第81話 空戦
ヘルトの空軍であるグリフォン隊は圧倒的な数的劣勢であることから戦場の中央である聖剣の上空を制圧されその状態を覆さずにいた。
覇国軍は百騎近いグランコンドル隊で空中戦列を築き、その後方から弓兵部隊が前進していた。
空からの斉射攻撃。
これは何としても防がなければ地上にいる兵士はなすすべなく矢ダルマになるのは想像にかたくない。
空には五騎、地上待機の五騎が飛び立っても、騎乗部隊は十騎に過ぎない。
しかし、十騎では、仮に突破できたとしても、すべてを止めることは不可能だった。
ついに地上で待機していた五騎も、援軍として飛び立った。
後から飛び立った五騎を見て、グランツは呆れたように笑った。
「はっ。手が足りないとは言え、手懐けていないグリフォンを空に放つのか?」
その後ろにはまだ三十体のグリフォンが空を飛び始めていた。
しかし、ブレイブ城上空で聖剣の周囲を自在に飛ぶ姿を、自らの目で見ている。さらに、自ら手懐けたことで、その知能の高さも知っていた。勝算は十分にあった。
しかし、実行するレイジの度胸に内心感心をしたが、すぐに切り替え部下に指示を出した。
「総員、三十体のグリフォンに合わせて相手に飛び込む。我々は左右から挟む!」
ヘルト空軍は合流すると同時に二手に分かれ覇国空軍を囲むように展開した。
次の瞬間、城から解き放たれた三十体のグリフォンが一斉に空へ躍り出た。
誰一人騎乗していない。
それでも彼らは迷うことなく、覇国空軍へ向かって一直線に飛び始めた。
「総員、気を引き締めろ。相手は帝国、王国、我々と同様、正規の空軍同士の戦いだ。グリフォンはグランコンドルより強い。必ず4対1で対応しろ」
覇国空軍の指揮官はすぐさま両サイドに展開し出したヘルト軍に視線を移した。
「敵の指揮官は空での戦闘が初めてであるが、無能というわけではないようだな」
ヘルト空軍は相手が中央を守るようにして展開しているのに対し、これを包囲するように展開を開始した。
これにより、覇国空軍は数の利を生かした大規模に軍を展開しづらくなった。サイドの敵が少数であるとは言え、グリフォンという未知の強さから小規模な構成はリスクとなる。
「団長に伝えろ。敵指揮官は俺が抑える」
その場にいた覇国軍の部隊指揮官は近くにいた部下に声をかけ、頷いたのを確認するとすぐに敵の指揮官へと急行した。
「空は初めてだろ。驚くほどの腕前だな」
グランツの前に覇国軍の兵士が声をかけた。
「いや、私なんて大したことないさ」
「謙遜か。いいだろう」
謙遜では無かった。
グランツは自身の腕を誇る前に圧倒的な強さを知っていた。その人物と比べると自分の強さに絶対的な自信がなくなった。
「一度、あの人を見ればわかるさ。ほんの一瞬で強さの頂だとわかる」
直接戦ったことはなかったが、見ただけでわかるほどの強者としての風格がレオンにはあった。
「………たしかにあれには戦場で会いたくないな」
目の前の猛者が戦わずして謙遜するほどの人物。想像に難くなかった。先ほど戦いを上から見ていてもわかった。
「せっかくだ、名乗ろうか。グランツ・レビだ」
「グランコンドル隊、第2連隊隊長カエルムだ」
先ほどまで会話をしていたが打って変わり、互いに真剣な眼差しで名乗り、お互いの出方を待った。
二人は互いに距離を測るように旋回した。
その均衡を崩したのはグランツ。
グリフォンが真っ直ぐにカエルムが乗っているグランコンドルに飛び込んだ。
カエルムは最小限の動きでグランツの攻撃を避けた。空中戦慣れしているからできる完成された動きだった。
すぐさまカエルムは懐にあった剣をグリフォンの上に乗っているグランツに向けて振り切るが、グランツも手に持っている槍で応戦し、金属のぶつかり合う高い音が空中に響いた。
カエルムは今の一撃で確信をした。
グランコンドルではグリフォンに対して圧倒的に不利であり、熟練の乗り手である自分が、未熟な乗り手の攻撃を防ぐのですら集中力を必要としていた。
「まさか……飛ぶだけではないのか。空で武器まで振るえるとは」
「ああ、かなり練習したからな」
空ではグリフォンとグランコンドルが幾重にも交錯し、剣戟と悲鳴が入り乱れた。
戦場は完全に乱戦へと変わっていく。
このとき戦闘が始まった朝から太陽は徐々に頂点を通り越して傾き始めている。
◆ ◆ ◆
地上では両雄の声が互いに聞こえる位置まで来たところで停止した。
しかし、両者は一言も発することなく徐々に歩みを進め、互いに笑いながら武器を振り上げた。
両者の武器がぶつかる。鍔迫り合いとなりお互いが剣越しで鋭く睨み合った。
「お前の実力を見せてみろ! カイン・ヘルト!」
「真正面からの力比べは、あまり得意ではないんだがな」
リカルドが大口を開けて鋭い牙を剥き出しにして豪快に笑っているのに対して、カインは軽く引き攣ったような笑みを浮かべた。




