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 翌朝、校門の前にソフィア、カミュ、クリス、アンネローゼが集まった。


 だが私服で現れたソフィ達と違ってアンネローゼは見事なまでに異なっていた。


「ナンシーどうしてその格好なの?」

「え?」

「うむ、流石にその装備までは必要ではないぞ」

「僕にはまあ判らなくもない格好だけど、皮の必要はないかなあ」


 ソフィア、ワンピース。ふわっとした白の生地に所々にブルーの刺繍がされていてベルトはシルバーグレーで髪の色とも合っている。慶司とエイミーに選んで貰ったお気に入りの衣装だ。

 カミュは普段通りに伝統的な犬狼族の衣装だが、色合いが女性らしくなっていて、ピンクの着物に薄い濃淡の藍色の袴。

 クリスは先日買った少しだけ女性らしいと云っても問題はない水色のシャツにパンツルックという動きやすそうな格好だが、一つ間違えれば美男子に見えそうな格好だった、だが幸いな事に化粧を覚えた事で強制的に現在はさせられている為に間違えない程の美少女がそこにはいた。


 この辺りはエイミーやアドニスの妻となったケリーなどの全面協力があった。


 それに比べると、生成りのシャツ(肩やひじに皮の補強入り)、皮のズボン、ブーツと下手をすればそのまま旅にでも行きますというアンネローゼの格好である。


「…………あれ?」

 と完全に理解不能になったのはアンネローゼだった。

 稽古じゃなかったのか!?

 変だ、確かに稽古だと思っていたのだが、校門だからもしかすると何か依頼でもこなすのではないかと思い、腰には武器まで帯刀しているのだが、目の前の女性陣の格好はそれを全力で否定している。

 いったい私は何に同時していたのだろうか……とまあ焦ったところでこの洋服の他にも無いんだがなと開き直るアンネローゼがいた。


「まあある意味予想通りだよ、とうさんが”ひつようけいひだ”っていってお小遣いも渡してくれたからみんないくの!」

「まあ、クリスの時も一緒だったな」

「そういえば……」

「うふふ、なの楽しみなのよ」

「え?え?」

「ちなみにカミュのやクリスのも見ていいって言ってたの」

「やっぱりお師匠様だ……」

「できればパンツに慣れているのだが」

「だーめーなーの!ねーウラヌス」

「わふ!」


 荷物もち兼、ボディーガードとして派遣されたのはウラヌス達である。一番体格のしっかりしているウラヌスにソフィとカミュ、ヘリオスにはクリス、アルテにはアンネローゼが乗る事になった。


 この三匹は有名な上にそこらの冒険者より数段に強い。何かあればシルフィを呼び出せるのも心強い。


「それでは出発!」

「どこへですの!?」

「洋服屋さんに決まってるの!」


 アルテが諦めなさいとでも言わんばかりに振り向いてから駆け出した。


「聞いてませんでしたわー」


 どうして買い物になっているのか、昨日のやり取りがまさか洋服を買いに行く話だったとは……アンネローゼの後悔は先に立たなかった。苦手分野だとは夢にも思わなかった彼女の悲鳴が休日の校庭に響き渡っていた。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「しかし困ったというか、一応筋は通すしかないね」

「まあ主様なら問題は無いの、しかし面白い娘のようじゃな」

「そうだね、調べた限りでは剣一筋、学院に来てからの態度も悪くないし、責任感かなにかで動いている。それがおそらく王族の責務と言ったところだけどね。それに隠しきれてはいないけど、身分を隠して自分だけでなんとかしようという態度には好感が持てる」

「エリミアド王国か、微妙じゃなあ、普通の王国ではあるが」

「彼女自身は種族的な差別などの意識はなさそうだけどね」

「うむ、国としての成立時代とは王族の教育が変わったのか、それともあの娘だけが違うのかは疑問じゃがな」

「やっぱり巡回は」

「うむ、ブルトンのように王族が竜族と交流を持ちたいと表明しているわけでは無い、だがフルトリアに比べればマシじゃし、以前のブルトンよりもマシだったかもしれんから、お国柄というやつかも知れぬ。ある意味騎士国のように自分が!前回の事件のように息巻いておらぬ分やりやすいかも知れぬ」

