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ダメカワピンク救世主伝説/  作者: 人藤 左
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vsビーストマスター(2)/pain,(blood)rain,It's all mine!

 どこから説明したものか。


「パルマ・アウローラ! ダメだろう、死んだなら死んでいなければ!」


 まずはゲゴの依頼を達成したかどうかを確認する役が必要だろう、っていうのが一つ。

 御者は帰っちゃってるし、本当にアルキケダマをやり過ごして見に行ったのかを知るなら、見張りがいるはずだ。


「死なないから死んでないんだろ、ボクは! やれるもんならやってみろ、コティ・コモン=ローチ!」


 次に教育されたアルキケダマたち。教えたやつがいるってことじゃん。アンナちゃんの言ったように、前のボクがそうだったように、他の人たちがそうだったように、バカを相手にした下衆な娯楽のために、ずいぶん手が込んだことをするもんだ。


「追いつけるもんならな!」


 最後に、『統一言語論』での脅しが通じなかったアルキケダマたち。死ぬより怖いことがあった彼らの、その畏れは、間違いなく教育係にして見張り役のコティに違いない。


 その証拠に、『ラプラスの魔』で視るまでもなく、攻撃のクセが一緒だ。身長187センチ体重95キロか。そりゃ石斧振ってりゃ勝てるよな。


 アムテキレス様は、この男と戦っていないらしい。技術を借りることはできない。これもボクの想定通り。


 ……前にボクがここで死にかけていたところを助けてくれたパーティーは、『庭』を調べた帰りだったという。なら近くにマオちゃんの『庭』が伸びてきてると踏んだけど、大当たりだ。ヘアピンを通して曖昧なカンジがビンビン伝わってくる。


 ボクがいくら逃げても、本名を知られたコティは追って殺しに来る。嬉しいことに、入ったらロクな目に遭わない『猫の庭』にさえ!


 ざざざ、と脛まで伸びた草の中を駆け、ウロコイヌの巣穴近くに出る。


「……しっつこいなぁ……」


 大男だからと少しナメてたけど、見た目相応に筋肉と体力はあるようだ。こんだけ走って息一つ切らしてないや。……ボクも切らしてないな。なんでだ?


「しつこくもなるさ。どういう理屈か知らんが……。貴様は生きていてはいけない」

「すごい言い草だな」


 それも仕方ないか。突然あなたの名前を知っています、だなんて、振り向いたら嫁と子供を人質に取られているようなもんだ。『ラプラスの魔』様々だ。


「それより、後ろ、いいのかよ?」

 コティの背後には、ウロコイヌが忍び寄っている。殺されはしないだろうけれど、もう戦えないくらいにはなるはずだ。そうなったところを『統一言語論』で撃退、アルキケダマに次のボスがボクだってことを認めさせ――


「この程度、造作もない」


 ニヤリと笑って、コティは振り向きざまに石斧をウロコイヌの頭に叩きつけた。耳に残るイヤな音を立てて、夢に出そうなくらい恐ろしい痙攣をして、ウロコイヌは崩れ落ちる。


 …………やべ。


 肉と骨を突き破りその中にまで届いていた斧の刃先には、ねばねばした赤い液体が糸を引いていた。一発くらいなら大丈夫だろうと思って喰らわなくて正解だった。


 策がない。というわけでもない。


 それこそボクが【失せろ】とでも言えば立ち去ってくれるだろうが、その後の洞窟探検はできなくなってしまう。ボクが『統一言語論』を使えるのはあと一回か二回がせいぜいだ。それ以上はまた血を吐いて倒れるだろう。


「【したが――、

 服従させる命令もダメだ! コティはゲゴの私兵なのだから、先ほどのアルキケダマにやったように失敗するかもしれない。


 汗ばんだ首元の、チョーカーが少し苦しい。

 …………。

「あー、…………あぁ。ヤダヤダ」


「……なんだ?」


「別に。ワンチャン、ボクが上手いことお前をやっつけるってのに賭けるしかなくなっちゃっただけだよ」

 やれやれ、と肩をすくめながら、ボクはコティに歩み寄る。


「く、来るな!」


 コティはボクが実際どこまでやれるか知らない。アルキケダマを制した体術を警戒したのか、怯えながら、しかし正確な一振りが、ボクの無防備な首筋に向かう。


 これを、ボクは右手の平で受け止めようとして、ぐっちゃり肘までいかれた。


「ぃっ」

 痛い。痛い! けど!

「っ、これで!」


 俯きそうになるのを抑え、一層目の前の敵を睨みつける。


「捕まえたぞ、コティ!」


 ハッタリの左拳を振りかぶる……


「う、ウオォおおおお!」

 男の絶叫。次の瞬間、ボクの後ろの大木から、びぃぃんん……と振動する、音が――


「……フ、っ⁉︎」


 コティの左手首の装置から、ワイヤーが伸びていた。先端に(びょう)の付いているタイプで、……なるほど、普段はこれで洞窟周りを移動しているのか……ボクの左の二の腕を突き破り、そのまま後ろの木に突き刺さったようだ。


 裂かれた右、貫かれた左。


 痛みで吹っ飛びそうな意識を繋ぎ止める。そう、繋ぎ止めるのだ。


 この体はボクのもの。この血はボクのもの。


 ――イザヤが、首を落とされて尚生きていたように。


 ならどうだ? ボクの血がついたワイヤーは、木は、ボクの肉に触れているその石斧は。


 ――流血を辿って、また繋ぎ止めたように。


 ボクだ。ボクだ。ボクだ。


「ボクだ!」

 繋がっているなら、それは、このパルマ・コス=デミィデア・アウローラだ!


 拡張されたボクの認識に伴い、『スワンプマン』が発動する。ボクの血に触れたもの全てが腐るように土に還り、引き寄せられてボクになっていく。おかげでワイヤーも石斧もなくなり、怪我も治って、そして何より、その分硬く重くなった。密度? っていうらしいけど、今はどうでもいい。


 事態を飲み込めていないコティめがけて、渾身のパンチ。木を丸々一本取り込んだので、総重量三トンちょっとだ。聞いたことのない音を立てて、巨漢が数メートルほど吹っ飛ぶ。


 受身すら取らないコティ。土埃に包まれた彼は、指ひとつ動かす素振りもない。


「……やった」


 生きてる。死んでない。なんならコティのやつも、気絶しているだけで死んではいない。


「やった……!」

 今になって足腰の力が抜けてきた。思わず膝をつく。


「勝ったー! やったー!」

 跳ね回りたい気分だったが、緊張が解けたのと、なんせ物理的に体が重くなったもので、仰向けになって空を眺めるだけにしておく。


「はは。へへへ……。あれ?」

 落ち着いてきたし、コティがいつ目を覚ますともわからないので、起き上がりたいのだが。


「いや、めっちゃ重いなボク!」

 普段ヘラヘラしてるピンク髪ちゃんが痛いの我慢して勝つところが書きたかったので書きました。基本戦術その1です


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