17話/黒と白は見た。
「それで、またどこかの世界を救ってきたってわけね?」
マリアの言葉が氷の刃のごとし
いかん、ちょっと口調がうつってる。
「主上の名により、褒美としてお仕えすることになりました黒です」
「不承不承ではございますが、誠心誠意お仕えいたします白です」
「え、それ名前なの?」
エリナは普通に聞き返した。
エリナってたまに凄いな。
貴族出身で平民になる予定だからと貴族の勉強はさせられなかったらしいけど、そのせいか空気の読めないことが偶にある。
「本名は田中美琴といいます」
「私は中田琴美です。」
いや、漢字逆にしただけかよ。
どうせこれも偽名だろ。
「あら、ちょうど逆になってるなんてすごい偶然なのね」
母さん。適当に名乗ってるだけだろうからそんなに関心せんでも。
「そうなのですよ、奥様。私と白はまさに運命共同体」
「しかも同じ誕生日なんですよ」
やたら興奮してるけど設定盛ってくるなよ。
「すごいのね。ハルトのお世話をしてくれるって言うし助かるわ~」
「救世の英雄様ですからお仕えするのは当然です。」
「主上に危害が及ばないのであれば感謝は行動で示します」
いちいち交互で話す黒と白だが、ザガニだけは鋭い視線を向けていた。
「ご主人さまのお世話は遠慮してもらおう。ご主人さまのお世話は私の生きがいだ」
冷たい声で宣言した。
「そこまで気になさらなくても好きなようになさればよろしいのに」
向けられる信頼に困ったように笑うアマンダさん。
「主人への忠誠心を理解する者が居るのか」
「我らはそちらの気持ちを尊重しましょう」
「ありがとう」
なにやら従者同士でわかりあったようだ。
掃除についてはマールが魔改造した掃除ロボットが活躍してるので、特になにかしないといけないこともない。
掃除ロボットを更に改良するために、最近マールは基盤を自作することにハマっている。
先日業務用の3Dプリンターがほしいと言われて配達できないだろうって事で諦めさせると、一般家庭用の3Dプリンターをカートに入れてパソコン画面を見せて来た。
いらないと言うと、姑息にも少しスカートを上げて暑いわねとパタパタしてチラチラと太ももを晒してきたので、
そんな手には引っかからない紳士の俺は、さっさと自分の部屋に戻って該当の3Dプリンターを購入した。
やっぱ自作ってロマンあるよな?な?
俺があんな色仕掛けにかからない理由は紳士的で誰もが納得するだろう。
見せようとする=下品な行為
自然に不意に見える=尊い現象
だから俺に色仕掛けは通用しない。
購入したのは俺の中の制作意欲が爆発したからであって、決して色仕掛けにかかったわけでないことは理解していただけると思う。
ついでにポチったのが女性物の服が大量だったことも関係はない。
あの5人の普段着は必要だからで、背丈くらいしかわからないので適当に買ったけど、あの5人なら自分たちで手直しするだろう。
とてもかわいい服装ばかり選んだのはおしゃれを楽しんでほしいからであって、邪な気持ちなど微塵もない。
俺は紳士だからな。
風呂掃除とトイレ掃除、台所までピカピカになったと母さん達は大いに喜んだのだが、
仕事がなく落ち着かないという5人は掃除ロボットを破壊していいかマールに確認しに言って激怒されたらしい。
掃除場所が全部屋と玄関外の廊下から屋上まで拡大したのにすぐ終わらせる。
買い物まで頼まれても近すぎて落ち着かないとまで言う始末。
城下に降りて店に買いに行くつもりで同行したら同じ建物内で済んでしまったことに落ち込むなんて贅沢な悩みだと母に呆れられていた。
父は仕事から返ってくるなり黒目黒髪の大和撫子達に給仕されてデレデレしていた。
母からあら?犯罪臭がして臭うわねと冷たい視線を向けられて咳払いで誤魔化していた。
アナタだけ前の家に戻っていいのよと言われると流石に焦ってたけど。
そんななかユーライが相談してきた。
「ねぇ、ハルト。私ちょっと最近太ってきた気がするのだけど、こんなことでいいのかしら。
皆の敵を討つって決めてるのに」
「いや、普通に運動不足だろ?旅の時はずっと歩いてたから」
「そうだよね。どうしよう?」
「この建物の中に24時間やってるジムがあるからそこで運動してもいいと思うけど、魔法は使えないから体力を鍛えるくらいしか出来ないだろうな、」
「妨害されても魔法を使えるようには鍛えられないかな?
