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識字率0%の辺境で、元教師の無能転生者が学校を作ることになった件  作者: 菊池まりな


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113/113

第113話 王都への道、置いていくもの

 王都行きが決まってから、村を発つまでの数日間は慌ただしく過ぎていった。


 ミルバンク村の寺子屋は、ひとまずミアが作った教材と手順書を村人たちに託すことになった。レオが直接教えられなくなる不安はあったが、リナが「あたしが、みんなに教えるから」と誰よりも先に名乗りを上げたことで、村の空気は思いのほか前向きだった。


「先生がいなくても、大丈夫なように──それが、本当の意味で寺子屋が根付いたってことだもんな」


 ノアがそう言うと、ガイウスが珍しく感心したように頷いた。西方三村を巡る中で、ノア自身も「教わる側」から「小さく教える側」へと変わりつつある。その変化に、レオ自身が一番驚かされていた。


 出発の朝、村の広場にはミルバンク・ホロウ・グレンの三村から、大勢の人々が見送りに集まった。リナの父親は、まだ本調子ではない体で杖をつきながらも、最後まで手を振り続けていた。


「先生、また来てくれる?」


 リナの問いに、レオは迷わず頷いた。


「約束する。それに──手紙を書けば、いつでも会えるようなものだろう?」


 その言葉に、リナは照れくさそうに笑い、懐から丁寧に折りたたんだ紙切れを取り出した。まだ拙い文字で「せんせいへ」と書かれたそれを、レオは大切に懐にしまった。


 馬車が動き出すと、ミアはしばらく無言で窓の外を眺めていた。


「……何度見送られても、慣れないもんだな」


「慣れなくていいと思う。慣れちゃったら、多分、大事なものを見落とすようになる」


 ミアの言葉に、レオは小さく笑って頷いた。


 道中、ガイウスは終始険しい表情を崩さなかった。灰の館で見つかった暗号、「最上位等級」という不穏な言葉、そして「あの方」というエドマンドの呟き──王都に近づくほど、その重みが増していくようだった。


「レオ、王都に着いたら、しばらくは気を抜くな。内務省の聴取だけでなく、社交界にも顔を出すことになるかもしれない」


「社交界、ですか……」


 レオの声が露骨に沈んだのを見て、ノアが横から茶々を入れる。


「先生、貴族の作法とか大丈夫なのかよ。教えるのは得意でも、教わるのは苦手そうだもんな」


「否定できないのが辛いところだ……」


 軽口の応酬に、馬車の中に小さな笑いが起きた。西方三村での緊張が続いた日々の後だけに、その笑いはいつも以上に貴重なものに感じられた。


 数日の旅を経て、地平線の向こうに王都リンデンハルトの城壁が見え始めた頃、先行していた早馬の伝令がガイウスのもとへ駆け寄ってきた。


「ガイウス様。内務省より緊急の報せです。灰の館の記録に関連して、王都内で新たな動きがあった模様──」


 伝令の言葉に、馬車の中の空気が一瞬で張り詰めた。


「新たな動き、とは?」


「詳細は到着後に。ただ……エドマンドの取り調べを担当していた官吏の一人が、昨夜より消息を絶っているとのことです」


 ガイウスの表情が硬くなる。レオも、ミアも、ノアも、それぞれの顔から先ほどまでの笑みが消えていくのを感じた。


 王都に足を踏み入れる前から、すでに何かが動き始めている。


 馬車は速度を落とすことなく、城門へと向かって進んでいった。


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