自分を褒めてあげたい、言いだしっぺだけど。

「なあ慶司殿、アタシもそろそろ出ていいか」

「ええ、終わりましたから、後は取り調べと処分をお願いします」

「なんだか面白い事をするとは思ったけど…あれで罪を認めるんだねえ」

 警邏の森人に引っ立てられる商人を見ながらムーサは感嘆をもらした。

 これは様式美なのである。



 人は事実に抵抗するが、これ以上は無理だと一旦観念するとあっさり心が折れる。

 無理に折る悪徳警邏がこの世界にいない事を願うばかりである。

 今回は慶司が生き証人であり、配下も自供、そして商人も諦めた。


 その後の取調べでは商人は助かる為に全てを自供した。

 裏にいたのはアグラⅫ世。

 40人の妾と30人の子を持つと有名なロゲリア国王である。

 妾や狙った女性に与える為に高い紅を買うのは国費が減るばかり。

 そこで彼は、自国の富国を目指す。

 あくまで自国の為、という名目でベロニア草栽培を命じる。

 儲かるだろうと商人に特権の約束を与え種の入手を命じたのである。

 そしてこの顛末である。


 抗議をしたところで知らぬ存ぜぬになる事も判ってはいる。

 だが釘を刺す事で違法な密輸行為には手をださせないぞ、という思惑が伝わればよいのである。

 ロゲリアも表立って竜族を喧嘩相手には出来ない事情も有る。

 いくら国王が竜嫌いだからといって知らぬ存ぜぬとは出来てもそれ以上は手を出せない。

 これでますます竜嫌いが加速するのは間違いないだろう。


「別に滅ぼしても良いんじゃが全員が悪い訳ではなかろ」

 とエルは言っていた。


 商人と配下はその後特赦無しの労役を命ぜられ死ぬまで労働させられる事になる。

ってしまわないのにゃ」

 とは言ってたが死ぬより辛い事もある

 商店の資産は没収となった。

 家族に関しては咎無しとして無罪。

 資産の一部が与えられるようエルが取り計らっていた。

「罪を憎んで人を憎まずなのじゃ。

 そもそも子に親の罪は無い嫁はあるかも知れぬが、子供の為じゃ。

 これにて一件落着じゃ」


 この事件は聖地とブリガンさんにも知らせ協力を要請した。

 続報など、その後の処置なども連絡していた。

 この遣り取りが必要となり、その間滞在する事になるのである。

 どうせ滞在が伸びるなら。

 慶司はリヒトサマラでできる事に挑戦しようと宿をムーサの家の近くに移し過ごすことになった。


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