この世界で魔法を使っていけば成長できないかな?」
「そんなの考えたこともなかったな。やってみるか?」
二人で魔法訓練をすることになった。
超初級のヒールとウォーターを練習する。
攻撃魔法では危険だからな。
マイスペースを開けたり閉じたりするには魔力が足りないけど、ウォーターくらいなら問題ない。
「こんな風に訓練するのって久しぶりだよね」
「そういえばそうだな。ケルビンが修行なんて泥臭いことしてるのは二流とか言いながら実は体力がなくて魔力を身体強化に使ってある意味修行してたのは笑えるけど」
「そうだったね。邪神戦の前に宴会して暴露大会になった時に初めてハルトが言ったから、知らなかった私とカールが笑いを堪えられなくてケルビンは真っ赤になって怒ってたね。」
「そんなことしてないって必死に言い訳してたけどな」
「あとはカールの足が臭いとか」
「何だかんだあいつらとの旅は楽しかったからな」
「そうね。だからこそ私は絶対に許せない。彼らを殺した邪神が。そして死なせてしまった自分自身が」
悔しさと痛みの混じった表情で床を見ながら呟いた。
「そう気負うなよ。一人で戦うのは無理だ。俺とユーライだけだと厳しいと思う。」
「ここの皆を巻き込むつもり?」
「それは考えてないけど、武器でも何でも今より良い装備や神の助力でも取り付けられたらとは思って、経験値にはならなくても異世界に呼ばせてるわけだ。」
「そう。ここの皆は巻き込まないのなら良いわ。でも、私を連れて行かないっていうのはどうして?」
「だって、お前攻撃力ないじゃん」
「あるわよ」
「メイン回復だと俺に甘えが出そうな気がするからな」
「なら、私も願ってみようかしら。困ってる世界があったら呼んでくださいって」
「やめとけ。結構ろくでも無いぞ」
「馬鹿にしてるの?」
「そうじゃないって。人間の汚さを見てると邪神と同じ様に感じて滅ぼしたくなるって意味だ。」
「邪神みたいにはならないでよね」
「わかってるよ」
そう言ってウォーターに集中した。
バケツを満タンにしたら栓を抜いた風呂に流すことを続ける。
せめて何かしらのきっかけでも掴めたらな
そんな俺達の様子を黒と白は隠れてじっと見ていた。
俺は気づいているけどユーライは気づいてないだろうな。
まぁ、寝首をかきに来たって様子でもないし好きにさせるか。
―――黒と白―――
「今の話は本当でしょうか。」
「本当なのでしょうね」
神妙に頷く白
「あんな力を持っていて倒せない敵ですか」
「普段から魔法修行ですか」
「「え、そっち?」」
「もし、あの時私達が殺していたら」
「邪神とか言うのに滅ぼされる世界が増えていたって?」
「主上は見通していたのかもしれませんね」
「不思議と人を見抜けるお方ですから」
どちらともなくふふっと笑う。
「であるならば」
「私達は」
「「世界の平和のために本気でお仕えしましょう」」
そしてまた笑う。
「あわよくば、私の体を差し出して主上の平和を守ってもらいましょう」
「主上を言い訳に使うのは良くないわよ」
「それはだめよ」
急に背後から声をかけられて驚いた。
「マリアさん?」
「背後を取られるなんて」
「彼は順番待ちよ。横入りはダメ」
「え、それって」
「あんなに怒ってたのは」
「そういう事はいいからちゃんと順番は守ってね」
「「はい」」
笑顔の迫力にそう答えるしかなかった。
―――マリア―――
はぁ、それにしても一体何人たらしこむのよ。
世界を救ってくれた英雄だから女の子は気になるものだと思うけどさ。
今度のあの二人までなの?
人を連れてくる度に腹立たしく思ってしまう。
そりゃあいろんな立場とかあると思うし、何てことなさそうに世界を救ってくれた姿はかっこいいと思うよ。
でも、限度ってあるじゃない。
それに何よ、この世界。
ここでは英雄でも何でもないらしいけど何でも揃ってて困ることもない。
こんな生活ができるのも彼がお金持ちだかららしいし、どこまで完璧なの?
もっと駄目な人で女の子が見向きもしない人だったらこんな気持ちにならなかったのかな?
そう思うとなぜか少し悲しくなって涙がこぼれた。
聖女って言われても彼みたいな力があるわけじゃない。
それに、あの世界は、助けてくれた恩も忘れて酷いことを言った。
未練なんてないからもういいけど、本当の意味で彼に謝ってない気がして心苦しさを感じてる。
ちゃんと謝るタイミングを測っていると次々と女の子が来て仲良さそうに話してるのを見るとモヤモヤして。
今度二人で出かけるように誘ってみようかな?
デートにしては近場というか、家の建物の中だけど、おしゃれなカフェがあったんだよね。
彼を見つめながら一緒にパフェを食べよう。うん。




