名犬達とリヒトサマラへ、
「はぁ…あのチーズケーキがまた食べたいわ」
などと呟いている妙齢の女性はマリシェルである。シルバーブロンドの髪を手でクルクルっと巻きながらたまにこうして呟くのである。最近はこの姿でいることの方が多い。だが本当の悩みは別にある、慶司からの報告で判ったがやはり竜族に敵対する何者かは存在するのだ。竜族の長として手を打たねばならない、頼ってばかりで申し訳ないと思いつつも慶司に頼らざるを得ないのだ。仮に冒険者に依頼したとしてもワイバーンより下のバジリスクやヒュドラでさえ全滅、壊滅は当たり前だろう。竜族を守護し導いてくれるように現れた慶司、彼が本当にエルと出会ってくれてよかった…彼のしてくれた事、そしてこれからしてくれるであろう事に一体自分達は何が出来るのだろう、まずはこの子だ、一つずつ解決していこう…
「この子は大切に育てないとね、元気に育ってください」
マリシェルは慶司とエルウィンの子である竜玉へと語りかけた。
さて、匿名で毛皮を捌いてもらった慶司だが金額を聞いて呆れた、最高額の落札でした、やっぱり物がいいと張り切り甲斐がありますと興奮していたマリアさんから教えられたのだ。そしてエルたちの反応は予想通りだった。
「主様一人で討伐するなど狡いぞ」
「すごいの倒すにゃ」
「「流石師匠!」」
である。まあ判りきっていたのだがアレはあくまで突然遭遇したドヌルスだよと納得してもらい言いふらさないように注意した。売却金はギルドへプールし、その時に気になっていた事をマリアに質問した。
「ギルドにパーティー資金やパーティー登録者の利点でお金をプールするシステムですが、こちらから資産を預ける事は可能なのですか?」
「個人から資産を預かりはするのですが、意味合いが変わってきましてギルドへの投資、もしくはギルドを使った資産運用となりますね、引き出すにも時間がかかるようになります。ですからそういった目的で無い限りお勧めしません、まあ商人などに比べれば確率の高い間違いの少ない分儲けも少ない投資先ですけどね、ギルドのできる商売はギルドの設置ですし」
「銀行はないのですか?」
「両替商はありますよ」
これは言霊の弊害みたいなものか。
「両替商はお金は預からないのですか?」
「そちらも資産運用としての投資は受け付けてますが、両替商のギルドは人気が無いですね、無くては困ると言えば困りますが汗水垂らしてという仕事から一番遠い仕事です。竜族が投資業務に関しては禁止令を出しましたからこの国では力が弱いですよ、その分保護はされてますけどね」
「投資を禁止したら、ようはお金を借りて商売は出来ないってことですよね?」
「そうですねこの国では商売の拡大をする為には自分で稼ぐ必要があります。でも方法が無いわけでもないんです、投資はしてはいけないけど人を雇うことはできるので商売自体を買う事は出来るわけですよ」
「では商人も同じような?」
「そうですね、商売を購入することで投資してます。ですから仮に商売が失敗したら損をするのは買ったほうが大きくなる、その分真剣にその商売が成功するか見ることになるという仕組みらしいです、買って貰って雇ってもらう方にしても稼ぎたければ必死に頑張るしかないわけですからね」
「お金の鋳造を行ってるのは竜族ですか」
「そうですね、この国では竜族がお金の鋳造をしていますし管理もしています、竜族魔法によって贋金防止の措置が取られてますよ」
「貿易はどうしてるんですか?」
「他の王国と商人が取引する際には金銭でのやり取りは禁止されていますね、対価となる商品とのみ引き換えを行っているそうです、これの意味はわかりませんが」
「ああ、大丈夫です為替を禁止したんですね、この国のお金を持っていっても物は買えないってことですね」
「まああくまでお金自体が金銀銅で出来ていますから買えないことは無いでしょうが、それならお金より金銀銅をそのまま持っていったほうがいいのかもしれませんね、金銀銅に関しては竜族が支配しているので交換率が決まっていますから、同じ金貨の金とその金貨で買った金の量なら買った金の量の方が多いからです」
「なるほどそれで聖地からということであれだけ交換してくれたのか…」
「竜族は統治せずとはいってもこれはいけないものですと制限はかけてその分保障という仕組みですね、他にも竜族が禁止にした商売はありましたから」
「国外の王国とかに言った場合のプール金ってどうなるんですか?」
「竜族が決めた相場で換算してお支払いします」
「固定相場に金本位制になってるわけか、竜族の支配地ほどの安定があれば可能なんだろうな」
「そのあたりの相場管理も竜族なんですね?」
「そうですね、商人や両替商がやろうとした事があるそうですが禁止されたようです、もちろんギルドもですが」
「為替がだめなら手形もだめだろうなぁ先物も禁止にきまってるか」
「まあ、竜族は管理で規制はしますが働いて汗をかいてる人が食べれない政策はだしませんから、私たちも安心しているんですけどね」
「なるほど勉強になりました」
「いえいえ」
マリアから意外な竜族の管理について聞かされてエルに質問したら
「当然じゃ、お金の管理は国家の基本じゃ」
と答えが返ってきた。
「もっと精進します」
そう答えるしかない慶司である
槍杖の修理も終わり、慶司は7日後に出発のすると皆に伝えた、最初の目的地はリヒトサマラである。
