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逢魔時の戦い

 街道を西へと三人と三匹が進んでいく。ドレスムントからもだいぶ離れ大森林地帯と言われる森の先端に差し掛かっている。実際旅というものは、開始してからが大変なので、いくら準備をしっかりしていても足りないものは出てくるのである。


「のう主様よ」

「うん?」

「物は相談なんじゃがの、座り心地が悪いのじゃが」


 ここで慶司はお尻がいたいんだねとは言わない、思ってても言ってはだめだ。解決策を瞬時に生み出さなくてはならない。そうこの瞬間にである。


「そっちの荷物のなかに毛布があるはずだったかな、下に敷いてみて」

「うむ、わかったのじゃ、エイミー手綱を頼む、我は後ろの荷物代へ移ってみる」


 流石の慶司でも即席で荷車自体の改造は無理である。グルテンさんに改造を頼めばよかったなと思いながらも後の祭り、ここは被害を最小限に留めるべくトンチで勝負に出る事にした。


 お尻、痛い、座布団、毛布、クッション、スプリング、修理…修理は無理だろう。一つ戻ろう、スプリング、バネ、弾力、しなる、竹だ…なんて万能なんだろう、応急処置としては悪くないかなと思って作れるように素材を集める、ウラヌスを走らせて竹薮で竹を切断して持ち帰り荷車に積んでおいた。

 ご飯の休憩時にエイミーにご飯をお願いして座席に使う竹をカットし二本にネットを被せローブで固定して急増のタンカのように組み上げる。火で炙りながら竹を加工して底のが反対に盛り上がったダブリューの山が小さくなった様な字型の竹を数本作り穴を開けて両側の竹に差し込んで筋向いに交互に差込後は二台に固定してずれないようにしたら毛布をのっけて竹のスプリング式の椅子にした昔ロープでタンカを作らされた応用で作ってみた。人生何事も経験である。


 そして出発しようかとしたところでウラヌスが立ち止まった。アルテもヘリオスも森を見て立ち止まっている。どうやら最初のお客さんのようだ、荷車からアルテとヘリオスを外して待てと命じエルには荷車の後ろ、エイミーは荷車の前に陣取ってもらう。


「さて種類はなんだろうな」

「ふむ、唸り声は聞こえんな」

「シャーって聞こえるにゃ」

「ベルスニーキか、これまたデカイ蛇だね、弱点はどこだろう」

「弱点は頭しかなさそうだのぉ」

「牙もだけど、胴体や尻尾にも気をつけろってあったにゃ」

「毒は?」

「ないにゃ」

「それじゃさくっといこう、俺が注意を引きつつ側面に回っていくから、そこを弓で頭を狙って」

「了解した」



 槍杖を構えてゆっくりと森から出てくるベルスニーキを伺いながら右へ右へと回り込む。こちらに標的を絞ったベルスニーキの頭部がグググッと持ち上がった瞬間にブッブッと頭部に二発見事に矢が刺さっている。しかし脳を破壊はできなかったのかそのまま大きな口を開けてつっこんでくる、受け止めず力いっぱい殴りつけ怯んだところを再度矢が刺さった、右目が見えなくなったようでこちらを発見できないようだ。しかししぶとい、慶司はやりの刃の方の魔術を展開して飛び上がりつつ斜め下から切り上げて胴体と頭を切断した。さすがにもう死んだかなと思ったが頭部はまだ動いていた。止めをさしてやり牙をとりさくさくと皮をはいで肉を焼き三匹の餌にした。ちょっとエルが物干しそうにしてたのは我慢してもらった。匂い消しがあれば調理して鶏肉みたいといわれるのを味わっても良かったのだが、流石にちょっとそのまま食べるのは気が引けた。満足した三匹を再度荷車に繋ぎ、残った肉を荷馬車に詰め込んでから慶司はウラヌスに騎乗して出発した。



 森を移動していると時折気配は感じるが興味を無くすと去っていくという気配を幾度も感じた。

 最初は猿とかすこし知恵のある獣かな? と思っていたが違うようで、ドヌルやドルドならウラヌスが反応するがそのような反応もないため、気配がした瞬間にそっちへ歩を進めようとしたら即座に気配が消えた。盗賊にしては見事な去り際だし不思議だと思いつつも警戒は強めた。姿が見えないと思ってる距離からこちらを監視してるならこれの出番だと望遠鏡を取り出した。例の残念開発品だが、透明ガラスを作成できていないこの時代で望遠鏡は存在しておらず国内販売限定としたこの商品が船乗りから冒険者にいたるまで爆発的ヒットするとは思っていない。なにせ高品質なものは提供せずなぜ見えるかなど解析をさせないのである。そして慶司の望遠鏡は残念賞を取った後にも改良を加えられた一品でありズームの調整を魔力で行う事までできる優れものである。


