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黄金剣のギィロ 〜好きってどういうことだかわかる?  作者: ぷるお


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第27話 ミケウの片隅

 暗くなる前の空。

 なかなか地面に落ちない細かい雪が舞う中、私たちは雪灯院をあとにした。


 雪灯院に来たばかりの時は塞ぎ込んでいたけど、優しいみんなが助けてくれた。

 ここまで来れたのはみんなのおかげだと思うと胸がぎゅっと詰まった。

 雪灯院とみんなが幸せになるよう心から願った。


「うっ…んっ……」

 思い出は涙腺にきて、我慢しながらギィロの後ろを歩いていた。

 ギィロはたまにチラッと後ろを向くけど、何も言わず進む。


「……はぁ〜……ふぅ〜……」

 やっと落ち着いてきて、冷たい空気をいっぱい吸い込んでからゆっくり吐いた。


「ひどいぞ顔」

「うるさい」

 わざわざ言わなくてもいいのに、ほんとデリカシーがない。


「ギィロにはわからないんでしょ」

「そうかもな……なんか殴られたし、悪いことしてる気分になったよ」

「んふふ、泣かせたら許さないぞ!」

 思い出すと笑えてきて、私は真似してギィロの背中にパンチした。


「"困らせたら"な」

 ギィロは少し笑いながら訂正する。


「そうだっけ?……でも来てよかったでしょ?」

「俺も世話になったしなあ」

「これから頑張らないとね?」

「うん、記事になるような……ていうか黒羅は記事になるかもな」

 と言いながら前を歩くギィロはこっちに顔を向けた。


「え、どんな?やばくない……?」

 私はハッとして顔を上げ、既に前を向いているギィロの後頭部を見る。


「さあ」

「ギィロのせいなんだからね!?」

 無関心な反応をするギィロの横まで追いついて言った。


「人のせいにするな、燃やしたのはリゼだろ」

「だから!それがギィロのせいなのに!」

「あんなになるなんてな、笑えた」

 ギィロは他人事のように笑う。


「笑い事じゃないよ……雪灯院襲われたのだってギィロのせいなんでしょ?」

「いやそれは、ほんと、ごめん」

「何したの?」

「うーん……」

 どうせろくでもないことなんだろうけど、ギィロは歯切れが悪くなって俯いた。


「もういいから、早く行こう?宿見つけないと顔あげられない」

「わかったよ」



 一週間ほどして……


「もう二部屋借り続けるのは無理だ!我慢しろ!」

「同室とか絶対無理だから!」

 私たちは壊滅的にお金がないことに気付かされた。


 開拓者は家を借りない。

 常に宿に泊まるのだ。

 開拓者にとって、家を借りたり定住する家を持つことは縁起が悪いとされていて、当たり前のことなのだ。

 私たちは開拓者ではないが、討伐系のサイドはそれに近しい存在であり、私たちも例外なく慣習にならっている。


 毎日サイドとして依頼を受けても、宿泊費と食費で何も残らない。むしろ食費を切り詰めているくらいだ。

 そして今は、質素な朝食を取りながらその事で口論をしている。


「すぐ歌聴きに行くからでしょ!」

「外せないだろ!」

「外せるよ!私はデザート抜きなんだよ!」

「それは外せるだろ!」

「外せないよ!」

「そうだ……なら有り金全部賭けるか?」

 ギィロは名案を閃いたという表情で提案してくる。


「それだけは絶対ないから……」

「わかってないな、崖っぷちだからこそ熱くなるんだぞ」

「ひとりでやって」