飛行でさくっといけるのだが慶司はのんびりと旅をすることにした、そして前回の約束通りエイミーを連れて行くことにした、その為にまずメルクに頼んでピレードを購入し足代わりとすることにしたのだが、150歳は生きると言われてびっくりした、ホルスは野生の物を捕まえてくるので比較的安いがピレード購入するのに野生と人の手で育てられて物に差があるから見てみてから選ぶといいと言われ見に行った、体長最大1.2メルというピレードは本当に素晴らしいとしか表現のしようのない風貌だった。慶司が選んだのは3匹とも野生で生まれた少し小さめ固体だったがそれでも0.7メルあるしこれから育つという、飼育主からも豪いのを選ぶもんだと笑われたが精悍な顔つきと筋肉の量をみれば確実にこの子達しかいないだろうと言えた犬の背に乗るのは犬にとって危険じゃないのかと聞くとピレードで乗犬してつぶれた話は聞いたことがないらしい。
ピレードは人間が捕獲するようになる前に魔素で変異した個体たちから生まれた子供のようで頑丈な肉体をもっているとのことだった。支払ったのはピレード3体で60000リュートだった、人の手で育てられたものより安いのは意外だった。慶司は自分の乗る予定の子でオスのウラヌス、次にメスのアルテとオスでヘリオスと名付け、その日から店の裏で3匹に餌をやり、暇を見つけては町の外へ連れ出して散歩をした、正直楽しいと慶司は毎日欠かさず遊び3日目には乗って4日目には手綱をもって3匹で併走し、5日後には簡単な意思疎通をしていた。6日目に遠乗りしてるとドヌルと遭遇したが一緒に戦った。餌代わりに食べちゃうのは生き物だからしょうがないけどお腹こわすなよ?と最終的に慶司が捌いて焙って冷やしたものを与えることになった。名前を呼べば飛んできて甘えるし、攻撃、待機、隠れろと指示にも従い慶司をリーダーと認めたようだ、捕まえた獲物を差し出してくるので最大限褒めてやることにした。荷物は最小限にして馬車を2頭引きで用意し運ぶ荷物の負担を減らすことにし常に一匹は併走かもしくは乗犬として慶司が担当することにした。
他の旅の用意としては弓の矢をB&MWに依頼したことと、保存用の魔術袋を購入し食料を買ったこと以外では武器を作っていた事ぐらいだがこの試みは別のアイテムとなって現れた、まず夢をもって取り組んだのはレーザーの魔法か魔術である。これは完全に無理だった。ソーラー系も試してみたが熱量が足りないレーザー光は取り出せるが大きさが洒落にならなかったし大量の魔法を同時発動する必要があったため断念した。これで結局できたのは望遠鏡である、とても残念だった。
次にスタングレネードを作ろうと頑張り、フラッシュ弾としては何とか使えるまでになったが爆発させると殺傷能力になるのに風の魔法力で音を調整しても耳が確かに痛いけどね? というレベルに留まった。そして爆薬布が発明され地雷も手榴弾も作れたがこれらは研究途中で封印した。そして残った成果がスモーク弾+音を出す連絡用のアイテムだった、これは魔術ギルドに販売をしパテント代をもらえることになり町の外での活動と警備上のアイテムとして大いに売れた。
そして一番の発明と言われたのが冗談で作ったトウガラシの蒸気を出す魔法道具だったのは悲しかったが、これはグルテン工房とB&MWでのみ作成とした、技術的な問題もあったが、販売経路を確定させ犯罪使用のされないように登録製にしてもらう事にしたのだ。獣用は小さく一瞬で広範囲に広がる仕様にして子供が安全にそとで遊べるようにと作ってもらい冒険者用はギルドへ卸すかわりに完全登録をしてもらうという徹底をした。
そして現在の慶司達の装備であるが。
慶司の装備は、エルの加護を受けてるマントと蹈鞴の太刀、投擲具×20、槍杖、ボーラ4個、投網、コンパウンドボウ、矢×20、ナイフ。
エルの装備は、加護のマント、フレイル、太刀、ボーラ×4、投網、コンパウンドボウ、矢×20。
エイミーの装備は特製マント、フレイル、ナイフ×2、ボーラ×4 コンパウンドボウ、矢×20。
矢は慶司が特注でつくったコンパウンドボウ用の矢である。危険かもとエルとケイジで作った付与魔法アイテムの矢で中心が空洞になっていて先端付近に小さな穴を開け一気に空気が流れる仕様にした、中心部より少し前で発動した魔法で刺さったら空気を体内に送り込む目的で作ったが結果として生まれたのは前の穴を先端部分を特殊にする事で空気を取り込み推進力に換えた威力と速度が上がった矢だった、これを10本づつ。
さらに大型獣対策として作った矢を5本づつ作ったがこれならまあ許容範囲か? と思ったのに威力のあった一品、マグネシウムの粉末を内部に仕込み魔法を発動させていくタイプなのだが見事に爆発した…これはヤバいとマグネシウムの精製粉砕から全て竜族付与の魔法にしておいた。
慶司は万が一が起こさない為に、ちょこっと出掛けては防具や武器を開発していたのである
出発の日―――南門にて―――
「師匠! 必ずいつか共に旅ができるぐらいにはなりますのでその時には必ず同行をお許しください」
「ホメロウと共に師匠達のお帰りになるまで必ずやこの町の平和は私達が守って見せます」
と少し考えも改まり頼り甲斐の出てきた二人が送り出してくれるようになった。その一方で、いつもの如くだがマリアさんがふてくされてた。
「また、また居なくなるんですね…銀の人に早く戻ってきてもらわないとパンクします」
「今度はじっくり回る予定だから時間はかかるけど戻ってくるさ」
「本当ですか?」
「大丈夫に」
「うむ、ここには皆がおるでな」
「そういうことです」
「気をつけてな!まあ慶司なら問題ないだろう」
「みんなで待ってますからね」
「「「いってらっしゃい!」」」
慶司達はリヒトサマラへと向かう細い貿易路へと足を進めた