「人間?」

「なんじゃ主様何かおったのか」

「うん、さっきからたまに気配がしてこちらを見ては去っていくってのが繰り返されてたから気になって望遠鏡で覗いてみた」

「おお、例の残念賞の優れものじゃな」

「うんまぁそうなんだけど、それで見たら人だった」

「ふむ、森人の狩人か森の守人じゃろうな、そ奴らが来てくれている間は襲撃はないまま旅を続けられるぞ」

「うん、でもものすごい気になる…気配がして見てますよーって伝わってくるんだよね」

「主様の感覚が凄いのであって商隊とかは気が付かないままに送られるんじゃよ」

「そう聞くと奥手で意地らしく聞こえるのが不思議だ」

「実際に森人は森が好きでリヒトサマラから出たがらない奥手な種族じゃから、話してみると世間で言われるような排他的とかじゃなく己の価値観をもった勤勉な種族だとわかるんじゃがな」

「そういやマギノに研究員を召還するのに交渉したんだっけ?」

「うむ、なんどか代表の人間にもあったぞ、そうじゃなまず彼らは礼儀作法がビシッとしてた、他人に強要せんからいいがあれは凄いな、我には無理じゃ、あとは森が好きじゃろ、ものすごく綺麗なんじゃ、ゴミが落ちてない。そこに他所から来た商人達が気付かないでゴミを落とすじゃろ、一回目は黙って拾って処理してくれる、二回目になるとじーっと見つめて、3回目になると激怒する、そして激怒された者には町を綺麗にして維持するという考えが理解できないから森人に怒られた印象だけが残るのじゃな」

「聞いてると本当にイメージが違うなあ、しかも森人って守人な訳でしょ?」

「うむ、森をできるだけ保護している、木を切って使ってもいるが植林をしその範囲内でしか伐採をしない管理した林をもっておる。大森林地帯などは彼らの庭じゃが狩りにしか使わん、故に鉄の為に森を切り開く山人とは相性が悪い、しょうがないとは思っておるそうじゃがな、祖先が揉めたらしい、山人からすれば森を開くのは開発じゃから意見が合う訳がない」

「その意見調整をやってる竜族に頭が下がるよ」

「じゃろ、もっと褒めてよいぞ」

「私のイメージはお米を食べてる種族にゃ、お米とお薬の種族なイメージが強いにゃ」

「そうじゃな、猫又族と犬狼族も米を栽培はしとるが森人の米は美味いらしいな、自分達で消費するだけで外には出ないらしい、薬は言わずもがな森の管理人じゃからな、様々な薬効のある薬を作っては販売してくれている、後は絹織物も綺麗じゃな、森人しか作れん技術じゃがあの布を虫から取ってるなど信じられんがのぉ森人の布として貴重なものじゃから流石に教えてくれんかったがな。あとは竜族の支配地でくらしてはいるんじゃが精霊を称えているのが山人より強いかな、結び付きがあるらしく唯一精霊魔法を使える者がおるのも森人だけじゃからな、研究結果を聞いたが他の種族には無理じゃろうな、契約自体が出来る気がせん。我と主様の最初の関係ににとるからな、竜族にたとえるのも難しいが契約に畏れ敬い利用はしないけど魔法の力を使うという意味のわからん関係じゃな、まあ精霊はこっちの世界で実態を竜族のごとく維持できぬからな…そのあたりに関係があるのかもしれぬ」

「森人が征服欲がなくて他の種族は助かったみたいだね」

「そうじゃなぁ彼らに支配欲があったらと思うとぞっとするわ」

「その点じゃ他の種族も負けてないにゃ」

「そうじゃの竜族の支配地におる種族は種族欲がなんというか支配とか征服とかに向かわんからな」

「気楽に冒険者が猫又族にはむいてるにゃ」

「エイミーをみてたら納得できるね」

「褒めてもなにもでないにゃ」







 慶司達はある程度まで進んだところで野営の準備をし薪を拾い食事の準備を始めた。沢のハンマーレブを取り焼いて、ご飯と味噌汁を用意して先に慶司が眠り途中の見張りを引き受けた。その後朝まで起きて再度慶司が寝てもボディーガードの気配はあった。森人達の気遣いは翌朝まで続き出発後消えた。