「なんだよ……ならせめてもう少し広いところに泊まって、別々の部屋で寝ればいいだろ、そっちのほうが安い、よな?」

「え〜、ん〜……でもこれじゃなあ……はぁ……」

 私は今日の生活費くらいしか入ってないお財布を逆さまにしてため息をついた。


「野宿すれば節約にはなる」

「え〜無理。泥から産まれてきたようなギィロは良いかもしれないけど、私は繊細なんだよ?」

 ちょうど皿に置かれているふかした芋を刺してギィロに向ける。

 遠方で宿が無かったり、外に滞在する内容の依頼はある。

 まだそういった依頼は受けたことはないけど、でもできるだけちゃんとベッドで寝たい。


「なんだよ泥からって……」

「だから土纏いがすごいんでしょ?」

 言ってから刺した芋を口に運んだ。


「関係ないだろ、ていうか泥から産まれてないんだが」

「ほーなの?……でもねえ、キャンプするとしてもテントも絶対別々だからね?」

「リゼ、お前開拓者向いてないぞ……」

「だって!絶対変なことされるし!」

「しないだろ!……いや、それよりさ、大きな依頼をやるのはどうだ?」

「ん、それは賛成」

「なら食ったら探しに行こう」

 私たちは少ない朝食を腹に詰め込み、報酬の良い依頼を見つけに開拓者組合へと向かった。



 開拓者組合に到着したら毎回依頼を探す前にチラシ類を確認する。

 ギィロは普段大雑把なくせに、意外とそれに関してマメだ。

 情報収集を大事にしているか、歌のイベントがないか確認してるかどっちかだと思う。


「おい、黒羅の記事だ」

「えっ?どんな……」

 私は持ったチラシをすぐに置き、ギィロの肩の横から頭を突き出すように覗きこんだ。

 ギィロが記事を読み上げる。


「"黒羅旅団解体"3日早朝、ミケウリリア雪灯孤児院を襲撃した黒羅旅団は同日、ミケウリリア様の出動によりその場で制裁が加えられた。孤児院に目立った被害はなく、黒羅旅団リーダーであるドルレス・ボガはザイレルに移送された……」

「私たちのことは?」

「……ないな、書かれてない」

「よかったぁ……」

 胸をなで下ろした。

 

 記事ではミケウリリア様が解決したことになっている。


「ミケウリリア様は私たちを庇ってくれてるよね?」

「そうなのかもな」

 ミケウリリア様はマーニャさんにすら私たちのことを伝えてない様だった。

 手柄はなしだけど、変な噂が付くこともない。

 それならこれからの活動に支障は出ない。

 ミケウリリア様の優しさと機転には感謝しかない。

 為政者として、自分や自分の周りの人とは別格の、何か測れないすごさを感じた。


 

 情報収集は一段落して、私たちは依頼板で報酬額の良い依頼を探し始めた。


「この私的依頼はどうだ?なんかの卵の確保。すごいぞ」

 ギィロが一枚の私的依頼を指差す。


「ユメミの卵、これ超高級食材だよ。報酬やば。ちょっと遠いけど……」

「リゼのキャンプの練習にもなりそうだ」

「うーん……やってみよっか?これだけ貰えるならやる価値あるよね」

「よし、なら……」

「あ、でも待って、これ組合からリング指定つけられてる。私付いてないし、ミューレにもないよ」

「めんどくさい制度だな……」

 私的依頼に組合から指定がつけられてるということは、危険であると判断されたということだ。

 実力があったとしても、未成年で信用がないミューレではそういう依頼は受けられない。


「あの、ミューレって、お二人はもしかしてギィロさんとリゼアノートさんですか?」

 突然、後ろを歩いていた組合職員のおねえさんに声をかけられた。

 