「うーむ、まだエリミアドには行った事がないんだけど、一応聖教会の関係で間違いなかったよね」

「少し違うのじゃが、あれじゃ国教会ほどじゃないという奴じゃな」

「あれと似たようなものか」


 思い当たる物が慶司にはあった。それが慶司の送られてくる原因というか要因の一つであったのである。


「多少の違いはあるのじゃが、聖教会として活動しておる。ただし総本山が違う」

「人種、種族差別の容認と竜を嫌っているのは同じってことだよね」

「まあの、じゃがあのような研究まではしておらんと願いたい」

「うん、じゃあちょっと色々と打ち合わせに行ってくる」

「気をつけての」


 出かけ際に軽い接吻をして慶司は【幻日環回廊(げんじつかんかいろう)】を通り抜けた。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「成る程、筋を通す為に乗り込まれるのですね」

「乗り込む、そうですね相手からしたら迷惑でしょうけど」

「でも子供の行方がハッキリとするなら良い事かも知れません」

「一応何も問題が起きないように話をつける心算ですが、城の警備すべてを突破していきますからね」

「ウフフ、まあ竜の聖地であるこの宮殿であろうと何処でも可能なだけになんとも言いにくい事ですが、諦めて貰うしかありませんわね」

「まあ許可を頂く為に伺うのでノックぐらいはしてから行きますよ?」

「わかりました、毎回大変な事程自分でなんとかしてしまわれますから、何かあれば仰って下さいね」

「はい、では承認だけ頂ければ」

「もう、イケずですねえ、ケーキで手を打ちましょう」

「ハハ、それこそケーキで手を打ったなどと知られたら大変ですよ」

「いえ、この慶司さんとエルさんの子の為のケーキだからいいのです」

「了解しました、今度お好みのチーズケーキをお持ちします」

「ではお気をつけて」

「有難う御座います」


 一瞬で来て用件を伝えると直ぐ様に出て行く慶司にももう慣れてはいるが寂しい物だと感じる。だがケーキの確約をとったマリシェルは喜びの感情が勝って、ウフフと微笑みを浮かべていた。

 チーズケーキだけは慶司に必ず頼むマリシェルの心は複雑だった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 グラームの町は温泉街としても炎竜の支配地としても有名であり、周囲の住民の多くが獣人が多い事もあって大陸一の穀倉地帯であると共に冒険者の都市として栄えていた。そこにさらに昨年の竜王格闘杯(D・L・F・C)でより一層冒険者の聖地としての意味合いが見出されていて、競技場では小規模な格闘大会などが行われている。どちらかと言えばファッションなどの流行と縁遠いイメージなのだが、そこは大都市だけあって、様々な商会が店を出している。


 竜王格闘杯(D・L・F・C)杯で繋がりをもった例の胴着の店にたどり着く。

 オーダーメイドまで引き受ける超高級店でもあるこの店は慶司の贔屓にしているお店の一つでもあり、ソフィアも幾度も訪れている。オーナーが少し変わっているのだが趣味も良く気に入っている。


「これは、ようこそいらっしゃいました」


 慶司の身内ともなれば当然のVIP待遇に成る。本来だったら店員が一人づつでも張り付くのであるが、慶司がそういった事を好まないので店長が最初の挨拶にのみ現れた。


「それでは、お決まりになりましたらお呼び下さい、オーダーメイド等が必要な時もお声を掛けて下さいましたら……それでは」

「はーい、それじゃ入るの」


 高級店にまったく慣れていないカミュ、男装ばかりで女性物を選んだことが無いクリス、服=戦闘服という意思と服は家臣が揃える物だと考えていたアンネローゼ……


 数分後、それぞれが選んだ衣装を試着して集まった瞬間にソフィアは絶句してしまった。

 女子力=女子的戦闘力には自信があれど、女子力=女の子的魅力については壊滅的なメンバーであった。


「これは駄目駄目だと思うの!」

「無念」

「僕には難しい」

「戦闘には適しますわよ」

「「それは駄目だと思える」」

「裏切られましたわ!」

「店長にコーディネートをお願いするの!」

「あら、ソフィア様ですか」

「あ!オーナーさんなの、オーナーさん女子力に問題がある三人のコーディネートをお願いしたいの」

「ウフフ、オマカセ、アーレ!」

「「「この人がオーナー!?」」」

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