 慶司は何かのお礼ができないかと思い保存用の食料にと作っていた干物と干し肉を蔦で包み木の枝にぶら下げておいた。森人達は見守っている事がばれているかもとは思っていたが思わぬ差し入れに喜んだ。

 森人達も常に旅人を見守れるわけではなく森の監視をしている役目の範囲内で旅人を見つけたら守っているだけなのだがこのように護衛に気がついた上贈り物を受けたのは初だったため報告のための伝書鳩が都市に飛んだとは慶司達も思わない。


 4日目に慶司達は森の中にある村を発見し一日そこで体を休めた。その村はまだ森人の里ではないがパトロールに赴いている森人の立ち寄る村で交易の商人達も利用するそこそこの大きさだった。ギルドもあり一応通過の報告をと訪れた慶司達は次の様な討伐依頼の最中に出くわす事になった。慶司達がギルドに入る前に村長とギルドの冒険者が話し合いをしていたのだが纒らないままであった。


「そうですか、ウィルドの率いるドルドの群れが」

「村の若いのが必死で逃げてきての幸いに怪我はなかったが流石の守人達といえどウィルドはいかん、負担をかけるわけにもいかぬし討伐の依頼として受けてくれ」

「ウィルドを一匹討伐するのに鋼5のランクが必要なんですよ、さらに群れとなると最低でも銀レベル3名か鋼の高位5名以上のパーティーでないと、ここで銀1でいるのは私だけですし、鋼の下位しかいませんからね、守人の方が来てくれて協力すれば…」


 慶司ギルドに入ってはカウンターへ赴いて通過報告に来たことを告げて牙を提出しプールでと告げて出ようとした。もちろんカウンターの職員が止める。


「すいません、白銀の翼さんで宜しいんですよね!?依頼があるんです」

「えっと旅の途中なので狩猟や護衛はしてませんよ?」

「はい、あの先程ウィルド討伐の依頼がありまして協力してもらえませんか!」

「討伐でしたら仕方ないですね、宿にいるメンバーを連れて来るのと宿をもう一泊追加してきますのでよろしいですか?」

「はい、ギルドからの依頼ですので宿代はこちらで負担させていただきます」

「では後ほど伺いますね、ウィルドの規模だけ先に聞いておいていいですか?」

「ウィルド2、ドルド7が確認されてます」


 慶司はそれだけを確認して宿へと向かう、ウィルドクラスとなるとウラヌスたちなら大丈夫だろうが怪我は確実だなと思い宿へ止めて置く事になるか連れて行くかとか、武器と道具はどうするかと考えながら歩いていった。


「おいメリー、冒険者にウィルドの依頼を話していたが使えそうなのか?」

「はい、ギルドの推奨対象でチーム白銀の翼、トップの慶司さんのランクは採取鋼7狩猟銀3討伐銀4護衛銅10でコメントに本部推薦とドレスムントの推薦がついてます。凄い腕利きですよ」

「そのランクの人がきたなら何とかなるかもしれないな、村長、聞いての通りだ」

「そうか、よかった、さすがに何日も出られなくなるのは厳しいしなこれで守人の方々に迷惑もかからんじゃろう」


 アンジェリカは偶然通りがかった冒険者が本当に評価基準どおりである事を願った。まあ、二つも推薦もらってんだからナマクラメッキじゃないでしょうけどねとウィルド討伐に向けて準備をすべく自分も二階の自室へと向かった。



