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第79話 両雄

戦場の上空では、グリフォンとグランコンドルによる制空権争いが激しさを増していった。


「流石に経験の差は大きいか」


四方だけではない。


上下すら含めた三次元の戦場。


地上戦とはまるで違う立体機動の中、グランコンドル隊は容赦なく襲いかかってくる。


グランツ率いるヘルトのグリフォン隊は最近ようやく飛べるようになったものがほとんどであり、体力という面でも課題があった。


また、相手は数の優位性を生かして、確実に勝てるように波状攻撃を繰り返している。


接近して一撃を加える。


その直後、急上昇。


グランコンドル隊は、一撃離脱を徹底していた。


「団長。戦場が徐々に本陣上空まで後退しています」


下を見下ろすと、最初は聖剣の上空で戦っていたはずが本陣が視界に入るほどまで後退していた。


「ああ、分かっている。お前ら、次の合図に合わせて上に行く」


覇国軍は、グリフォンと真正面からぶつかる戦いを徹底して避けていた。


息をつく暇も与えず、一撃離脱だけを繰り返す。


そして覇国軍は、グリフォンの下へ決して潜り込もうとしない。


爪と嘴を備えた下腹部こそ、最も危険だと理解しているからだ。


その動きを見て、グランツは確信した。


――やはり、グリフォンは空で強い。


相手に聞こえない声でグランツの声を隊員達は強く頷き、指示を待って冷静に敵が来るタイミングを待った。


「今だ――上を取れ!!」


グランツの号令と同時。


グリフォン隊が一斉に急上昇した。


「「なっ!!」」


今まで後退する、耐えるしかしなかった敵軍の行動変化に覇国軍は驚きの声を上げた。


覇国軍が見上げた先から獰猛なグリフォンの爪と嘴が襲いかかった。


咄嗟に武器を構える。


だが遅い。


グリフォンの鉤爪が、兵士ごとグランコンドルの胴を引き裂いた。


血を撒き散らしながら、人鳥一体となって地上へ墜落していく。


この惨状を見た覇国軍は先ほどまで敵のグリフォンに対して波状攻撃を中断した。


そして地上で待機していた百機のグランコンドルが、一斉に空へ羽ばたき始めた。


「まずいな」


グランツは羽ばたき始めたグリフォンの兵装を確認して手元にあった赤い木札を本陣に向かって投げた。




覇国軍の本陣。


「グリフォン………、想像以上だな」


リカルドは墜落していく自軍の兵士を見ながら、グリフォンの強さに正直な感想を何気なく口走る。


そして、聖剣の光が最前線に進んで来るのを見て、大将が最前線にでる動きを見て低く唸った。


「カイン・ヘルト!」


迷いなく進むカインを見て大胆不敵に笑みを溢した。


「貴様の覚悟と信念しかと感じるぞ。我々も出し惜しみは無しだ。グランコンドルの遠距離部隊をすぐに飛ばせ、空中から蜂の巣にしてやれ」


本陣の裏側で待機してきたグランコンドルが空高く羽ばたき始めた。


目標は聖剣の上空。


カインの光目掛けて矢を放つために。


「……死んでも恨むなよ、カイン・ヘルト」


リカルドは真剣な表情で聖剣の光を一瞥。


だが、すぐに視線を外し敵本陣を見据え相手の優秀な指揮官が打つ次の手に思考を巡らせる。





皇国軍の本陣。


上空から降ってきたグランコンドルと覇国軍の兵士がたまたまその場にいたヘルト兵を押し潰した。


周りの兵士は初めての惨状に腰を抜かし動けない状態でいた。


「何人か、敵の空軍の下敷きになったか。すぐにそいつらをどかせ」


すぐにレイジが声を上げてようやく周りの兵士がふらふらになりながら作業を開始した。


「………予想はできていたが流石に酷いな」


原形すら分からなくなった肉塊を見下ろしながら、レイジは苦い顔をした。


そこに赤い木札が落ちてきたが、地面に衝突するとその場で砕け散った。


「敵もそこまで甘くないな。全てのグリフォンを解き放て」


レイジの指示を聞き、周りにいた貴族や将官はすぐに動き出した。すでにその場にはレイジの指示を疑うようなものはいなかった。


実際、この戦場の指揮においてはレイジが覇国の指揮官と同等以上の動きをしているのは誰が見ても歴然だった。


「少し賭けになる上にリスキーだが、他でもないグリフォンだからできる話だ」


敵のグランコンドル部隊が羽ばたくのに対して間髪入れずグリフォンが空へと羽ばたき出した。


先頭5体のグリフォンには兵士が乗っていたが、残りの30体ほどは兵士が乗らずグリフォンのみで空を飛んでいた。




騎手なし。


それでもグリフォンは統率されたように飛んでいる。


リカルドは目を見張った。


「面白い。まさか空の動きに対して打てる手がまだあったとは。こうなると、聖剣を上空から狙うのは厳しくなるな」


有利な空から聖剣を止められなければ、現在の均衡は確実に崩れる。


次なる手への思考を巡らせる。しかし、対抗できる手段は一つが上がった。


「まさか、気がつけばここまで追い詰められていたか。恐ろしい奴らだ。我の打つ手が一つとはな」


空軍は相手の奇策により、未知数になった。予想通りに空から聖剣を止めるという可能性はかなりの確率で起こり得ない。


先ほど見たグリフォンの強さであれば空中戦で手一杯になる。


リカルドは周りを見回し、その場にいる将官を見定めた。


「背に腹は代えられん。貴様に総指揮を任せる。いいか、絶対に間違えるな。フロガかルブラが来ればすぐに変われ」


選んだ将官を鋭く睨み、強く念を押すように低い声で言い放った。


「かっ……かしこまりました」


選ばれた将官は大きく息を吐き出し、絞り出すように声を出した。


リカルドは馬に跨り武器を構え、そばに控えていたフル装備の兵士たちに向けて声を上げた。


「親衛隊、出るぞ。この戦場を決めるのは、大将同士の押し合いだ」


リカルドは武器を掲げる。


「我に続け!!」


親衛隊はすでに万全の状態で待機しており、リカルドが丘を下るとすぐにその後を追いかけた。


聖剣を掲げ迷いなく前を向いて進むカイン、聖剣の輝きに狙いを定めて丘を下るリカルド、両雄の視線が広い戦場を交差する。


「さあ、決めようか」


リカルドが獰猛に笑う。


カインもまた聖剣を掲げた。


「この戦場の英雄が誰かを!!」


両雄の思惑は一致した。


互いに大歓声を浴びながら戦場の中央へと強い力で引き寄せられるかのように歩みを進めた。

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