達成ボスパルマ毒ブック
もうマジでヤバい二日酔いのときのように、芋虫もかくやという動きでなんとか体を起こすことができた。
「どうすっかな……」
総重量三トン。
色々あって、ボクの体重は本来の八十倍くらいになってしまった。ちょっとサバ読んだけど。
やっぱ切り落とすしかないのかなぁ、肉とか。でもめっちゃ痛いんだよなぁ。なんならさっき裂けたり貫かれたりしたの、まだ鮮明に思い出せるくらいだ。
「うーん……」
あんまり悩むとハゲるっていうし、考え事とかはしたくないんだけど。
「うーん…………」
でもこのままだとハゲる前にボクから根が生えてきそうだ。木だけに。なんちゃって。なんちゃってじゃないんだよ。
「あ、ハゲればいいんだ」
言い方は最悪だが、我ながら妙案だった。
そうと決まれば話は早い。後頭部に意識を集中させてみると、それみたことか、ぐんぐん髪が伸びてくるではないか。質量? とやらを取り込んで手足が生えるのだから、本来ニョキニョキ生えてくるところの髪などはもうワサワサ伸ばせるということだね。
座った状態で地面に着くまで伸ばしてみると、その先端をある程度自由に動かせることがわかった。コティの腰にあるちょっと大きめのナイフを拝借して、肩口くらいでバッサリ。バッサリ。バッサリ……
お腹が空くころには切り終えて、『庭』の一角にピンクの髪の毛の山が出来てしまったけれど、まぁよし! ついでに髪でコティを縛り上げ、洞窟まで帰る。
◆◆◆
「パルマさん!」
「アンナちゃん、ただいまー」
興奮からか、息を切らしてアンナちゃんが駆け寄ってくる。
「パルマさん、ご無事ですか? お怪我などは……あぁ、よかった。あのまま死んでしまったかと……」
安堵のため息をつきながら、執拗に右手を撫でるアンナちゃん。イザヤといい、めっちゃ腕撫でてくるけど、そんなにいいのか?
……ちょっと違和感があったけど、面倒だしスルーしておこう。それより、だ。
「うん。うん。ちょっと待っててアンナちゃん。いま仕上げるから」
肩を押さえて令嬢ちゃんを宥めると、ボクはなんとか引きずってきた大男をゴロゴロ転がしながら、巣になってる洞窟の前へ。
「やぁやぁやぁ! 諸君!」
「パルマさん⁉︎」
「アルキケダマたち! 今日からボクがボスだ! 従え従え!」
暗い穴の中から窺ってた連中が、ゾロゾロとボクの前に並び出す。
「■■■ー!」
その中の一匹、特に大きなボス格らしきやつが、讃えるように吠えた。
「■■■!」「■■■!」「■■■!」
翻訳するまでもなく、承認と歓迎の意思が伝わってくる。これがギルドのみんなだったら最高だったんだろうけど、これはこれで気分がいい。
「えへへ……」
合唱は鳴り止まない。
「……そろそろ静かにしてほしいんだけど!」
「■■……」
…………言葉通じるのかよ!
どうやらボクの言ってることを理解してるらしいアルキケダマたち。教育が行き届いているということだろう。
「こんなことが……」
ボクとアルキケダマたちを交互に見やるアンナちゃん。
「違うからね。コレ多分、コティが教えたことだからね。ボクがアルキケダマと話せるわけじゃないからね」
「あ、はは……。そうですよね、すみません」
できるかできないかで言えばできるのだが、それはそれだ。
「ボクたち、この奥に用があるんだよ。入っていい?」
どれ――というのは失礼か。誰にともなく問いかけると、首領くんが少し小柄な子に目配せする。その子は少し喉を鳴らしてみせたが、伝わっていないだろうことを察すると、自らの腹と胸をさすった。
なるほど。
「子供いるんだ。いいねぇ。元気なの?」
とても嬉しそうな首肯で返される。
………………、なんか面倒だな。通訳がいるでもないのに通訳を介してるカンジ。
中にはまだ小さい子供がいるから配慮してほしい、というのが彼らの主張だ。危害を加えれば……というのは、周りのオスたちの武器を握る拳から伝わってくる。
ボクたちはそもそもアルキケダマに興味がないので、その辺を説明して中に入っていく。
「こちらではないでしょうか」
「うん、ありがとうねアンナちゃん」
中の案内はアンナちゃんが買って出てくれた。どうも迷路の類は得意らしい。
時折通路の端にヒトのものらしき骨が押しやられているのを見つけてなんとも言えない気分になったが、無事なんかそれっぽい台座のある部屋に着いた。
「本?」
「本、ですね」
洞窟に似つかわしくない儀式的な台座の上には、一冊の本が布に包まれて置かれていた。
「うーん……」
「パルマさん?」
「ちょっとだけ読んでもよさそうじゃない?」
「読むと言っても、これ魔導書ではないですか? パルマさん、読めるんですか?」
期待がないわけでもない、くらいの視線。
魔導書が読めると魔術が使える。魔術の素養がないと魔導書は読めない。難儀難儀。
「や、読めないけど。でも多分、書いてることはわかる……はず」
そんなわけで固い表紙を開き、柔らかいページをめくっていく。
やっぱり読めない。
けど、左目は別だ。『ラプラスの魔』は違った。
本を上下逆さに読んでいるようなグラグラの中、しばらく読み進めていく。
「……やめやめ。気分悪くなってきた」
「大丈夫ですか? モノによっては精神が汚染されるものもあると聞きますが……」
「そうなの? 先に言ってよ」
「パルマさんが聞く前に開いちゃったじゃないですか」
「しょうがないじゃん。大丈夫だったし」
内容について、いまアンナちゃんに話すべきではないだろう。ボクもできれば話したくないし。
ホント、イヤなものを見た。
人間に褒められる前に魔物に崇められてしまったピンク髪ちゃんはどっちかというと不憫だろうから欲しくて書きました
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