「ふむ、それで一日のばすのじゃな?」

「うん、ウィルドはドルドの魔素変化した強い固体だからね鋼5クラスそれが2匹いてさらにドルドも7匹は確認されてるらしいから俺たちで倒したほうがいいよ」

「まあそれはかまわないにゃ」

「うむ、やるのは構わんが我らのみでの対処か?」

「いやギルドに一人使えそうな人は居たから4人と3匹だね」

「アルテたちも連れて行くのか?」

「うん、仲間だし、ウィルドは俺が引き受けるよ、多分もう一人の人もいけるはずだから残りのドルド7匹を任せていいかな?」

「ふむ、まあ余裕は余裕なんじゃが逆に足かせになりそうじゃったら単独で受けたほうがよいぞ?」

「まあ、使っても壱でいけると思うし、こっちの方針に合わせてもらうよ、最初は弓2発、その後ボーラで対処、突入は俺ともう一人、残りで投網とフレイルで対応しようボーラは構わないけど弓は興味もたれたくないし混戦になるから最初だけで後はいつも通りだから問題はないさ、正直ウィルド次第かな、それ次第で作戦を変更して俺が殲滅に走る可能性もありってとこにしておこう」

「「わかった(にゃ)」」


 そして装備をつけてウラヌスたちに鞍を外して魔術付与した真具を装着していく、ウラヌスたちもこれが身を守る事を理解していて嫌がらずに着る、なんと言ってもエル特製でこのために慶司は聖地まで行って竜聖母から竜族の管理している鱗と爪と貰ったのだ薄い皮なのに破れない噛み千切れない強度がある。

 エルのマントは以前に聖地で慶司と同等の処理をしていたので、今回はエイミーのマントにも慶司達程ではないが魔法防御と防刃、衝撃吸収の処理がされた。エル曰く親友だから特別らしい。

 発動はウラヌスをはじめエイミーも魔力的に足りないために慶司が発動をしていくのだが効果時間は30分が限度である。もっと持たせたいところだが、そうすると今度は魔石を大量につけることになり動きが阻害される。流石に竜鱗結晶が最高の素材なのはこれまでの付与で判っているがそうそう使う訳にもいかない。竜族の鱗や爪は生え変わりのあるものや、怪我で剥がれたもの、なくなった竜族が残したものを悪用されないように保管し竜族の為にと残していたから使えるのだが竜鱗結晶は数がない。これは竜族が身に着けた宝石が経年変化して鱗の中で融合していき魔力を宿すに至ったものや、長期間竜族が体内に貯めていた物で竜族の血肉と一緒であり希少価値が高い、実質竜玉は魂であるから死亡しても使うことなど許されない物なので竜鱗結晶こそが竜族の秘宝だからである。



 ギルドに到着した慶司達は一緒に戦える冒険者を紹介してもらう事になった。


「よろしくアンジェリカだ、討伐は銀1つそこそこ戦力になる自信はあるんだが、後ろにいるのが白銀の翼のメンバーかい?」

「ええ、全員優秀ですよ」

「ふむ、銀4のあんたがそういうならまぁ問題ないわ、討伐は残りは階級がしただから連れて行けないからこの4人だね、ちょっと少ないが、あたしとあんた次第だろう、指示はそちらの指示にしたがうから好きにつかってくれていいよ」

「わかりました、あと4人ではなく+3匹になります、表に待たせてるうちの子達も参加しますから」

「ほう、ピレードも戦闘に使えるのかい楽しみにしてるよ」

「作戦ですが、まず場所の確認からです、出来れば後背を岩壁もしくは後ろを気にしないで戦える場所が近くにあればいいのですが」

「うーんこの近隣で大きな岩があったり崖があったりはしないからねえ、森だらけだ、奴等が発見されたのもこっから畑の方へ向かって川を越えたあたりさ、その先は森になってる。」

「そうなると陣を作るのも大変ですね、竹薮なんかはありませんか?」

「それだと、そうだなこの川の手前が少し竹林になってるな。」

「ではそこに陣をつくります。ロープと紐をできるだけもって出発しましょう」


 慶司達は竹林に到着すると先ず慶司がサクサクと竹を刀で切っていく 7ネル程の高さで切られて落ちてきた竹を更に地面にさしてロープを絡め後ろから回ってこれないように壁を作っていく。余りに竹を軽やかに切断するのでアンジェリカは口を開けて感心していた、ハッっと気がつき作業につくまで30秒は放心したままだった。エル字型に陣ができ一番後ろにエルとエイミーさらにウラヌス、アルテ、ヘリオス

 前衛として慶司とアンジェリカが立った、慶司はボーラでラビをしとめ 川原に内臓を撒いて焚き火をみんなで囲みつつラビを焼いて食べながらウィルドの出現を待つことにした。


 そして獣たちが現れたのは、日が沈み夜になる直前、魔獣に似つかわしくも逢魔時(おうまがとき)であった

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