 名指しで呼び止められる心当たりなどない。

 いや、ある。

 まさかほんとは私刑をしたのがバレていて、強制労働が科せられたりペナルティが付くのでは……とか瞬間的に思った。


「はい、そうですけど?なにかありましたか?」

 私は出来るだけ冷静に答えた。


「お二人に預かりものがあります。カウンターまでお越しいただけますか?」

 ギィロと疑問の視線をぶつけ合った。


「なんだろ?やばかったりする?」

「大丈夫だろ?」

 雰囲気的に刑罰ではなさそうな気がするけど、おねえさんについていきながら小さな声でコソコソした。


 私たちは案内されたカウンターでしばらく待つと、裏からおねえさんがトレイを持って戻ってきた。


「はい、こちらです。宮殿からミューレのお二人にと」

 おねえさんがカウンターに置いたトレイには、白いリングが三つのっていた。


「これは?」

「なんだ?」

「ミケウの勲章リングですね」

「えっ!?」

 おねえさんは美しいスマイルで言い、私は驚いてギィロと顔を見合わせた。

 勲章リングなんて聞いたこともなかったけど、"勲章"なんて、なんだかとんでもなくすごい気がした。


「見てもいいですか?」

「どうぞ」

 美しいスマイルのまま言われ、ひとつつまんで見てみた。


「わぁ、キレイ……」

 手に取ってよく見てみると、真っ白のリングに黒で花の模様が描かれている美しいリングだ。

 黒の一部は光の加減でキラキラする。

 手が込んでる。


「ねぇほら」とギィロにも見せつけると、ギィロも目を大きく開いて「よく出来てるな」と言う。


「こんな珍しいリングが与えられる公式依頼は記憶にないんですけど、最近なにかされました?」

 首を傾げて指を頬に当てるおねえさん。


「あっ、はい!しました!……あーでも、詳細は秘密なんです」

 私はよだれが出そうな顔を引き締めて返事をし、ギィロの顔色を確認してから、心当たりを伏せた。


「そうだったんですね。はい、じゃあこれが個人のやつで、こっちがパーティ用です。お付けしますね?」

「はい!ありがとうございますっ!」


 私たちの個人札とミューレの札に、思いがけずリングが付いた。

 ギィロのリングは二つ目だ。


 私たちはリングの付いた札を受け取って眺めた。

 私は何度も札をひっくり返したりしてリングが揺れるのを楽しんだ。

 ギィロも二つのリングが並んでいるのを満足気にしていた。


 ニヤニヤ顔を突き合わせる。


パンッ!


 言葉もなく笑顔の上で手を合わせる音が一つ響いた。



「ミケウリリアもなかなか気が利く」

「ほんと、頭があがらないよ」

 さっきすごい人だと思ったばかりなのに、計り知れないすごさだ。

 私たちはそのままユメミの卵採集の私的依頼にミューレの札を貼り付けた。


「怒ってないなら宮殿いけばよかったかも」

「お前な……」

「う〜そ。出発する前にリング祝いで美味しいもの食べようよ」

「いいな、どうせ依頼で金がはいる。問題ない」

 私たちは我慢するのをやめた。

 依頼失敗の可能性のことなど頭にはなく、お腹いっぱいになりに街に出た。



 入ったお店のテラスで、依頼の目的地までの道のりや、必要なものなどについて話し、満足気にのんびり食べていると、一人の妖艶な女性が脇を通り、ギィロの横でピタッと止まる。

 歓楽街みたいな甘い香りが遅れて鼻をかすめる。


「あら、あなた、枝の?やっぱり運命なのかしら……」

 女は目を輝かせてギィロに向かって話しかけた。


「……んっ、げほっ」

「……だれ?」

「いや、知らないな、人違いだ……げほっ」

「間違えないわよ」

 ギィロはむせ、女は異常に発達した大胸筋を強調するようなポーズで不満げな顔をした。


「どっかで見たことある気がするんだけど……」

 聞こえるか聞こえないかのギリギリの小声を、思い出すために自分に向けて出した。

 近くで顔を見てもわからない、けどやっぱりどこかで……


「なに?あなたもしかして、枝の彼女?」

「ち、が、い、ま、す」

 お決まりのことを言われて、お決まりのセリフを強めに返した。


「あらそう、ならいいの」

 女は私から興味を失ったように髪を振り、ギィロの方へ向き直ると、ねっとりとした口調で嬌態を呈する。


「枝のギィロぉ?ちょっと若すぎると思ってたんだけど、あんなに強いんだもの、黒羅の奴もやっつけちゃって、痺れた。私つよい人、好きなのよ」

 女から思いがけず黒羅という単語が出てきてハッとした。

 あの時、赤ちゃんを抱いていた女だと、わずかな記憶が告げる。


「黒羅の奴すっごい怒っちゃって、大事になっちゃってごめんなさいね?赤ちゃん、かわいかったぁ……ねえ?埋め合わせするから、今から私と来ない?」

 女は遠慮なしにギィロに触れ、誘う。

 女というケモノの誘惑を見た。


「ちょっと……?どういうこと……?」

「しらないしらない……」

 ギィロは残った食べ物を口のなかに急いでつめこんで手を振った。


「なんでそんな事言うのよ、あの日はもっと積極的だったじゃない?続き、しましょうよ?」

 女はギィロの腕を取りやわらかく組む。


「ギィロ、説明して……」


 雪灯院が襲われた理由。

 みんなを危険にさらし、命をかけて戦う羽目になった理由。

 頑なに言わない理由の形がぼんやり見えてきた。


「……ちょっと、用事を思い出した!ごめん!」

 ギィロはガタッと席を立ち、女の絡んだ腕を振り払って逃げていった。


「は!?ちょっと!待ちなさいよ!」

 私も続いて立ち上がり、妖艶な女を押しのけて、逃げるギィロを追った。


「なにもしてない!うそじゃない!」

「なら止まりなさいよ!」


 道行く人は何事かと視線を送るが、すぐに自分の事に戻っていく。


「バカギィロー!」

 

 二人の慌ただしい声と足音は、よくある日常としてミケウの冷たい空気の中に溶けていった。



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