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第80話 覇国の将

ルブラは、目の前の石像に違和感を覚えていた。


「あの石像、一向に背面を見せない」


しばらく、ゴーレムが自軍の兵士を蹂躙していく様子を観察していた彼女の脳裏に、一つの疑問が浮かぶ。


仮に全身が無敵ならば、前線へ突出させ、敵陣を強引に突破させるのが最も効率的なはずだ。


だが、敵はそうしない。


――それこそが、何よりの証拠だった。


しかし背後を取るには、ヘルト軍を押し込み、石像だけを孤立させる必要がある。


「まずは情報を集める。銅鑼を鳴らせ」


ルブラの指示を受け、覇国軍右翼で突如として銅鑼が鳴り響いた。


その音に、ヘルト軍の動きが一瞬だけ鈍る。


だが、すぐに戦闘は再開された。


「止めろ」


ルブラは短く命じ、銅鑼を止めさせた。


その間も、彼女は石像の挙動を静かに観察していた。


そして、口元を吊り上げる。


「弱点を見つけたぞ。私に続け!」


ルブラは即座に陣頭へ立つと、覇国軍左翼の重装機動歩兵へ視線を向けた。



  ◆ ◆ ◆



フロガは、リカルドの演説後、実際に石像の動きを目の当たりにしていた。


「俺には、これを打破する策も洞察力もない。ならば信じられるのは、己の直感のみだ」


考えるより先に、身体が動いていた。


左右の腰にサーベルを一本ずつ携えた黒狼は、一筋の線となって石像へ突撃する。


石像の周囲では、部下たちが必死に武器を振るっていた。


だが、それに対する石像の動きは変則性もなく、一定の速度で兵士を押し潰していくだけだった。


もっとも、その動きは決して速くない。


密集さえしていなければ、十分に回避できる程度の速度だった。


フロガは兵士たちの間を割って進み、石像の目前へ辿り着く。


そして石像を見上げると、狙いを頭頂部へ定めた。


石像が巨大な腕を振るう。


その瞬間、フロガは近くの兵士を踏み台にして大きく跳躍し、石像の腕へ飛び乗った。


石像は振るった腕をゆっくりと振り上げる。


だがフロガは、姿勢を低くすることで巧みにバランスを保ち、振り落とされることなく耐え切った。


石像の動きが鈍いことを確認すると、今度は腕から頭部へ飛び移る。


「フロガ様!?」


「なっ……なんだ、あの動きは?」


両軍から困惑の声が上がる。


だがフロガは意に介さず、石像の頂上で身を低くしながら周囲を見回した。


すると、石像の背中側に、不自然な突起が存在していることに気づく。


「なるほど。原理はわからんが、誰かが船のように操縦しているわけか」


すぐに主君であるリカルドへ伝えるべきかとも考えた。


しかし、丘から戦場中央――聖剣の光へ向けて駆けるリカルドの姿を見て、考えを変える。


「リカルド様! ここは俺が止めます!」


フロガは即座に突起部分へ飛び移り、その下を覗き込んだ。


「貴様が操縦士だな!!」


「っっっ!!!」


声を聞いたヴァイス・ハイトは、悲鳴にもならない叫びを漏らす。


しかしフロガは意に介さず、即座にヴァイスを叩き落とした。


同時に、ゴーレムの動きが停止する。


「何もわからん」


フロガは操縦席の装置を見回したが、仕組みは理解できなかった。


ならば、と。


彼は即座に装置へ拳を叩き込み始める。


「これで、こいつは動かんだろう」


フロガは操縦席から離脱しようと外を見回した。


だが、周囲のヘルト兵たちは、操縦席へ向けて一斉に弓を構えていた。


「くそ……どうしたものか」


そこで、フロガは不意に笑みを浮かべる。


あれだけ派手に暴れたのだ。味方にも見えていたはず。


そして、ここは覇国軍の右翼。


フロガは結論づけた。


その場で、大きく一度、口笛を吹く。



  ◆ ◆ ◆



「……やむを得ん。重装機動歩兵を半数に分け、ヘルト軍右翼を押し込ませろ」


ルブラは一瞬、レオンという男の存在を思い浮かべた。


だが、いかに強者とはいえ、所詮は一人。


あれほどの戦闘を続けている以上、疲弊しているはずだった。


仮にまだ動けたとしても、周囲の兵たちは疲労困憊している。できることには限界がある。


もっとも、危険であることに変わりはない。


警戒の意味も込め、重装機動歩兵の半数はそのまま対処に残した。


「あの男は後回しだ。何か動きがあれば、すぐ私に伝えろ」


監視役へ命じると、ルブラは再びゴーレムへ向き直る。


そこから、覇国軍の動きは一変した。


重装機動歩兵が加わったことで、左翼は猛烈な勢いで押し込みを開始する。


ルブラは前線へ移動しながら指揮を執り、側面からゴーレムを観察した。


そして、背中部分に人影を確認する。


「やはりか」


推測が、確信へ変わった。


銅鑼を鳴らしたのは、敵へ警戒を促すためだ。


突発的な音に対し、人は見えていようといまいと、必ず反応する。


そして実際、ゴーレムだけが一拍遅れて反応した。


兵士たちよりも、明らかに反応が遅い。


つまり――操縦者は前方を直接見ていない。


さらに、銅鑼が鳴っている間、ゴーレムの動きには微妙なズレが生じていた。


だが、音が止んだ後には、そのズレが修正されている。


ならば、声による情報共有で操縦している可能性が高い。


この石像は、徹底した秘密主義のもとで開発された兵器。


だからこそ、特殊状況下での連携訓練までは十分ではない。


そう推測したルブラは、検証を重ねた末に、ついに石像の弱点へ辿り着いた。


「今だ! 石像の背面へ、ありったけの矢を撃ち込め!」


号令と同時に、すでに弓を構えていた兵士たちが一斉に矢を放つ。


石像へ、矢の雨が降り注いだ。



  ◆ ◆ ◆



ゴーレムに乗っていたカールは、側面を急激に押し込んできた敵へ向き直ろうとした。


だが、ゴーレムの反応速度は、彼の判断に追いつかない。


そこへ、矢の雨が直撃した。


「まさか……見抜かれたのか……!」


日頃の訓練の成果で急所こそ避けたものの、もはや戦闘を継続できる状態ではない。


覇国軍の的確な対応によって、二体のゴーレムは完全に停止した。


そして戦場の行く末は――


戦場の行方は、中央の英雄たちと天空の戦いへ託された。

最近の更新頻度からお気づきの方もいるかもしれませんが、今後は五日おきを目安に更新していく予定です。

これからも楽しんでいただければ幸いです。

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